第7話 船を造ろう(3)
カスミが動いてしまいます、じっとしていることができない子ですね。
レタが家(神域の部屋)に帰って来た。
「お疲れ様、レタ、これで船の件に進展があると良いですね」と話しかける。
「はい、お嬢様、感触は良いと思うでありますが、怪しさはありますです」
レタの見るところでは、帝国や闇ギルドとは関係なさそうです、でも詐欺師かもしれないそうです。
「後はナミの報告待ちですね」何と言っても男の身元調査が終わらなければ安心できません。
ナミが帰って来たのは、夜3時(午後8時)過ぎでした。
食事は外で食べて来たそうでレタに美味しい屋台を見つけたと報告していた。
食堂で何時もの神技の料理人服に着替えたナミから報告を聞く。
「簡単でござった、レタ殿から脳内地図で示された相手は直ぐにわかりもうした」
「ナミーゴ氏の後を付けるのも、何の警戒心も持って居らず簡単でござった」
店は教えてもらった住所の場所と同じ場所にある大きなお店で、「船の御用は全て船商のステイスル商店で御用意いたします」と看板が在るそうで船商の看板に偽りはなさそうです。
更にナミは店舗に忍び込んで、ステイスル商店がまともな店か如何か調べたとのこと。
「幾つかの問題はござったが、ステイスル商店そのものは真面な商いを行って居るでござる」
「そして、幾つかの問題でござるが」と話した。
1つ、ナミーゴ氏は先代の後を継いだばかりで、引き継ぎのゴタゴタがある事。
2つ、船工房の1つで高速船の進水式中に船が引っ繰り返って大破した事。
3つ、その修理費が大変だと言う事。
4つ、受注先が怒って船をキャンセルしたので資金繰りが苦しい事。
その高速船こちらで買いたいな、修理するわけだから此方の改造を行ってもいいよね。
レタにその事を伝えて、修理中の高速船を購入できるか明日相手の意向を確認してもらう事にした。
引き続きレタにステイスル商店とその周りを探るのは続けてもらう様に指示して部屋へ引き上げた。
大チョンボした船工房の名前はウーミャ・ドリゴッソと言うらしい、ここで修理中の船が購入出来ればそのまま改造を行う事になるでしょう。
翌日レタは、朝食後ナミと打ち合わせを行って出かけた、レタとナミは今日1日外だそうだ、アイは家(神域の部屋)と宿の部屋を行き来して侍女として忙しくしている。
家主の私だけが退屈している、センサーの研究は中々捗らないし、カスミちゃんは船用推進機の魔道具を作成中で、作業も佳境に入りこのまま当分は忙しいままでしょう。
姉ねに至っては、お茶の木とコーヒーの木を育てるためにラボと植物園に籠ってしまってほとんど出て来ません。
私も幾つか仕事はあるけど火球砲の改造と作成はまだ先で良いし、羅針盤や操舵装置等々の魔道具化などもまだ先の事になる。
実は火球砲改の砲身の作成は終っていて、後は姉ねが砲架台を作成するだけですが、船に合わせる必要があるのでずっと先の事になります。
ですから今の私は暇になってしまいました。
さてそれではこれから「小人閑居して不善を為すこと、至らざる所なし」と「大学」さんも言われているので、暇な私は良からぬことを為すために行きましょう。
と言っても私が出来る事はアイに変装させて貰い外へ出かけるぐらいです。
上半身は下着としてシミーズを下半身は下着のズロースとペチコートを履く。
足首までのスカートと長袖の上着を着て布の靴を履けば町娘の出来上がりです。
スカートと上着の間にサッシュを帯にして巻きます、首の周りにも頭から被ったベールを頭の後ろで縛って首に巻き付けます。
最後に冬ですから、赤い厚手のコートを着ます、赤に染めるのは高価なのでお金持ちしか買えません、ただし赤でも色が濃くなるほど高価になるので、適度に赤いコートです。
これは、王国の港町でよく目にする商家の娘の服の着方です。
では、アイを従えて王都へ出発です。
実は、王都の名所旧跡を連日レタから聞いていたので行きたい場所が幾つかあります。
先ずはビンコッタの海に面した港の一角にある、戦勝記念碑の広場です。
ここは、ビンコッタ海戦の勝利を記念して王国になった後作られました、中央の噴水の在る記念碑の彫刻が当時の海戦の様子を忠実に再現した物らしいです。
宿の場所は既に港の中央付近ですから、そこから広場まで東西に通る中央道路沿いに少し東へ歩いて行けば海側(南)に見えてきます、広場の西の道路側に教会が、中央に記念碑の噴水が、そして南側の海方向には大きな建物が建っていて道路からは海が見えません、さらに東側にはこのビチェンパスト王国の王宮前の広場があります。
大きな広場の中央には記念碑と噴水がありますが広場の大きさからみれば小さな物に見えます。
道路から広場へと入ってみます、広場には大勢の人が教会や海側の大きな建物に入って行きます。
中央の噴水迄少し歩かないと辿り着けません、思ったよりも遠かったようです。
噴水は水がチョロチョロと流れる様に記念碑の横を通って、幾筋か流れていくようになっています。
肝心の記念碑の彫刻ですが、大きなレリーフが記念碑の左右に置かれていて左がレタが言っていた海戦の様子を表したレリーフで右はビチェンパスト王国の初代王様の業績を称えたレリーフに成っています。
まぁ右側はどうでもよいので左の海戦のレリーフを見ます、画面の右一杯を使って櫂が沢山出ている大きな船が描かれていています。
船は帆柱が折れていて、艫に居る人も矢が当たっている人、天を向いて何かしている人などその時の船内の様子が描かれています。
これがカクタン王国の王様が乗っている船でしょう、船の船尾に少し大きく描かれている人が王様のルクデスだと思います。
彼は右手を天に、左手を敵に向けて口を開けて何か喋っているように描かれています。
左側には小さな小舟が5艘描かれていて櫂を人が持って漕いでいます。
先頭の2隻は右の大船の下で銛を手に船側を登っています。
後ろの小舟からは弓で射かけている表現が描いてありますので、先ほどの大船の矢が当った人は彼らが射たのでしょう。
当時の船の事も詳しく描かれていて、ビンコッタ海戦の様子が良くわかる素晴らしいレリーフだと思います。
私の周りにもレリーフを見ている人が何人かいますので、このレリーフは有名なのでしょう。
右のレリーフをついでに見てみます、ここにも大型の船が描かれていますが、船の側面から櫂が出ている事は無く、2本マストの帆船が3隻描かれていました。
今度は左に大きく椅子に座る王様が描かれていて、右奥に船そして中央に人が荷車に荷を積んで右から左へとやってきています。
荷車が3台あるのは3隻の船からの荷と言う事なのでしょう、一番左の荷は人魚が両手に玉を持っています、さて何を意味しているのでしょう。
中程の荷は魔物でしょうかドラゴンの様な姿をしています。
最後の荷は手を拘束された女性です、耳が尖っているので妖精族かエルフでしょう。
何かムカムカします、何でヴァン国の女性がこの国の王様に贈られているのでしょう。
王都観光、定番の記念碑見物です。