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オルテスには青ドラゴン



1年生Aクラスの授業は午前で終わることが割とよくある。


なので、昼食時を過ぎた頃から学園生が学園の敷地内をウロウロしていたりする。


体調不良を理由に授業をずる休みしたリアは、鍛錬の後一眠りして、今は人探しをしていた。


「オルテス様!!」

「オルテス?何方かと勘違いしていませんか?」


オルテスは変装のつもりで掛けていると思われる眼鏡をクイ、と上げる。


「そんな茶番を演じている暇は無いんですよ!!」

「クソ!!何なんだ貴様は!姉上に付き纏う下賤な猿モンキーめ…!」


オルテス・アバルキナ。

ソフィア・アバルキナの弟。姉上大好き。


リアの事は、主人公チートでヘイトが緩和されてはいるが、割と普通に嫌い。


「付き纏ってませんよ!お世話係をして頂いてるだけです!!あと、ソフィア様のファンは私だけじゃないですからね!?」

「ピンクのサルには関わるなと言われている。」


姉が好き過ぎるオルテスは、度々ソフィアに面会にやってくる。

ここまでは原作知識。


ここからは現世知識になるのだが、実はこの男、ソフィアとの面会のあと、そのまま帰るわけでは無い。

帰るふりをして、何処で手に入れたのか、学園の制服に着替え、1年生の振りをして学園都市をウロつている。


リアは知っている。


なぜなら。

リアも"自分の身の安全を守る"という詭弁の下、ソフィアとマリーを時々観察しているからである。


透明状態なら、ソフィアとマリーからも、2人を観察しているオルテスからも見えない。

実は2人が寮のどの部屋に住んでいるのかも知っている。リアの部屋の真上。


誰にも言わないけど。


オルテスは昨日来て、早いうちに女子寮から出て行ったのをSFCの数名が目撃している。


彼はどうやら1年の男子学園生にツテがあるようなのだ。姉と別れた後、1年男子寮に向かうところを何度かリアは見ている。

昨日もそのツテのところに泊まり、今に至る、というところか。


「……姉上は、私がこうしている事をご存知なのか?」

「いえ、私は申し上げていませんし、恐らくご存知無い筈です。マリーさんも。」


ーー原作で弟様が眼鏡かけてるの見た覚えが無いし。


「黙っていて、頂けます、よね?」

「そうしたいのは山々なのですが、ご自分で打ち明ける事になるかと。」


オルテスは「何故?」という怪訝な表情。


「ソフィア様が大ピンチです。」

「!!??」



嘘である。


ーーごめんなさい!!手伝って貰いたくて嘘を吐きました!


予想外に深刻な表情で驚いているオルテスに、心の中で謝罪した。


ソフィアとマリーがドラゴンと戦う件が"今日起きる"という事では、特に無い。


しかし、今日のうちにやっておけば、明日も明後日もずっと安心。

思い立ったが吉日。


弟には関わるなの禁を犯してしまうが。


ーー良いんだよ。嫌われても恨まれても、一生憎まれても、マリーさんの命さえ救えればな!!



…………ただの強がりである。


そんな度胸は無い。ソフィアとマリーから嫌われたら一生立ち直れないだろう。

それでも、マリーが死ぬよりはましだ。何もかも。


「オルテス様は、ソフィア様に会いに来る度、この学園都市の中をウロウロする事に時間を割いてらっしゃる。」

「……姉上には言うなよ。」

「ドラゴンの出そうな洞窟のような場所などご存知ありませんか?」

「洞窟……。」


オルテスのルートでしか出現しないのなら、オルテスだけは、ドラゴンの居場所を知っている……筈。

場所だけ聞いたら寝てるドラゴンの頭を切り落として、ザ・エンドってね。


もし起こしてしまっても、


ーーオルテス様だけは生きて返すから、なんとかそれで勘弁…!


