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歌夜さんが実在する人物かどうかをどうやって証明するべきか。
実在はする。私に会ったことの証明だ。
誰も信じてくれない。まあ、私も例えば友人Aがいきなり実は総理大臣の息子なんだよね。ってカミングアウトされたとしても信じないだろう。
しかし、私の全てを否定された気分で外を歩くのは、どんな晴天であろうとも気分のいいものでは無いと証明はできたのだが、主観でしかない。
主観でいいのならば、歌夜さんと会ってるし、何ならあの時の封筒に入った野口英世は鞄に今もある。
うだうだと思考の海に泳ぎに出ていれば、大学の出口で声をかけられた。
「待ってたよ」
「か、歌夜さん!これは奇遇ですね」
「……さん?」
「歌夜」
咄嗟にさん付けして読んでしまったが、どうやらお気に召さなかったらしい。こちらの心境としましては怖い教授にいきなりタメ口をきくようなものなので、心臓にとても悪いですが、私の気持ちなど歌夜さんの機嫌になんの関係もない。
よって、私共平民は気持ちを考え、最適解を出さなければならない。
「まーた、かたまったよ」
「はっ、す、すいません。当然の幸運に幸福を噛み締めていました」
「なにか、いいことあったの?」
「ええ、歌夜さ、歌夜にこうやってまた会う事が出来たのですから、これを幸運と言わずなにを幸運と言いましょうか!」
「もう、おおげさ」
歌夜さんは両手で頬をムニムニと触ってニマニマと可愛らしい。
私はこの一瞬を脳裏と網膜に焼き付けた。きっと今後は目を瞑れば、今この瞬間の歌夜さんの表情を鮮明に思い出すことが出来よう。
少将下品な話だがナニをする時にも一役かって……いや、止めておこう。誰も得をしない話題であった事を今ここに謝罪する。
そんな事より、歌夜さんが私めを待っていたという罪深い現象が起こってしまっている!
これがどのような罪か分からぬ者もいまい。
ピンと来てないそこのお前にも分かりやすく言ってやれば、そうだな、この状況は他国の大統領に銃を突きつけている様なものだ。
うむ、分かりにくい。
「スケジュールとか、きめてなかったなーって」
「スケジュール……ああ、勉強のですね。そういえばそうでした。なら、スマホにでも」
「連絡先教えるの忘れた、てへ」
「うっぐぁ、可愛いが渋滞しつつ玉突き事故を起こした後にガソリンに火が燃え移って爆発した」
「あはは、わかんなーい」
自分でドン引きなセリフを一言でサラッと流しつつ、次の言葉に繋げやすいように終わらせる。
なんという、心遣い。寛容さは仏すら嫉妬を覚え修行の旅へ出ていきそうな程だ。
「で、ではLINEのQRコードを出しますね」
「えーと、どこにあるんだっけ」
「そこの画面上の」
「これ?」
「そうです」
「あっ、わたしもQRコード出しちゃったや」
「なら、私が読み込むますね」
「さすが、先生だ」
「えへへ、照れてしまいますね」
ああ、神様!私は前世でどれだけの徳を詰んだのでしょう!
母上、今、私は幸せです。




