表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家畜の俺が、世界を反転させるまで  作者: フミタロウ
第一章 転機の日
10/28

逃走開始_2

 少年は、冷静に今の状況を整理する。




 吸血鬼の王族に買われるといった最悪の状況だ。



 まずは、フェリトナという絶対強者。

 ただものではないことは、会った瞬間からひしひしと感じていた。そして、極めつけはあの殺気。あれは、実際は自分に向けられたものではなかった。しかし、身体に恐怖感と絶望感が刻まれたのは間違いない。


 まともに殺り合えば息の根が止まるのは確実に自分。


 隙をつこうとさえ思わせないほどの圧倒的な格差。


 もしかしたら、あったかもしれない僅かな可能性をたった一度の睨視で簡単に砕かれた。




 次に、ジェス。

 彼女の強さは実際に組み伏せられたことで体感済みだ。びくともしなかったことを覚えている。こちらも間違いなく勝算は皆無だろう。ジェスを相手に逃走の成功もおそらく見込めないはずだ。




 最後に、数十人はいるであろう吸血鬼の部下達。最も強い吸血鬼を、フェリトナとジェスだと仮定してもかなり分が悪い。やはり人数が多いのは逃走する上ではかなり厄介だ。



 逃げることなんてほぼ不可能だと半ばあきらめかけていた。



 だが、今はどうだ。



 まさにこの瞬間。



 フェリトナは、ホルンとの用事でこの場にいない。

 ジェスも近くには見当たらない。そして、なにより手枷も外れている。いるのは前方と左右の女の吸血鬼の計三人。逃げ場のない馬車に乗ってしまっては終わりだ。



 しかし、馬車までは、まだ少し距離がある。



 まさに絶好の好機。



 心臓が内側から鼓膜を揺らす。



 脈打つ速さが徐々に速度を上げていく。



 体中に血が巡り、体温が上がっていくのがわかる。



 それとは対照的に、脳は冴えわたる。



 自身の感覚が加速し、相対的に世界が減速したかのような不思議な感じ。



 前にもあったような気がする。だけど今はいい。思い出さなくていい。



 集中するんだ。たった一つの目的に向けて。



 馬車まであと数十歩……。



 そして、自身の研ぎ澄まされた五感を総動員して、今できる最高のタイミングを選択する。






 ―――――――――――――――――――今。






 周りにいた吸血鬼の意識の外を絶妙についた。


 すぐに気づかれるのは間違いない。だが、1秒と2秒は大きすぎる差だ。この数秒が成功に終わるか否かの最初の分岐点。



 少年は、自分が動いてから見張りが気づくまでの数秒の間にどんどん距離をとる。

 後ろの方から、奴隷が逃げ出したことに慌てだす声が聞こえてきた。捕まれば文字通り終わりだ。だから走る。とにかく走る。



 この街の造りは何となく理解している。元々、逃走予定だったため、連れてこられたときに出来るだけ観察をした。ゆえに、この街から出る最短ルートも把握済みだ。誤算は、自分を買ったのが吸血鬼で王族だったことだけだ。



 気づけば、周りの住民も不穏な空気を察したのか、喧騒が広がってきている。もたついている暇はない。



 なのに―――



「くそっ!気にするな!関係ない‼」



 少年は自分に言い聞かせるように、大声を張り上げる。最大限にまで鋭敏になった聴覚が、誤算を拾う。



 考えろ。自分の目的はなんだ。赤の他人にかまっている余裕なんてない。

 しかし、もう遅い。聞いてしまった。



 少女の涙に震えた声を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