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ソフィア・アバルキナ


5歳の頃でした。

とても寒い日でした。


熱に浮かされたわたくしに前世の記憶が戻ったのは。


そして、この世界が、前世のわたくしがプレイしていた女性向けロマンスゲームの世界であると気付いてしまいました。


わたくしは、この国の有力貴族の娘、ソフィア・アバルキナ。

この世界が作り物で、わたくしは実在しないなんて、夢よ。

ただの夢よ。


夢に決まっています。



ソフィアはベッドに横たわったまま、ぽろぽろと涙を流した。


「ソフィアお嬢様?」


ソフィアの汗を拭いていたメイドが、溢れた涙も優しく拭いてくれる。


ーーマリー。わたくしの身の回りのお世話をしてくれる年上のメイド。

ーー【最後までソフィアの味方だったメイド。】


「姉上……?」


青い髪の子供が、ソフィアとそっくり同じ、蜂蜜のようなオレンジ色の目を潤ませて汗ばんだ手を握ってくれる。


ーーオルテス。わたくしの1つ歳下の弟。

ーー【ソフィアの弟。攻略キャラの1人、現在攻略中。】


2つの思考、2つの知識が重なる。

ソフィアは目を回し、また気を失った。



数日後、完全に熱が引き、やっと落ち着きを取り戻したソフィアがまずやった事は、世界観と攻略キャラの整理だ。



ここは、女子主人公が様々な男子の中から1人を選んで恋愛…もとい、攻略する女性向けロマンチックゲームの世界。


この世界には魔法を使える人間が存在する。


特別な能力を持って生まれた少年少女は16歳になると、王立学園に集められる。

その広大さから、【学園都市】と呼ばれるそこで、魔法のコントロール方を学び、勉学に励み、友情を育む。


魔法使いは王侯貴族に多いが、稀に庶民の家にも生まれる。


プレイヤーは、庶民の両親の間に魔法使いとして生まれ、貴族達が通う学園都市で過ごす事となるヒロイン。

入学から、2年生の学園祭までを彼女として過ごす。

ふわふわのピンク色ロングヘアで少し小柄。

デフォルトネームは【リリア・リトルスター】。

珍しい光属性の魔法使い。


ーーそして、わたくしは、お邪魔キャラの悪役令嬢。氷属性の魔法使い【ソフィア・アバルキナ】



スタンダードな攻略キャラは、王子【ハルンハルト・ヘルツベルグ】。優しそうな金髪。魔法属性

は雷。

ソフィアは、彼の妻候補筆頭であるが、彼の事が好きすぎるソフィアは、

バッドエンド:リリアに王子を奪われたショックで自殺。リリアにトラウマを残す。

グッドエンド:なんやかんや断罪されて追放。

という道を辿る。



俺様キャラの【カイオン・ヴァレーリ】。真っ赤な髪の襟足だけ伸ばして縛っている。魔法属性は炎。

ソフィアの家のライバルであり、この国一の貴族のの御曹司。彼を攻略すると、アバルキナ家が没落する。


ーー主人公とヴァレーリ家がくっついて我がアバルキナ家は没落。然もありなんですわ。


ひねた弟キャラの【オルテス・アバルキナ】。魔法属性はソフィアと同じく氷。

ソフィアの弟で、ハルンハルト、カイオン攻略後にチャレンジできる。家族の中に居場所がない。


ーーわたくしの前世に当たる方が攻略中でしたわね。弟と恋愛する前に記憶が途切れて良かったですわ。


あと、なんか、陰険なメガネ。

名前もメガネみたいな名前の、…グラス?とか?シェ……なんとか……。【グラス・シェヘラザード】

彼もオルテスと同じ条件でチャレンジが可能になるが、前世のソフィアは興味が無かったようだ。

魔法属性は多分、水。



ーーハルンハルト王子と関わらなければ、死だけは免れるでしょう。

ーーヴァレーリに付け込まれぬよう、しっかり勉強しましょう。

ーーオルテスが孤独にならないよう、わたくしが守ってあげなければ。

