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困った訪問者



コンコン。


扉を叩かれたが、部屋の主であるリアはお湯を沸かしていた。

客であるミリディにお茶を出す為だ。


コンコン。


「ミリィお願ぁい!出てくれる?」

「仕方ないなぁ」


そして客に雑用をさせるという。


コンコン。


「はいはぁーい」




ギャァァァァァ!!!!!というミリディの悲鳴が部屋に響いた。


「なっ!???何ですの!!??」

「ひょ……ひょフィ…えっナンデ?…しょひあしゃま……」


叫び声に驚いたリアが玄関に駆けつけるとドアの外にソフィアが居り、そのソフィアの前でミリディが腰を抜かしている。


「ソフィア様!?」


慌てて膝を折り、あわあわと震えるミリディの肩をさする。


「すみません、ミリィはソフィア様の大ファンで、ミリィ!しっかり!!」

「リアっちょ…しょひあさまがいるよお」

「そう…なの?【ミリィ】さん?あ、ありがとう、光栄ですわ。」


ソフィアが困惑しながら、作り笑顔でミリディに礼を述べる。


「アバァーーーーッ!!名前よばれ」


たらりと鼻血を出したミリディをリアが宥める。


「よーしよしミリィー。」

「お下がり下さいお嬢様。」


ソフィアの近侍が主人を庇うように前に出る。


「え、マリーさん………」


ボガァ!!!

リアの爆風で面々の髪が揺れ、スカートがはためいた。

なお、火災被害は無し。


「何ですの、この地獄は?」








「ソフィア様!ご存知無いのですか!?絵本のプリンセスはソフィア様が王子様の許嫁と決まって以来青い髪にオレンジ色の目と決まっているのですよ!?」


絵本のプリンセス本人登場に、興奮して鼻血を出したミリディが、鼻をハンカチで押さえたまま、ソファーでソフィアの隣を陣取って力説する。

斜めに位置取った椅子に腰掛けるマリーが、興味深いといったふうに、ミリディを見ている。


「ごめんなさいね、存じ上げませんでしたわ。絵本、という物は、あまり読まなかったものだから。それと、わたくしは王子様の許嫁ではなく、あくまでも許嫁"候補"でしてよ。」

