暴発
「ま……マリーさん……!!!」
ボガァ!!!!!
その朝、リアはちょっと人には言えない、エッチな夢を見た。
目が覚めるとベッドが消し飛んでおり、黒焦げの床で寝ていた。
窓が割れ、天井に穴が空いて、全体が焼け、部屋の大部分が黒く焦げていた。
ぼーっと床に転がったまま吹き抜けの天井を見ていると、上の住人が恐る恐るといった様子でこちらを覗き込む。
「大丈夫ですか……?」
リアはハッとして首元をさする。
大丈夫。パジャマ、着てました。
「私は大丈夫ですがそちらは崩れる前に避難した方が宜しいかと……。」
入学2日目。
リアは授業を休んだ。もとい、
・こいつ、Cクラスのか弱い子供たちと一緒にして大丈夫か?
という審議のため出席停止となった。
とは言え、魔法使いに魔法のコントロールを教える事がこの学園の意義でもある。
困った顔はされても、責められる事は無かった。
リアは少ない荷物を持って、新しい部屋に引っ越し、そこへ女性教師が聞き取りに来た。
「過去に魔法が暴走した事は?魔力量が多い子は4〜7歳の間に暴走を起こしやすいけど、その頃はどうだった?」
「暴走は初めてです。魔法が発現したのは11歳くらいで、コントロールは最初からできたと思います。」
「そんなに発現が遅い子もいるのね。」
11歳は驚くほど遅いらしい。
先生の目が丸い。
「昨日はカラフルに点滅しながら寮に向かう人間をを見たという話も出てきているけど、それは、そういう魔法……?」
「暴走……です。」
「原因は?分かる?」
きれいなお姉さんとお話しして興奮したからです。
「わかりません。」
「どうしてカラフルに点滅した事を担任に報告しなかった?」
「自分が光っていることに気付いていなくて。」
「また、暴走する可能性はあると思う?」
ソフィアと関わらなければ、マリーに会う事もお話しする機会ももう無いだろう。
…ただ、またエッチな夢を見る可能性は?
「…はい。」
次の日。
ソフィアと関わる事は無いという予想に反し、魔法の授業をAクラスで受けることになった。
ちなみに、Aクラスの魔法の練習場は、Cクラスの教室から凄い距離があるので、座学の成績如何では1年生のうちにAクラスに編入の可能性もあるとの事。
ーー歴史の……矯正力かな…。
リアは自分の所為ではないと自分に言い聞かせた。
数学の授業の後、体操着に着替えると、昨日聞き取りに来てくれた先生に案内され、授業開始時間に3分程遅れてAクラスの魔法練習場に着く。
ーー自転車かスライディングじゃないと間に合わないだろ、この距離。
明日からは駆け足必須。
お貴族様は怖い。
整列しているAクラスの皆さんの前で、魔法実技担当の先生から紹介を受ける。
「今日から魔法の授業を一緒に受ける事になったCクラスのリア君だ。」
学園都市は軍属の人材を育てる場であり、生徒同士の親睦を深める為、そして表面上、生まれによる差別を良しとしていない為、また、苗字を使わない地域もある為、名前呼びが基本である。
「仲良くするように。」
ーー子供か!!
「Cクラスのリア・リトルスターです。光属性の魔法使いです。Aクラスの皆さんと一緒に授業を受けられるという事で、大変光栄です。」
宜しくお願い致します〜、と、お貴族様withひとつまみの超優秀庶民の皆さんに向かって頭を下げる。
そこに、
「魔法を見せて欲しいです」
というような声が上がり、広がりを見せる。
困ったリアが先生を見上げると、
「鼻を明かしてやれ。」
先生はこっそり言った。
クラスメイトは光の魔法使いならば、使うのは治癒魔法か、ゲーミング仕様にピカピカ光るくらいだと思っている。
先生は、資料からリアが炎の魔法を使う事を知っている。
ーー先生、もしや出身は庶民?
リアは膝を折り、地面に手を着く。
石が融けるのは1,200度程だったか?その熱量ならば【烈火】
烈火が一面に広がるイメージは【煉獄】
液体の石が存在する場所と言えば………
「烈火・煉獄・ヴォルケイノ」
「コキュトス!!!」
ピキピキピシピシピシ!!!