「ドラゴンの種類は?」

「…青、かったかと。」


「青いドラゴンに姉上が追われていたのだな?」と、勝手に納得しながらオルテスはドラゴンの居そうな場所を考える。


「ドラゴンが好む場所は知っているな?」

「知らないです。」

「では道すがら話す、ついて来い」


そう言って、オルテスが早足に歩き出す。


「ドラゴンは力の強い土地を好む。」


ソフィアと身長が変わらないオルテスの、長い脚の早足はリアにとっては小走りである。


「青いドラゴンならば属性は水か氷だ。だから、水属性の魔法使いや、氷属性の私たちが心地良いと感じるのと、同じ場所を好む。」

「へぇ。」

「姉上が追われていたのであれば、姉上も本能的にその様な場所に向かって走る筈だ。恐らく、知らず知らずのうちに、ドラゴンの根城に追い込まれる……」

「博識ですね。」


"シスコン"のイメージと、エリザベスから聞いた"パーティ好き"という情報しか無かったオルテスだが、意外と頼りになる。


「姉上が逃げた先を"洞窟"と予想するからには少しは知恵があるのかと思えば。庶民め、無知か。図書館にそういう本があるぞ、読め。知は力だ。」

「お気遣いどうも。」


正論とは、時に腹立たしい。


オルテスは、いつの間にか小走りになりながら「きてみたいと言ったらおにいさまがお貸しくださいました。」「きてみたいと言ったらおにいさまがお貸しくださいました。」と、何やらぶつぶつ言っている。


「それにしても眼鏡、お似合いですね。顔の良さが跳ね上がってますよ」

「メガネ?」


オルテスはハッとして掛けていた眼鏡を投げ捨てる。


「何するんですか!?勿体無い!!」

「制服の時点で怪しいんだぞ!?更に変装してたら言い訳が嘘だとバレるだろうが!!」


オルテスは澱みない足取りで山フィールドに入る。決して良いとは言えない足元だが、まるで整備された道を進むように、引き寄せられるように、すいすいと走り続ける。

途中で、リアは既視感を覚え始める。


「此処に立ち入り禁止の看板があったはずだが?」


リアが思ったのと同じ事をオルテスが口にした。


「…私も、そのように記憶してます。…でも、何の用も無くこんな所に来る人間が居ますか?」


ああ。と返しながら、オルテスは立っていた筈の看板を探す。


「散歩のつもりで、当て所なく歩けば自然と足が向く。属性の違うお前には分からないかも知れないが。」


動物がぶつかったのか、杭が倒れ、傍に板が落ちている。オルテスはしゃがんで板を拾い、裏に【危険区域・立ち入り禁止】と書かれているのを確認する。


クソ!と呟いて、立ち上がり、また走る。



そして終に足を止める。

山肌にぽっかりと穴が空いている。やはり、


「プンプンケイブ……」


オルテスは物言いたげに、リアを睨む。

リアはこの洞窟を知っている。同級生が魔法で抉ったという穴である。

以前見に来た時は完全に真っ暗な洞穴に見えたが、今は向こうから僅かに明かりが来ているようだ。


洞窟の深部に上からの崩落があり、縦に穴が空いたとすれば、ぼんやりと明るい説明がつくし、リアの夢の光景とも一致する。


「道案内ありがとうございました。ソフィア様がピンチなのは嘘です。」


どうぞお帰りください!と一礼して、リアはプンプンケイブに入る。


「私を逃すつもりだな!?」


オルテスも続く。


「いや、まじで!帰ってくださいよ!危ないですって!これ、Cクラスのクラスメイトが魔法で抉っただけの穴なんですって!」


そして、眠っているドラゴンを奇襲しに来たのに、わざわざ目覚めさせられたら迷惑である。


「Cクラス如きにそんな者がいるか!少しはまともな嘘を吐け!」

「居るもんは居るんだからしょうがないでしょう!」


ーー首まで地面に埋めてやろうかな、この人。


鋭いのかそうで無いのか、食い下がる、接触禁止の相手に魔法を撃つため、足の裏で地面の感覚を確かめていると、


「      」


奥から女性の声。

全身から血の気が引き、その血が全て頭に上る。「おじょうさま」と聞こえた。


ーー最悪だ!!!


