買われる少女_2
目の前に広がる光景が一瞬にして少女を現実に引き戻す。
先ほどから、一向に止まらなかった値上がりが、徐々にペースを落としていき、そろそろ終わりに差し掛かろうとしていた。
『現在の価格は7300万レア!他に入札する方はいらっしゃいませんか?』
少しの間をあけ、司会者が「それでは7300万で落札を……」と言いかけたときだった。
「8000万じゃ!8000万レアじゃ!」
ひとりの商人風の男だ。拡声器を使った司会者にも負けない声量で、司会者だけでなく、周囲の観客の注目も集めていた。
禿げ上がった頭に低身長で小太りと、おおよそ魅力と呼べる箇所のない男ではあったが、唯一目を引くものはその身に纏う高級な衣服や装飾品の類だ。
「わしの資産のほとんどじゃ。わしにゆずってくれ!」
誰に訴えているのか、周りに牽制の声あげる男。
しかし、
「8300万レア!」
「8500万!」
他の客がさらに金額を上乗せする。
先ほど収まったかのように思えた値上がりが再び始まった。
「っ……ぐぬぅ……なら9000万!いや、1億じゃ!1億だす」
後に続く声はない。
『では!1億!1億レアで落札いたします!』
司会者がそう宣言をすると観客達からぱらぱらと拍手がおこる。
少女はその商人風の男が自分を見ていることに気付いた。
まとわりつくような嫌な視線。衣服を纏っているにもかかわらずまるで裸に剥かれ、観察されているかのようだ。
気持ち悪い……全身を悪寒が走った。
さっきまでどこか他人事のように感じていたが、この男の視線を浴びたことでじわじわと現実味が沸いてくる。
自分はこの男に買われるのだと。
「さぁ、こちらへどうぞ。お嬢さん」
いつのまにか背後に立っていた司会者が少女にだけ聞こえる声音でささやいてきた。
「ステージを降りる際は足元に気を付けてくださいね」
丁寧な口調に、軽い気遣い。立場とは不釣り合いな言動が彼の不気味さに拍車をかける。
司会者に促されるままに、先ほど順番待ちをしていた場所とは逆のステージ脇に連れていかれる。
「では、後はお願いしますね」
司会者はそういいながら、他の奴隷商人に誘導を任すと、再びステージの中央に戻っていった。
『さぁ、続いての商品は先ほどとはうってかわって……』
「おい、お前はこっちだ」
ステージ脇に控えていた男が顎でこっちに来るように促してくる。
ステージの方、次の少年のことが気になって振り返り覗こうとしたが、男に手枷を引っ張られ最後に姿を見ることは叶わなかった。