リアの詠唱と重なるようにソフィアの詠唱が響く。突如としてガラス化した地面に細かくヒビが入る。
リアの魔法で解けた砂を、素早くソフィアが凍らせ、冷やした為だ。
ソフィアは危機を察して地面に氷の魔法を放ったが、"何が起こったのか"は分かっていない。
「貴女!!何を考えているの!!???」
ソフィアの予想はこうだ。
マリーからの報告によれば、リアは爆発する。
つまり、
・地面に爆発を起こし、クラスメイトを吹き飛ばそうとした。
「フレンドリーファイヤOFFで安全ですよ!?」
心外です!という憤慨を醸しつつ、ソフィアに言い返す。
「ちょっと地面を溶かして足首まで埋めてやろうかと思っただけです!!!」
「なッ!?急にそんな事をすれば捻挫してしまいますでしょう!!」
「ハッ!!」
魔法をぶつけ合った2人以外、誰も何が起こったか分かっていない。
ピシピシ音がしたと思ったら、大貴族の令嬢で王子の婚約者候補筆頭のソフィア様が庶民に怒鳴っている。
「ソフィア?」
「足元をご覧になってください。」
ライラック色の目をした金髪の男がソフィアに話しかけ、ソフィアが返す。
入学式典で挨拶をした男はこんなデザインだった筈だ。
ーー王子、近くで見るとこういう感じか。ん?ソフィア様の隣を陣取って…いるのか?流石ぁ。
ソフィアと王子?のやり取りから、Aクラスの面々が足元を見てざわついている。
足元が黒いガラスに変わっており、表面に無数のヒビが走っている。どの程度の深さまでガラスになっているのか、目視では確認できないが、ガラス全体がひび割れている事だろう。
数ミリ埋まって、足の下に硬い靴跡が出来ている者もいる。
教師がぱんぱんと手を叩く。
「魔法使いを侮るな、の意味が分かったな?ソフィア君は流石だ。心構えがしっかり出来ている。」
ソフィアが嫋やかにお辞儀をする。
ーーなんと美しい
あまりに美しい現象にリアが思わず拍手すると、クラス全員が釣られて拍手した。
「ねぇねぇリアっちょ、Aクラスはどうだった?」
走ってCクラスに帰ったリアが更衣室に入ると、隣の席のミリディが教室に帰らず待ち構えていた。
彼女はソフィアのファンである。
学園生活初日から"入学式典でソフィアに会えたか?"と聞いて回っていた。
その時リアは「式典では会えなかった」と、"では"を強調せずに返した。
ミリディ以外にも着替え終わった女子がちらほらと塊になっていたりして、皆興味があるようだ。
「うーん、とりあえずソフィア様がお世話係になって下さるっぽい…?」
きゃぁーっ!
羨ましいーっ!
と色めき立つのは、ミリディだけでは無い。
Aクラスはお貴族様の集合体なので、それ系が好きな女子は多いが、ソフィアは、未来のお姫様(仮)なので、名が知れており、庶民の女子から特に人気が高いらしい。
ーー王子モテモテみたいな設定があったような気もするけど、そうだとしてもAクラスだけの話だな。
無い。別の悪役令嬢転生漫画の設定である。
「どんなお洋服だった??」
「いや、体操着だよ。」
おおお〜〜
「リアっちょさん!!ソフィア様はいい匂いがしましたか??」
「そんなに近づいてないし、お嬢様はみんないい匂いがするかも。」
おおお〜〜
「髪の毛は?ツヤツヤ??」
「めっちゃツヤツヤ。輝き過ぎて最早液体?美し過ぎてやばい。」
おおお〜〜
「どんな声だった!??」
「そりゃあもう美しい声だよ!」
おおお〜〜
次々と飛んでくる質問に答えるリアだが、ソフィアからは多分嫌われている。
ーーそれは黙っておこう。
「どんなお洋服だった??」
「いや、体操着だよ。」
おおお〜〜
ーーおおお〜〜かぁ?