婚約者は公爵家令嬢
クレージュ公爵夫妻が娘を伴ってマリオン侯爵邸を訪れたのはドミニクが12才のある冬晴れの日だった。
ドミニクは朝から来客があることを伝えられていて、朝食後は身支度を整えて自室に控えていた。
コートにウェストコートにブリーチズ(半ズボン)と白い絹の靴下という貴族の装束と言えばアレというファッションは実用性皆無だが気に入っていた。
12才なのに180cmの長身のイケメンは何を着ても似合うと非常にナルシストっぽいことを前世持ち特有の他人目線で考えていたら迎えにきた使用人に応接室に連れていかれた。
「来たか。クレージュ公爵、私の息子のドミニクだ。
ドミニク、公爵夫妻とご令嬢に挨拶しなさい。」
クレージュ公爵は王家の血筋である証の白金の髪を肩まで伸ばした琥珀色の瞳の美麗な男で、
腹に一物ありそうなその表情から父と同じ人種であることが察せられた。
公爵夫人は赤毛で灰色の瞳の優しげな穏やかな印象の女性で静かに微笑んでいた。
ご令嬢はドミニクと同年代の父親とよく似た容姿で吊り目がちの気の強そうな美少女で綺麗な姿勢で佇む様子は既に淑女として仕上がっているようだった。
「お初にお目にかかります。
マリオン侯爵家嫡男ドミニクと申します。
以後、お見知りおきください。」
「これはこれは。シッカリしたご挨拶をいただきまして光栄です。
バティストの友人のマクシミリアン・クレージュだ。
ドミニク殿は12才だったかな?随分大きく育ったものだ。
将来が楽しみだね。よろしく頼むよ。」
公爵が人を食ったような挨拶を返すのを父侯爵が不機嫌に眺めていた。
老獪な父が不快げな様子を隠そうともしない。
それも当然でクレージュ公爵家は王宮貴族家の筆頭でありマリオン侯爵家とはツノ突き合わす関係なのだ。
父の友人と名乗ったのはあながち嘘でもなく学生時代は現国王と3人でツルんでいたらしい。
政治的立ち位置から疎遠になってしまったのは貴族にはよくある事である。
「素敵な貴公子ね。アリス・クレージュよ。よろしくね。」
公爵夫人から鷹揚に右手を差し出され儀礼的にキスを落とすフリをする。
堂に入ったものである。
ドミニクは生まれてこの方、王都の侯爵邸から外に出たことはないのだが、来客は多く茶会夜会も頻繁に開かれる。
夜会に出たことはないが茶会には同年代の子供たちも来るので社交性も鍛えられていた。
「クレージュ公爵家長女セリーヌと申します。
以後、お見知りおきくださいませ。」
礼をとる美少女は茶会で会う貴族の同年代の少女たちと比較しても抜きん出て仕上がった淑女ぶりだった。
ドミニクの美意識は母が基準であるが初めて合格点を与えていた。
(これが公爵家令嬢か。血筋も育ちも最高のサラブレッド。素晴らしい!)
「ドミニク、セリーヌ嬢がお前の婚約者となる。もてなしてあげなさい。」
(立ち話で言うことか!?)