背中の聖剣ハダカ出刃包丁を抜き、走る。

何かがトンネルの出口を半分ほど塞いでいる。

逆光だが、影を縁取るぬらりとした光沢で、それが爬虫類の物だと分かる。


「【燃えろッ】!!!邪魔ァアア!!!!」


リアがドラゴンの尾を切り飛ばした後からオルテスが乱入する。


「姉上えええええええ!!!!!」


尾を焼き切られ、暴れるドラゴンの爪の合間を縫ってオルテスがソフィアを攫う。

攻撃を受けた事で敵、つまりリアの方を向いたドラゴンに、


「シャァイニングぅぅ!!」


叫ぶように詠唱してリアは掌で閃光を放ち、その視界を奪う。

鋭い光だが、フレンドリーファイア・オフ仕様である。

ドラゴンの目が眩んでいる隙に全員が各々、岩陰に隠れる。


ドラゴンを初めて見たのは6歳の時。目にするのは実に10年ぶり。

但し、こんなに近くで見るのは初めてだ。


ドラゴンは想像通り、超巨大爬虫類。

ただ、想像と違うのは、……自分に害意を持った超巨大爬虫類は、


死ぬほど怖いって事だ!!!!!


爪ひとつ取っても長さ30センチはあるだろうか。鉤状で分厚く、先端は鋭く尖っている。

四つ足。前足と別に翼があり、その内側は白い。

ぬらりと光沢のある鱗の一つ一つが宝石の様に美しく、金色の目の縦に割れた瞳孔の奥が不気味に光っている。


徐々に呼吸が苦しくなる。


「何しに来たのです!?オルテス!??」


弟を責めるソフィアの声にリアはびくりと肩を揺らし、呼吸を思い出す。


「姉上を助けに参りました!!!」


ピンクの毛の小ザルが知らせに来まして、とオルテスはリアを振り返る。

リアは怖ず怖ずと会釈する。それから深呼吸し、警戒状態のドラゴンに向けて聖剣ハダカ出刃包丁を構える。


「貴女!わたくしの弟を危険に飛び込ませるなんてどうかしてますわ!!」


ソフィアが声を荒げて糾弾する。

リアは初めて聞く、令嬢のバチギレの声色に驚いて彼女を見る。

洞窟内にくわぁんと響いた声は、どこからの音かわからないのか、ドラゴンが上の方を見る。


ただ、まあ、かち合ってしまったら、そう言われるだろうなと、予想はついていた。

ちゃんとオルテスは洞窟の前に置いてくるつもりだったし。置いてこようともした。


けれども、だ。


「これは、オルテス様のラスボスです!!」


ソフィアがここに居るならば、こそ、オルテスを連れて来て良いとする正義がリアにはある。



「お姉さんなんだから、弟のもの取ったらだめでしょう!!!」



リアは、ソフィアがそれまでに聞いた事の無い真剣な怒声を放った。


その怒気にリア自身も驚いて、剣を取り落とし、口許を押さえた。


リアは、ソフィアの事が大好きだ。本当に。

本当に大好きなのだ。


でも、期を待ってオルテスと力を合わせるべき所を先走り、1人で行動して、マリーを巻き込んで死なせた事だけは、上手く受け容れられない。


……本当は受け入れたい。


ソフィアを守ろうとしたのはマリーの勝手であって、それがマリーの望みであって。

ソフィアに対して怒るのは、マリーに対する侮辱である事も、わかっているのだが。


そんな2人の関係が!好きなのだが!!


リアは自己矛盾と自己嫌悪に奥歯を噛んだ。



……ソフィアは怒声に怒声で返され、言葉を失っている。


せっかく自分が弟の危険を取り去ろうとしたのに。


無礼にも程がある。

傲慢にも程がある。


ソフィアの理性はぷつりと切れた。


「オルテスは普通の男の子でしてよ!!魔法だって基礎しか知りませんの!!傷ついた子供で、私が守ってあげなければいけませんの!!そうでないと………」


ーー壊れてしまう。


ソフィアの前世の記憶はオルテスルートの途中で途切れている。


ソフィアの"オルテス"像は家族から大切にして貰えなかったゲームのオルテスの影響を強く受けている。


ソフィアの胸には、周りに心を閉ざしたオルテスの傷ましさが焼き付いている。

泣きそうな目をして捻たことを言うゲーム画面のオルテス。

些細な切っ掛けから、こんなに懐いている"この"オルテスも、心を閉ざしてしまうかも知れない。


ソフィアはオルテスから愛され、信頼を得ている事がわからない訳ではない。


ただ、大切であるが故に。

ソフィアは、ここに確かに"実在"するオルテスという存在を信じられない。



……オルテスは姉からそんな子供扱いを受けていた事実に衝撃を受けた。


「聞き捨てなりません!姉上!!私だって、いつまでも幼い子供ではありません!!」

「お黙りなさい!!!」


バゴォッ!!

