表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家畜の俺が、世界を反転させるまで  作者: フミタロウ
第一章 転機の日
15/28

束の間の・・・

 どれほど走っただろうか。


 頭上に上がっていたはずの太陽が今は視線の先に見える。


 二人の奴隷が逃げたことは今や街中に広まっているだろう。

 街の喧騒を遠くに感じながら、二人は人気のない路地裏で腰を落ち着かせていた。

 もはやここがどこだか分からないが、ただなんとなく街の外れに位置しているような気がする。


 逃げ切ったのだろうか……


 拭えぬ不安と緊張。違和感が頭から離れない。寄り道をした割にはうまくいきすぎている気がする。


 少年は気を抜くことなく周りに注意を払う。


「大丈夫。ここには誰もいないよ」


 少年の心中を察したのか、隣にいる少女がそんなことを言ってきた。


「何でわかるんだよ?」


「わかるもん」


 答えになっていない返答に半ば呆れつつも、少し緊張の糸がほぐれた気がした。



「ありがとう……」



 少女が不意に言葉をかけてくる。



「……いいよ別に……」


 お礼を言われるとは思っていなかったが、言われた理由ならわかった。気恥ずかしさを隠すように素っ気ない返事を返したが、少女の方はそんなことお構いなしに言葉を続ける。


「どうして助けに来てくれたの?」


 そう言ってじっと少年の方を見つめる少女。


「それは……」


 上手く言葉が出てこなかった。


 どうして、自分はこの少女を助けに向かったのだろうか。もし見捨てていたら今頃街を出て自由になれていたかもしれない。確かにあのとき、一瞬の迷いがあったことを覚えている。

 それでも、結局は少女のもとに向かった。体が勝手に動いたというやつだ。


 しかし、それをそのまま言うのは流石に恥ずかしかった。


 むず痒い沈黙。


 このまま言葉に詰まっているのも格好が悪いので、少年は無理矢理に理由をこじつける。


「……名前……」


「え?」


「だから、名前……お前名乗ろうとして最後まで言えずに、連れていかれただろ?それが気持ち悪かったんだよ……」


「それだけ?」


「あぁ、それだけだ……」


「そうなんだ……」


 少女は何とも言えない表情をした後、気を取り直したかのように口を開く。


「私の名前は……」


「知ってるよ。マリンだろ?」


「違う!」


 少女は全力で否定する。


「それはあのおじさんが勝手にわたしにつけた名前!わたしの名前はナリア!」

 

「ナリアか……」


「うん、あなたは?」


「おれはリン」


「……リン……うん!覚えた……絶対忘れない……」


「おおげさだな……」


「おおげさじゃないよ……だって、やっと聞けた」


「そんなに知りたかったのか?」


「うん。ずっと前から」


「……変な奴……それよりも、これからどうするか考えないとな」


「リンは行きたい場所とかあるの?」


「とりあえず吸血鬼のいない方向だな……」


「リンは吸血鬼に買われてたんだよね……なんか凄い人数の追手だったけど」


「……吸血鬼の王族に買われたからな」


「……王族?」


「知らねーのかよ……吸血鬼の中で一番偉い奴のことだよ」


「そうなんだ……どうしてそんなに偉い人がリンを?」


「わからん。こっちが聞きたいくらいだ」


「じゃあ、その王族がいない場所だとどこになるんだろ……南の方は人間が多いって聞いたことあるけど」


「いつの情報だよ、それ。今はどこもたいして変わらないらしいぞ。というよりお前、もしかしてこの街から出たあとの話をしていないか?」


「……?そうだけど……あと、お前じゃないよ……」


「まだこの街から無事に出られるとは限らないんだぞ」


「そうだけど……」


「まぁいいや。少し休んだら動くぞ」


「うん!」


「緊張感のない奴だな」


「それで、リンは外に出たらどこに向かうの?」


「まだ決めてない。お前は行きたい場所とかあるのか?そう言えば、お前って北の方出身だったよな?」


「うん、特に行きたい場所とかはないかな……あと、お前じゃなくて、ナリアだってば!」


「はぁ……わかったよ……ナリアは家族とかいないのか?」


「うん……いないよ……」


「……そうか」


「リンは?」


「おれは………おれも……いないかな……………………たぶん」


「……そっか」


「……」


「……」


「……なんか少し寒くなってきちゃったね……」


「あぁ、もう太陽も出てないしな。おまけにこの薄着だ」


「…………」


「お、おい……お前、なにして……」


「こうすれば、暖かいでしょ?」


「それは……そうだけど……」


「……ねぇ……わたしもリンについていっていいかな?」


「……好きにすればいいんじゃないか……どこに行くかはナリアの勝手だしな」


「じゃあ、そうする!」


「お、おい……だから、あんまりくっつくなって……暑いだろ」


「ふふ……リン、顔真っ赤だよ」


「うっせーな!お前が……」





「お楽しみのところ邪魔して悪いな。迎えに来たぜ」





「「⁉」」



突如かけられた声に、一気に血の気が引いていくのがわかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