「ソフィア様は王子様と結婚なさらなくてもプリンセスです!!」

「許嫁じゃないって言い張ってるの現状ソフィア様だけですけどね。」


ミリディ論に頷きつつ、リアは客人達にお茶を出す。

その香りにソフィアが驚く。


「緑茶…ですの!?」

「すみませんねぇ、庶民のお茶で。」

「貴女が作りましたの?」

「いや、庶民は大体みんなこれですよ?」


お茶っ葉を茹でて揉みながら干す。

ゼンマイと、同じなんですね。

前世(仮に地球とするが)の緑茶とは、違うんですね。


「ミリィの故郷ではオチャの新芽を乾かして、白茶を作るそうですよ。」

「はい!故郷での仕事は魔法で熱風を起こしてお茶を乾かす事です。ソフィア様に会えると聞いて学園都市に来ました!!」

「いやぁ、まさか同じモチベーションで学園都市に来た人間がいるとは…」

「「ねーーーっ!!」」


そ、そう。と退き気味にソフィアがニッコリと相槌を打つ。

明らかにやばい奴、と思われたリアだが、庶民はみんなやばいのだろうか。


「マリーさんも学園都市に来た目的がソフィア様という点は同じですね。」

「同士と言っても過言ではありません。」


主人が人気で上機嫌なマリーである。


「それは流石に過言でしてよ?」


「頑張って勉強して、2年のクラス替えでAクラスを目指すんです!!リアっちょは読み書きが得意なので、授業でわからないところを教えて貰っていました!」


そこで「あっ!」と、ミリディが気付く。


「ソフィア様は、リアっちょにどんな御用ですか?」

「Aクラスの授業のことで少し、ね。2人にして貰えると有難いのだけど……。」


ソフィアは両手を合わせて、可愛らしく口許に持っていく。

それを受けて、マリーが立ち上がる。


「ミリィさん、お部屋までお送りしましょう。」

「ひえっ!!光栄です!!!」


マリーがミリディを立ち上がらせ、連れて行く。

ソファー及びソフィアから遠ざかりながら、ミリディは、侍女らしきマリーにも、興味津々に話しかける。


「あの…メイドさん、じゃないですよね?一緒に座ってお茶を飲んでました、ですし…。」

「メイドではありますが、お話し相手として取り立てて頂いております。護衛も務めますよ。肩書としては近侍となりますね。」

「うわぁ!すごい!!」


ガチャ、パタン。


ーーえー……ミリィ、すげぇマリーさんと喋ってるぅぅぅーーー


羨ましそうにドアの方を見つめるリアに、ソフィアが態とらしく咳払いする。


「えと、…練習場のガラスなら砂に戻しました、よね?」

「そんな事はどうだって良いのよ。」



情報を共有しましょう。






「何から話します?」


リアはベッドに腰掛ける。

ベッドの傍には聖剣ハダカ出刃包丁が立てかけてある。


「そうね…その金属の塊は何なの?入学式典の時も担いでらっしゃいましたけど。」

「光の魔法を効率良く使う為の武器です。聖剣ハダカ出刃包丁と名付けました。」

「出刃包丁というより菜切り包丁ですわね。」


リアはフフフ、と剣を握り、ぬるぬるとゆっくり振ってみせる。


「何か問題を起こした時に国から追われたら兵隊さんをスライスして逃げようかと思いまして。」

「悪趣味な冗談ね。」

「ええ。冗談で、済めば良いのですが。」


どうですかね、と前置きして、リアは"使うかは不明だが、グダグダの初対面の後、紙に書いて復習して整理して、とりあえず話す練習はしていた情報"を口にする。




同じ転生者か、と一昨日、聞かれましたよね。

答えに悩んだのは、転生者ではあっても、"同じ"では無いからです。


私は、"ソフィア様が主人公の漫画の世界"に転生した正ヒロインで、物語の敵役です。


お風呂のシーンとかは無かったのでご心配なく!!


