ソフィア様の夕べ
雨、降ってる時、魔法の授業どうすんの?
って、思うじゃん。
先生が上空にバリア張ってんの。
凄くない?
バケモノじゃない?
このレベルの使い手、1学年が全クラス同じ時間割で魔法の授業を受けてるわけだから、少なくとも4人は居るんだよ、この学園。
やばくない?
『やばいんだってば』
空に張られたバリアの向こうから、家庭教師のナターシャ先生が答えてくれた気がした。
先生元気かな?
「それで、癒しを使えない光の魔法使いは、どういう魔法を使うんですの?」
美しい声で現実に引き戻される。
「物を燃やす、爆発させる、光らせる、です。氷の魔法使いはどのような魔法をお使いになりますか?」
「物を凍らせる事と、氷の塊を出現させる事ができますわ。」
本日、リアとソフィアの仲良し(ただしなるべく立ち入らない)ペアである。
2人はドカドカと魔法を撃つ。
「空中に氷の足場を作る、みたいな事ってできないんですか?」
「重力に逆らって氷を浮かせるのは魔法でないのではなくて?わたくし、それは超能力だと思いましてよ。」
「ただ、」とソフィアは思考を巡らす。
「地面から階段を作れば似たような事はできましてよ。」
「じゃあ、最悪家が無くなっても、氷のお城に住めば良いですね。」
「あら!それは思い付きませんでしたわ!」
使用人達と、オルテスと、マリーと、自分が人里離れた氷のお城で楽しく暮らす様子を想像して、そんな没落なら全然有りだなぁ、とニッコリしてしまうソフィアだった。
リアは冗談だと言うタイミングを逃した。
「ところでリアさん、わたくし、先日ミリィさんから絵本をお借りしましたでしょう?直接お返ししたいのだけど、貴女の部屋にお邪魔して宜しくて?」
「いいですよ、ミリィ呼んでおきます。」
そして放課後。
コンコン。
「やあリアっちょ!勉強教えて!」
「あれ、ホライゾン?…良いけど。」
ホライゾン・バンダーウェイ。
ミリディを、待っていたら、別のクラスメイトが来た。
暫くしてまたコツコツとドアを叩かれる。
「リアっちょ!来たよ!!」
ミリディ。
「らっしゃいミリィ。」
「やあ!ミリィ。」
「あれー?何でホライゾン?」
2人がノートを広げたところで、またドアを叩かれる。
「リアっちょさん、勉強を、教えて欲しいです…。」
ピッピ・アストリッド・ニイマン。
「リアっちょー!お茶分けてー!」
アリス・ミラー。
「リアっちょ、お菓子食べる?食べよう?」
ミスティア・ダイニール。
卓にノートを広げるミリディと、ホライゾンと、ピッピ・アストリッド。
カップを準備するアリス。
クレープを焼くミスティア。
美少女がキッチンにいる時の海賊船みたいになってるじゃん?
「リアっちょ、あーし暇なんだけど、何か手伝う事無いか…あーっ!!みんな居るじゃん!!!」
ラニ。
「美少女がキッチンにいる時の海賊の行動そのものじゃん!」
部屋がかなりぎっしりしている。
コンコン。
「もーーー、あと来てないの誰ーーー?」
ソフィア様でした。
「何なんですの、これは?」
リアのCクラスメイトと思しき集団が、片手にお茶、もう片手にシロップで煮たクレープの乗った皿を持って、ソフィアとそのメイド?に注目している。
「私にもわかりません。ミリィ、誰かに言った?」
全員が首を横に振る。
「ですって。急にみんなやって来て。…あ、クレープ食べますか?ミスティアは本業、菓子職人ですよ。」
ミスティアがビシッと手を挙げる。
不思議な甘い良い香りがするクレープ。
とんでもなく食欲を唆る。
「夕食前なので遠慮しておきますわ。」
遠慮しつつも、ソフィアはごくりと生唾を呑む。
「香り付けにイシャイラズの皮とタネを使いました。体に良いので、気が向いたら仰ってくださいね!いっぱい焼いたので!」
「あー、ミスティア、さては山フィールド入ったな?不良じゃん!」
「あーーー!そういう事言うとラニはおかわり無しだよ!」
きゃっきゃとミスティアとラニがいちゃついている。
「あの〜、ソフィア様、せっかくなので質問コーナーでも、していきませんか?」
