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ホリデイ



不思議なもので、リアは男子からは男に見え、女子からは女に見えるらしい。


女子と連んでいる男子に見えるので、男子はあまりいい顔をしなかったが、ここ1週間で、徐々に女子だと浸透してきている。


そんなリア、Cクラスでは、真面目な優等生である。


実際勉強はできるし、真面目に授業を受ける。周りに教えてあげたりもする。


体育、つまり、護身術やスポーツの授業にも真面目に取り組んでいる。


Cクラスには故郷で何かしらの仕事を持っていた人間が多く、飯屋で害獣駆除と狩とシャイニングをしていたリアの経歴は特に浮いていない。


魔法の乱用さえしなければ、真面目が取り柄のさほど目立たない学園生である。

と、リアは思っている。


Aクラスでも、最初にクラスメイトを地面に埋めようとして、叱られて以来、いい子にしているので、なるべく立ち入らない仲良し関係を結んでいるソフィアからも、「意外とまとも」くらいに思っていて貰えるといいのだが。




学園生活が始まって最初の週末休みだが、授業が休みだからといって、リアは日課を欠かさない。


朝起きると、ベッドの傍の聖剣ハダカ出刃包丁を取り、ゆっくりと振って準備運動してから、ばちゃばちゃと顔を洗う。


ハダカ出刃包丁を持って、窓から中庭に出る。

中庭出入り口が地味に遠いので時間の節約である。


そして剣の素振りを始める。

今日のところは晴れだが、雨でも決行。濡れてもどうせ着替える。

それに、ドラゴンが空から降りてくる日が晴れとは限らない。

5歳の時、目にして以来、リアは未だにドラゴンが怖かった。


ドラゴンは、普通に生きていればまず出逢わないので、ドラゴンが怖いは、オバケが怖い、的な、子供たちが怖がるブギーマン的なアレなので、思春期に入って以降のドラゴン怖いは、割と恥ずかしい事だったりする。


「ごきげんよう。」

「おはようございます!」


中庭に出てきて朝の運動をする、白い髪で一本三つ編みのメイドさんが挨拶してくれたので、いつも通り返す。

彼女の運動は前世(仮に地球とするが)で言う太極拳の様な、空手の様な、テコンドーの様な、ゆっくりした動きなので、もしかしたらマリーと同じ様にバトルメイドだろうか。


そのうち聞けるようになれば良いなと思う。


「では、お先に。ごきげんよう。」

「お疲れ様です、ごきげんよう。」


朝の運動のメイドさんを見送ってから、最後に一通りの動きを確認して、窓から部屋に戻る。


着替えて洗濯物を籠にまとめる。

リネン室に昨日クリーニングに出した体操着とブラウスを取りに行き、その足でフロントまで朝食を貰いに行く。

朝のフロント係は大体、色黒ポニーテールでお馴染み、ウナさんである。


「リアちゃん今日も頼める?」

「いっすよー!シャアァァイニングゥ!!」


リアの両手が赤く輝く。

その手をウナさんの肩に翳すと、ウナさんの肩凝りはたちまち良くなった。


「ウナさん毎日じゃないですか。ちょいちょい体動かして血行良くしないと。」

「寮に1年生が入ってくる年はこういうものなのよ。リアちゃん、お願い!卒業したら此処に勤めて!」

「いやぁ、私お店ありますから。」


学園生活も数日、寮生活はもう幾分か長いので、少しは知った中である。


部屋に帰って朝食を摂る。

今日の献立は、


海の貝と海のエビの入った黄色いピラフと、海のカニ入りの卵スープだ!!


海 産 物 ! !


リアは思わず小躍りする。

海の食材なんて滅多に食べられるものじゃ無い。


この世界は基本的に大陸一つでできており、幾つかの小島はあるが、海のその向こうは何も無い。


無限に海が続くと言われる。


沖では激しい雨が常に降り続けており、その激しさは下から上に雨が登っていると錯覚するほどのものであるという。

その先に何が有るのかはわからないが、世界の果てまで"そう"なっているのだろうと、この世界の人間たちは考える。

実際先へは進めないのだから、実質、沖に降る雨が世界の果てである。


しかし、"世界の果て"は、かなり瀬から離れた沖の話で、海の漁業は普通に行われているし、普通の人間も潮干狩りできる。


ただし、あくまでも、海のある土地は希少だ。


"学園を中心に発展した都市"ではなく、"広すぎて最早都市"という意味で学園都市と呼ばれるこの地には山フィールドがある。

山フィールドを超えた先は何と海。

新1年生歓迎の為に2・3年生の水と氷の魔法使い選抜チームが授業でシーフードを取ってきてくれたそうだ。


そんな海に思いを馳せ、先輩方に感謝して。


「いただきます。」


エビをプリッと噛んだ瞬間、リアは咄嗟に頬を押さえる!

ビックリするほど美味しかった。


ーーほっぺたが落ちるかと思った………。


貝といえば、川や、湖で採れるものに馴染んでいたリアである。口に合わないかも知れないと思ったが、その逆。


ばくばくと食べてしまいたい気持ちを抑えて、ちびちびと、いやしんぼな食べ方をする小市民であった。


朝食の後、ひと眠りして、いつもなら教室に向かうが、今日は休日。

リアは海の食べ物が美味しかったことを誰かと共有したいが、出来ない。


ーー平日に…出して欲しかった…。


平日であれば、教室で授業が始まる前に「朝食おいしかったねー」とか雑談ができるのに。


尚、本当は昨日振る舞われる予定だったが、雨のせいで提供が今日にずれた。

ならば、フロントに食器を返しに行くついでに、ウナさんに話すか?