ソフィア様の悪役令嬢転生は、正ヒロインと王子を取り合って対立するタイプのやつなんですよ。

謂わば、



「この世界の私はこの世界の悪役ヒロインです。」



リアは言い切ったぞ!という達成感で拳を握ったが

、その説明はソフィアに分かり易いものではなかった。

どう質問すれば理解に足る情報と成り得るのか考えあぐねて、ソフィアは眉間を押さえる。


「まあ、悪役同士、半目するか、関わりを極力避けるか、…私はお互いの安全の為に仲良くしていただけたらとっても嬉しいです。」


剣を肩に抱え、ニッコリと頬を染めるリアにソフィアは頬を引き攣らせる。

この女、寝ながら部屋を吹き飛ばし、地面を1,000度以上に熱して溶かし、背丈程の金属塊を振り回す。


「仲良しコースで行きましょうか。」

「嬉しいです!【リリア】が死んで終わるか生きて終わるか思い出せずに不安でしたので!」


リアはベッドの傍に聖剣ハダカ出刃包丁を戻す。


「それで、貴女のその格好は何ですの?男装?」

「ええ。フラグが死亡フラグに成りかねないので、女という印象を与えない為に。ほら、私、顔が可愛いので。」


両手を頬に当て、「男から恋されちゃっても気持ち悪いですしー」などと宣う胡散臭いヒロインの、やはり本気か冗談か分からない行動原理。

ソフィアは明ら様に顔を顰める。


しかし、生きる為に【リリア】の美しい長髪を切り落としたのであれば、あまりに傷ましいと思う。


「わざわざそんな、猿みたいに髪を刈り上げなくても…。」

「エッ…猿………」


リアの男装は自分に似合うと思うから着ている。

着たいから着ている。

完全に純然たる趣味であり、ソフィアに話した理由など後付けである。

なので、disられると普通に傷つく。

リアは悲しみを抑え、はい、と手を挙げる。


「ソフィア様、私もお聞きしたい事が。」

「ええ、どうぞ。」

「攻略キャラのことです。できれば関わり合いを避けたいのですが、どんなんだったか覚えていなくて。」

「どの程度覚えてらっしゃいますの?」


「うーん…王子は黄色い?ソフィア様大好き。あと、なんか赤い人?とソフィア様の弟君はソフィア様大好き。………と、あとメガネの人?」


「ほぼゼロですわね。お教えしますわ。」


ハルンハルト・ヘルツベルグ王子。

頭が良くて、優しい。雷属性の魔法使い。Aクラスのクラスメイトでもある。


「変な名前ですよね、ギャグですか?」

「なんて失礼な庶民!!!」

「エッ!?この世界ではカッコイイ名前なんです!!??」

「どの世界でも素敵なお名前でしょう!?貴女が変なの!!」


カイオン・ヴァレーリ。

アバルキナ家のライバル御曹司。傍若無人、所謂オレサマ野郎。Aクラスのクラスメイト。


「多分その人モブですね。最初の回想シーン以来出てないですよ、多分。」

「それはきっと貴女が覚えていないだけ。子供時代から傑物になると予見されている、油断ならない相手でしてよ!」


オルテス・アバルキナ

ソフィアの一つ下の弟。王子、カイオンを攻略後に挑戦できる。


「賢くて、ナイーヴで可愛い弟でしてよ。私の宝物。近付かないで頂戴。絶対に。」

「いや、マリーさんにお伝えした通り男に興味はありませんから。」

「絶・対・に。」

「近付きません。」


グラス・シェヘラザード

眼鏡。確か水の魔法使い。多分クラスメイトでは無い。


「興味無かったんですね。」

「そのようね。」


コンコン。

ガチャ。


リアが迎えに行くまでも無く、マリーが入って来て、ソフィアの側に控える。


「戻りました、お嬢様。」

「遅かったわね。遠かったの?」

「ミリィさんがこれをお嬢様にお見せになりたいと仰って、預かりました。」


そう言ってマリーはハードカバーの角が擦れた、プリンセス絵本を差し出す。

表紙の王子様とお姫様の色合いが、見ながら塗ったかな?くらい、ハルンハルトと自分であり、ソフィアは恥ずかしさに顔を赤くし、言葉を失う。


「それと、お嬢様のシャンプーを知りたがってらしたので、教えて差し上げました。」

「わたくし自身知らない事を…。」

「そう言えば、ソフィア様は前世チートで新規事業の立ち上げとかしてないんですよね。ソフィア印のシャンプーとか作れば良かったのに。」


「前世?」とマリーはリアを見遣る。

一瞬目が合い、リアは照れて目を逸らす。


「えと、私も、ソフィア様と同じく、この世界を外側から見ていた記憶のある人間でして。」


この科白からソフィアは、"ソフィアがマリーに事情を説明していた事"をリアが知っていた事実を汲み、この世界を見ていた人間だという理解を深める。

マリーの方は主人とリアの対談が円滑に進んでいると解釈する。


そして、もう一つ、ソフィアには気付きがある。


「リアさん、貴女、男に興味がないと聞きましたけれど、女性に興味があるんですの…?」


リアは硬直する。

体から変な色の汗が出る。


「それ、今言います!??」

「あるんですのね!??マリーは駄目でしてよ!!」

「本人の前で…!!なんてむごい!!!」


ウワァァ〜と、両手で顔を覆ってベッドに倒れる。


ボガァ!!

そして一旦爆発。


冷んやりと気不味い静寂に、外でカラスがカァと鳴く。


「別に…あれですよ。…その、マリーさんのことは魅力的な女性だと思いますが、別に、…どうにかなりたいとか思ってませんよ。対象外の性別の人から恋愛対象として好かれる気味の悪さなら身に染みて分かっているので。」


ベッドに転がった塊が、塊のまま、どこか投げやりな声色で、呟く。

ソフィアは何だか悪い事をしたような気がして、フォローしようとするが、そこで気付く。


「いえ!分別のありそうなことを言ったところで、兵士をスライスしようとしている方は信用ならなくてよ!」

「兵士を、スライス?」


ソフィアはス、と立ち上がる。


「では、仲良しコース、なるべく立ち入らない方向で参りましょう。」


そして去ろうと背を向ける。

リアは重要な事を伝え忘れたと気付き「ああ!」

と声を上げる。


「とても大事な事なのですが!私は癒しの魔法が使えませんので!絶対怪我しないで下さいね!!」


「……貴女、もう少し原作に寄せることはできなかったのかしら?」




ソフィア「色だけかと思ったら、私と同じイヤリングをしていますわ!それに、この宝剣も王家の宝剣に似過ぎだと思いますの!これは流石に肖像権の侵害だと思いましてよ!」

マリー「しょうぞうけん…とは。」

ソフィア「こんな物、何処で売っているのかしら?」

マリー「どこの書店でも手に入るそうですよ。」

ソフィア「そう。………。」

マリー「…………。」

ソフィア「……………。」

マリー「買ってきましょうか?」

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