ついに獲物の場所を捉えたドラゴンの青いブレスが姉弟の隠れる岩の上半分を破壊する。


「こちらです!!」


マリーの声が反響する。

2人から注意を逸らすため、ドラゴンにナイフを投げ、反撃のブレスを回避!


リアが慌てて岩陰から出る。


「アマテラス!」


チョロチョロと走り回り、時々小石の火球を投げてドラゴンを撹乱する。

そして、焦りから魔法の暴走を起こしており、無意識かつ無自覚に点滅している。


ソフィアには怒られるし、自分はそれに怒鳴り返してしまうし、更にキレ返されるし、姉弟喧嘩が始まるし、マリーはドラゴンの前に飛び出してしまった。

この最悪な状況で、リアには何も出来る事がない。


ドラゴンが水に浸かっているのは、この上なく厄介だ。

水は燃やせないし、水の下の地面を融かす事は恐らくできるが、飛んで逃げられる。

飛び上がられたら、状況はさらに悪化すること請け合い。


捨て身で行くという手段も、まあ無きにしも…


・首を狙って斬りかかる

・洞窟を融かして生き埋めにする


ーー無い!!


巻き込む訳にいかない人間が3人もいる。

切り掛かったせいで、ドラゴンが暴れてあらぬ方向に攻撃するかもしれないし、洞窟の壁を壊したら、全員生き埋めの可能性もある。


遠距離攻撃といえば、アマテラス+精度の低い投擲くらいで、実質マリーの投げナイフ頼み。目に刺されば或いは。


本人はしっかり理論的な思考をしているつもりのリアだが、ギリギリのところで正気を保っているような状態だ。


頼みの綱はソフィアである。


……が、彼女の方は目下、完全に戦闘不能だ。


不用意にマリーを巻き込み、オルテスも巻き込み、庶民には怒鳴られ、……リアめ、絶対に許すものか……しかし、オルテスも自分に意見した……もしや、オルテスとリアは共謀してここに?いつの間にそんな仲に?


頭に血が上り、全く思考がまとまらない。



「姉上!!」



先程まで岩があった空間を見つめて固まっていたソフィアの肩をオルテスが掴んだ。

弟の声にソフィアはハッとする。


目が合ったオルテスは、鏡のようだった。


自分と同じ色の目には、少しの動揺も無かった。

落ち着いて、自信に満ちた、いつもの自分を、弟の姿に見た。


一気に思考がクリアになる。


ーーわたくしは悪役令嬢ソフィア・アバルキナ。

ーー主人公の宿敵。完璧な貴族にして、



ーー 最 強 の 魔 法 使 い 。



「…オルテス、貴方魔法は、少しは使えまして?」


蓮の蕾のように美しく指を伸ばした手を胸の前で交差する。


「姉上程ではありませんが」


オルテスは硬く握った拳をソフィアと同じように胸の前で交差する。そして、


「氷の女神よ、私に力を」


と、小さく詠唱を始める。

2人は顔を見合わせ、頷くと、ドラゴンに半身を向けて立ち上がる。すると自然に背中を合わせた格好になる。

その姿勢から、一気に両腕を横に開いて照準を定める。


「スピア!!!」

「アロウ!!!」


2人が詠唱した瞬間、無数の氷の槍がドラゴンに降り注ぐ。


これはオーバーキルでは。


1人で仕留めるつもりですらあったソフィアは、降り注いだ氷の量の多さに目を見開く。


走り回っていたリアとマリーは、氷同士がぶつかり生まれたしぶきが雪のように降る中、足を止め、呆気に取られながら、ドラゴンと姉弟を見比べる。


オルテスはスタンを起こし、がくりと膝を着く。


「オルテス様……!」


マリーは駆け寄ろうとしたが、足を止めた。

ソフィアが膝を折り、弟の肩に手を置いた。


「弟を守るのは姉の役目ですのに。知らないうちにこんなに成長されたら、寂しいですわ。」

「姉上を驚かせたくて…。」


彼女は愛しげに弟を抱きしめた。

麗しいスチルの途中だが、リアはドラゴンから目を離さない。置き去りにしていた聖剣ハダカ出刃包丁を取り、マリーに駆け寄る。


「何です?」


アバルキナ姉弟に見惚れていたマリーが、剣を何故か下向きに構えるリアを怪訝そうに見る。

ちらちらと画面の邪魔なだけで無く、反射、反射…とぶつぶつ繰り返している。

刹那、もげ落ちたドラゴンの頭が、口を


開…


「此処ッッッッ!!!!!」


ズン!!!