ーー1年生歓迎メニューだから1年学園生以外の分は無いかも。貴重な食材だからな。


クラスメイトの寮の部屋は大体分かっているが、「海の幸、美味しかったね」とか急に来られても困るだろう。


さて、休日をどう過ごす?

クラスのみんなはどう過ごすか、聞けば良かったとリアは後悔する。


実家の暮らしである、午前シャイニング、午後狩はほぼ趣味なので、そうできれば嬉しいと思うが、山フィールドには許可無しで入ることができないし、新1年生には、許可も降りない。

それに、食べもしない獣を狩るのは趣味では無い。


リアは暫く考えて、いるうちに寝た。


いつも通り、普通に授業に出る時間に目が覚めたので、着替えて、図書館に行く事にした。


学園都市の学園フィールドには、校舎、寮、食堂等が含まれるが、その中にかなり立派な図書館がある。

本は貴重な娯楽。

学園で働く人達や、その家族が生活する居住地フィールドからもぽつぽつと人がやって来る。

クラスメイトも何人かは図書館いる事だろう。リアはどうしても誰かと話したい。


"海の幸、美味しかったね"


と。





結論から言うと、誰とも話せなかった。


まず、図書館が広過ぎた。

広い、広いとは思っていたが、実際広い。

本棚と本棚の間にクラスメイトが居てもあれでは分からない。

そして、何の気無しに取ったオカルト小説が非常に面白くてやめられなくなってしまい、脇目も振らず読んでいたら、気付けば5時間。13時をゆうに過ぎてしまった。


ーーお昼ごはん!!まだ食べれるかな??


リアは寮の食堂へ急ぐ。


寮の食堂は、女子学園生寮3棟と、男子学園生寮3棟、計6棟の何処からも大体同じ距離の場所に建っている。

休日の昼ごはんと、毎日の夕ごはんが食べられる。

ちなみに朝は予約制で、食堂が作った大体ワンプレートの朝ごはんをカートに乗せて、寮のフロントまで運んで貰える。



リアが食堂に着いたのは、丁度メイドさん達がごはんを食べるゴールデンタイムだったらしく、男女の使用人でかなり賑っている。

どこに座ろうかと迷っていると、白い一本三つ編みの知った顔を見つけた。


「あの」と声をかけると、朝の運動のメイドさんの顔がパァと明るくなる。


「どうぞどうぞ!座って!」


隣の席を勧められる。


「見知った顔がいて安心しました!1人で外での食事は苦手で。」


飯屋の子、わざわざおひとり様で他所の飯屋に行かない。

孤独の外食耐性低め。


「あ、私の名前、リア・リトルスターと申します。」

「ニコレット・バクティ。宜しくね。」


食事しながら喋る事はマナー的にどうなのかな、と思いつつも、リアはニコレットに話し掛ける。


「ニコレットさん、朝ごはん、海の貝とエビカニ、食べました?」

「ええ。お嬢様が分けてくださいまして。」

「お、美味しかったですね!!」


今日の目的完了!!!リアは安眠を確信した。


「はい!私の故郷は海沿いだから懐かしい味でした。湖のカニも美味しくて、忘れていたけど思い出したわ……。」


ニコレットは思い出しただけでほっぺたが落ちそうになったようで、頬を押さえた。


そして、ぶりっ子ポーズのまま「あ、」と何かに気づく。


「マリーさん!この子!背がちっちゃくて剣がでっかい!朝の素振りの!」

「ひゅえ!?マリーさん!?」


今日も可愛いし、美人過ぎて心臓に悪い。


向かいの席で何か光った気がしてニコレットはリアを一瞥するが、スプーンに太陽が反射したのだろうと解釈する。


「ニコレットさん。」


3人分の食器を返却したマリーが、食事中の2人の方を向き、両手を握って胸の下でぶつける、ぶっころすのポーズをする。

それから、こちらに歩み寄るマリーに、リアはガタン!と立ち上がる。


「何故立つのです?」

「目上の方なので。」

「良い心掛けです。」


2人のやり取りに、ニコレットが不思議そうな顔をする。


「あら?2人は知り合い?」

「ええ、まあ。」

「はい、そう…」


訊かれて、思い出す。


「………でも、ない、…かも?」

「どっち!?」


そういえば、自己紹介をしていないと。


「リア・リトルスター。料理上手な庶民で実家は飯屋。光の魔法使い…ご存知ですよね?」

「いいえ。料理上手は初耳です。私は、【マリー・オツカイスキー】と申します。ご存知ですね?」


「オ…オツカ…いえ…。」


ーーハルンハルト・ヘルツベルグより変な名前の人が居てしまった


「ソフィアお嬢様の使用人ですが、お話し相手として取り立てて頂いております。護衛も勤めます。身分を名乗る時は単純に近侍と。」


「オツカイスキー」


それだけをリアの脳に刻み付け、「来客がありますので」とマリーは去って行った。


まだ最初の週末。

この時期で来客と言えば、シスコンキャラでお馴染み、弟様だろうか。


ーー絶対に近づいちゃいけない弟様な。




「って、ニコレットさん!マリーさんに私の事何て話してたんですか!?」

「毎朝でっかい剣で素振りしているちっちゃい子がいるから隙を見て庭を見て、って言ってたんですけど、なかなか見て貰えなくて。」


珍しい虫みたいな扱いだった。






ニコ「庭のちっちゃい子見ましたか?」

マリー「その時間は丁度、手が離せないのですよ。」

ニコ「えーーー、シオマネキみたいで可愛いのに」

マリー「しおマネ…木?」

ニコ「ちっちゃくてハサミが大きい海のカニですよ。」

マリー「カニ。」


珍しいカニ扱いだった。


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