胡散臭いピンクカリアゲが胡散臭くニッコリ笑うので、ソフィアもニッコリと返す。
「せっかくの意味が分かりませんわ。」
「議政者には、庶民からの支持が大切だと思うんですよ。ファンサ大事。」
「議政者って…。」
「意外と的を射た発想ですね。」
ソフィアの前でリアに睨みを効かせていたマリーが意外にも納得している。
それで暫し逡巡して、「マリーが言うなら」と渋々ソファーに腰掛けるソフィア。後ろにマリーが控える。
「ソフィア様がみんなの質問に答えてくれるって!」というリアの言葉に、ソフィア様ファンの集いofC組(略してSFC)は、卓を挟んで向かいのソファーをセッセとどかし、かたまって床に座る。
「ハイ!」
そして、ビシッと勢いよく挙げられた手を、マリーが選ぶ。
「それでは、クレープ職人の貴女、どうぞ。」
「ミスティアです!今日は何の御用でここにいらしたんですか?」
「ミリィさんにお借りした本を返しに参りましたの。」
マリーが前に出て、ミリディに紙の包みを渡す。
「ごめんなさい、わたくし、絵本を落として傷を付けてしまって。新しい物を用意したのだけど、許して頂けるかしら?」
「ひっひぃぃーーーーっこッッ光栄です!!家宝にします!!!」
おお〜!ひゅー!やったじゃーん!とSFCが沸く。
ミリディがガチ泣きして、ホライゾンに介抱されている。
「ハイ!」
「貴女、どうぞ。」
「ぴぴぴぴぴぴっぴアストリッドです。ど、どうやったら魔法が上手くなるでしょうか?」
「そうですわね、魔法が上手い、の定義は人それぞれだと思いますけど、わたくしは、工夫して有効に使える事だと思いますの。ですから、あらゆる知識が魔法の上達に繋がると思いますわ。たくさん本を読んでね。」
「はっ!!はい!」
おおお〜
拍手が起こる。
ピッピ・アストリッドはポーっとしている。
「はい!!」
「ミリィさんを抱っこしている貴女。」
「はい!ホライゾンです!読書家という事でも有名なソフィア様ですが、お勧めの本はありますか?」
「この学園の本はまだあまり読めていないんですの。ですから、何をお勧めしたら良いのか…。好きなジャンルで宜しければ、息抜きに読むのは旅行記が好きでしてよ。」
おおお〜。
恐らく、明日からSFCに旅行記ブームが来る。
「ハイ!」
「では、貴女。」
「アリスです!お気に入りのお茶を教えてください。」
「今は水出しの緑茶に凝っていましてよ。色々試しているところで、まだお気に入りの銘柄は見つかっていませんの。」
おおお〜。
連続するおおお〜に、ちょっと気持ちよくなっているソフィアである。
庶民の飲み物の話題で親しみやすさを出していく主人の機転に、マリーも得意げである。
「ハイ!」
「リアさん、どうぞ。」
「ハルンハルト王子との馴れ初めが聞きたいです!」
おおお〜
ソフィアが何も言っていないのに、既に拍手が起きる。
「ご存知でしょうが!良い加減になさって!」と、SFCが居なければ怒っているところである。
「ご想像にお任せしますわ。」
「御成婚の折にはどうせ嫌と言う程語らされるのですから、練習だと思って。」
「食い下がりますわね。」
「なにとぞ!」と食い下がるリアの様子が、本当にふざけているとしか思えない。
聴衆の手前、顔には出さないが、イラッとするソフィアである。
しかし、
「一理あります。」
「マリーまで。」
SFCは痛いほど輝く視線をソフィアに向けてくる。
語るだけ語って、結婚しなかったら道化が過ぎるし、結婚もしないと思う。
だがしかし、道化師のように踊ったところで、ここに居る人間はいずれ、ここでだけの繋がりの庶民であるし、どんな道を選ぼうとも、自分で選んでそうなるならば、何を恥じる事があろうか。
ソフィアは観念して口を開く。
「お話しますわ。」
リア「ミリィ、ミリィ、ソフィア様がミリィに絵本返したいらしいから放課後、私の部屋に来て。(小声)」
ミリディ「ヒョエエエエエエエエ!!!!!!(高音)」
みんな、どうして感づいたのかさっぱり分かりませんね。