ーーあと1人が、どんな人間でも、オルテスさえ守れれば、アバルキナ家は大丈夫ですわ。



そして、ソフィアは、この全容を"最後まで味方だったメイド"のマリーに話すことを選んだ。

マリーは信じて力になると言った。悪夢に怯える子供に話を合わせただけかもしれないが、それで充二分。


「全てが有り得る事です。ソフィア様の先見の明が不思議なストーリーとなって夢に現れたのでしょう。」


と真面目な顔で言った。


「ふわふわのピンク色の髪の小柄な少女…とは、何のメタファーなのでしょうか?」


不思議な夢説でいくらしい。



そして、時が過ぎ、春。

残酷にも、ソフィアはハルンハルトを好きになった。

そして、ハルンハルトもソフィアを気に入った。

喜んだ両親は、嫡子であるオルテスを差し置いて、ソフィアばかりを大事にするようになった。

ソフィアが王族と繋がりを持てたとしても、オルテスという後継ぎを育てなければヴァレーリ家に付け入る隙を与えるというのに。


出会っては、いけなかった。


幼い恋心に振り回されそうになりながらも、ソフィアは理性的に生きた。


追放されても滅ぼされる事のないよう、氷の魔法の練習に励み、政治も経済も沢山勉強した。

弟が孤独にならないよう、特別な用事でも無い限り、双子のようにいつも一緒に居た。


オルテスは優秀だった。自分さえ王子の妻の候補に上がらなければ、どれ程両親から大切にされたかと思うとソフィアの胸は痛んだ。



14歳の頃、光属性の魔法を使う少女が発見されたという噂を耳にする。


ーーやっぱり存在するのね、リリア・リトルスター



16歳、ついに学園都市生活が始まる。

入学式典の日。いよいよゲームスタートを迎える朝。

式典を前に、近侍のマリーを置いて、ソフィアはある場所へ向かった。



原作ゲームのヒロイン、リリア・リトルスターがハルンハルト・ヘルツベルグ王子と出会う場所。


ハルンハルトを好きな気持ちは無くならなかった。

しかし、この日傷つく心の準備に10年以上かけた。

2人の出会いを見届けて、彼を諦める。

オルテスと家を守るのだ。


木の影でここを通る2人を待つ。


まず、ハルンハルトが通りかかり、


通り………


そのまま通り過ぎた。


ーー何も起こらない、どういうことですの?


これまでの行動で、未来を変えたと言うことなのだろうか。

安堵と不安が、ないまぜに押し寄せる。

ソフィアは思考を巡らせるが、人生の当事者に、世界は答えを教えてくれない。




「あの、ソフィア様、ですよね?」


少年の声がして振り返る。

身長は155cm弱、といったところが。声の主は小柄な男子学園生である。

制服は、体のサイズに合っており、兄上の制服を借りちゃった子供という訳では無さそうだ。

ピンク色の巻毛をマッシュルームカットにした、…面識がないと言うことは庶民だろうか?または余程の田舎貴族か。

しかし、身長が伸びた時に制服を仕立て直す程度の小金はある、と言ったところか。


目を引くのは背中に担いだ大剣だ。

体に隠れ切らずに、柄と先が小さな人間のシルエットから飛び出している。


「貴方様のファンでございまして。」


そう口にし、眠そうな目をして、ニヤニヤと笑っている。

不遜な男だ。

ソフィアは動じず、にっこりと微笑む。


「あら、そうでしたの、ありがとう。でも、人に名前を尋ねる時は、自分も名乗るべきではなくて?庶民の方はそうなさらないのかしら?」


これは失礼しました!と下手な敬語で頭を下げたり上げたり、慌てる男子学園生に、ソフィアは作り笑顔を崩さない。


「お名前は?」

「わっ、私は、」


名前を問われて男子学園生は、ぽっと顔を赤くする。



「リア・リトルスターと申します。」



どうぞよろしく。





どうぞ宜しく。

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