噛むほどうまい!
*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。
「いたっ!」
思わず口を開け、上歯茎近くの口蓋を指で擦る。
柔らかな肉の感触を指の腹で感じ、付着したものを確認すると唾液と混じり薄まった血が付いていた。
匂いフェチのわたしは思わず嗅いでしまい、鉄の臭いと共に塩味が鼻腔へと伝わる。
値引きの誘惑に負け、普段買わない堅揚げポテトを買うとこういう事故に繋がる。
日頃から食べ慣れたものと比較すると、一度で大量に食べてもこうはならない。
「うぅ……しみる」
切れてしまった箇所を舌で労り、一度綺麗にするために飲み物で押し流そうと考える。
ついでに歯茎や歯冠の溝に挟まってしまった細かくすり潰された食べかすもと思い、コーラに手を伸ばそうとしたがすぐに手を引っ込めた。
今の状態で炭酸はまずい。
傷口に炭酸が入り込んで余計に痛みを起こしてしまう。
仕方なく枕元に置いてあるお茶を流し込んだ。
しかしまだ完全には取り除かれておらず、最終手段として爪での除去を始める。
優しく撫でるように歯と歯茎の間に詰まった残骸を爪先で削り取るように落としていく。
順調に事は進んでいたが、やがて下歯の両端に待ち構える親知らずの存在にぶつかる
ここは難敵で、過去にも別の食べかすが挟まり、数日取れない間に歯茎が炎症を起こしてしまい、腫れてしまった経験がある。
その時は何を食べても咀嚼する際、腫れた歯茎が上歯の奥歯とぶつかるのでその都度、痛く辛い思いをした記憶がある。
あれ以来、柔らかい物や繊維質の物を食べる時には注意を払ってきた。
お菓子だからと甘く見ていた結果が今回の事に繋がってしまい、後悔してしまう。
「あぁ取れない……取れろ」
懸命に取ろうと口角に指をかけて広げるので、皮膚が引っ張られて痛い。
乾燥肌なため唇が荒れており、引っ張り過ぎによる切れが発生してしまう可能性が浮上する。
ついには悪あがきしようと舌を使い始める事にした。
しかし鋭利なものでもないので単に歯茎に唾液を纏わりつかせているだけで、これといった成果は出ない。
「ああ、もう!」
逸る気持ちで激しく舌を動かし続ける中で舌筋が痛みを訴え始めた。
舌の筋肉痛など想像しただけで悶絶してしまいそうになり、怖くなり労るつもりで舌を定位置へと戻した。
「何かないか、何か……あっ」
単純な事に気づき、洗面化粧台へ向かう。
歯ブラシに気持ち程度の歯磨き粉を乗せ、強敵の元へと口の中に入れて優しく手首の力だけで磨いてやる。
基本的に夜しか歯磨きはしないので午後2時にするのは妙な感じがする。
鏡面を見つめながら今どういう具合になっているのかを脳内で描きながら、良い結果が出ることを祈り、口を水でゆすいだ。
そうして綺麗になったところでもう一度、指を入れて気になる場所を擦る。
「あ、取れてる」
二、三度こすっても違和感はなく、これで歯茎の腫れを心配をすることはなくなった。
念のため再び口をゆすぎ、上機嫌となってベッドに横になると一時停止していた動画を再生させた。
そしてイヤホンを付け直すと、まだ沢山残る堅揚げポテトを大きく掴んで口の中へと入れた。
お読みいただき、ありがとうございました。
タイトルは思い浮かばなかったので、キャッチコピーから取らせてもらいました。