地面に刺さる金属塊。

ドラゴンのブレスを、聖剣ハダカ出刃包丁を盾にして防ぐ。

一応水属性のドラゴンという設定はあるようだが、青いドラゴンのブレスは、水というより、もっと、抽象的で純粋なエネルギーのイメージだ。

つまりは、魔力。


水でなく魔力の塊であるならば、とリアは考える。


ーー私の炎は消えない。


「反射・滞留…!!」


剣に纏わりつく青い光が、白く変わる。ブレスのエネルギーを一纏めに自らの光の膜で包むイメージ。


「集中・燃えろ…」


それを核に白い炎を燃やす。

徐々に包丁を構えてその切先で、頭一つとなって尚ブレスを撃とうと力を溜めるドラゴンの頭に、照準を合わせる


「消し飛ばすッ!!!!」


白い光線でドラゴンの頭部が体ごと塵と消し飛び、洞窟の壁にぼっこりと穴が空く。


「そんな事が出来るなら最初からおやりなさいな!っ痛た…」

「姉上!」

「お嬢様!」


ソフィアが挫いていた足の痛みを思い出す。


「いやっ!あれはカウンターで、一度、受けないと、あの…ブレスを……」


リアはぽろりと涙を溢す。


「オアァーーーーッ怖かったヨォォーーーー」


私は16歳の普通の少女なんですヨォォ!肝の座ったお貴族様と違うんですヨォォ!!と、地面にヘロヘロ崩れ落ちながら泣いた。


3人は慟哭するリアの周りに何となく集まった。

主に鼻から口にかけての不細工さが正ヒロインの美貌を台無しにしていた。


「避けろと言うだけで良かったのでは?」


マリーがやれやれとため息を吐く。


「だってマリーさんが死んじゃうと思ってーーーー」

「普通に避けたと思いますが。」

「ああ。ナイフ投げながら普通にブレス避けてたよな。」

「そうですわ。」


あまりに見苦しい泣き様に呆れつつ、三者三様の"あ、そう"を口にした。

ただ、ソフィアだけがふと、この、普段のらりくらりと胡散臭いヒロインが、


……リアが。

マリーの事を好きな、気に食わない子ザルが。

ゲームでは無く、この世界を知る転生者が。


【学園都市に来た本当の理由】が、


自分に会いたかったからでは無かったのだと思い至り、手を差し出した。


「でも、マリーを救ってくれてありがとう。」


リアはその手を取り、えぐえぐと泣きながら、何も理解していない様子で立ち上がると、首元のスカーフで涙を拭き、鼻をかんだ。

そして、幾分かすっきりした顔をした。




4人は洞窟を後にする。


「姉上!お姫様抱っこでいきましょう!」

「いいと思いますよ。グランドフィナーレって感じで。通路ちょっと狭いですけど。」

「いえ、若様はスタンを起こしたようでしたので、いつ魔力が尽きて倒れるか分かりません。肩を貸すくらいに止めた方が宜しいかと。」

「オルテス、それでお願い。」


オルテスが姉に肩を貸し、他の2人が洞窟の崩落に気を配る。


「あっ、私、そう言えば捻挫なら治せますよ、多分」

「早く仰言いなさいな、そういう事は!」

「先ずは洞窟を出ましょう」


マリーが急かした。


「そういえばオルテス、どうして貴方、学園の制服を着ているのかしら?」

「着てみたいと言ったら王兄様(おにいさま)がお貸しくださいました。」


ーーさっき聞いたやつだ!!!


オルテスが道中で詠唱し続けた言い訳が炸裂した。


「もう、あの方はオルテスに甘いのですから…。」

「…て、おにいさま?2人姉弟では?」

「若様の御義兄(おにい)様はハルンハルト王子であらせられます。」

「原作ちゃんとお読みになったのかしら」

「えーと……」


あいにく、男キャラが男キャラをどう呼んでいるかとか、興味が無いので。




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挿絵(By みてみん)

うさぎさんにはうさぎサンタ

ノンタンにはネコサンタ


オルテスには青ドラゴン


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