魔術結晶と白髪の少女
ゲインとリリーはペルシに戻り、クエストの報酬を受け取るためにまっすぐギルドへと向かう。
「クエスト完了の報告ですか?」
「はい、鉱石採掘のクエストの報告なんですけど......」
「かしこまりました、担当の者をお呼びいたしますので、少々お待ち下さい」
そう言って受付嬢が奥の方に消え、しばらくするといつもゲインたちのクエスト手続きを行ってくれているカペラという金髪の若々しいエルフがこちらに向かってくる。
「ゲイン様とリリー様、クエストお疲れ様です、まずは採掘した鉱石を見せていただけますか?」
「はい、えっと......これです」
ゲインはポーチの中から鉱石が入った袋を取り出し、カウンターに置く。
「こちらですね?では、クエスト完了の手続きと報酬の確認をしてまいりますので、もう少々お待ち下さい」
カペラは鉱石の入った袋を抱えて奥に行き、鉱石の鑑定、クエスト完了の手続きを済ませている。
用意された別室で手続きを待っていると、リリーのお腹から可愛らしい音が聞こえた。
「あっ」
「ぷふっ」
ゲインはその可愛らしい音を聞いて笑ってしまった。
「ゲイン様!笑わないでください!!」
「ご、ごめんごめん!」
リリーは頬をぷくっと膨らませ、ぽこぽことゲインの背中を叩く。
そんなやりとりをしていると、手続きを終えたカペラが部屋に入ってくる。
「お待たせいたしました、こちらがクエストの報酬となっております」
そう言ってカペラは報酬金の入った袋をテーブルに置く。
「あ、ありがとうございます!」
「ところでゲイン君、帰ってくるのが遅かったけど、ガルザ洞窟で何かあったの?」
渡された報酬金を確認していると、砕けた口調でカペラが小首を傾げて尋ねる。
「あー、えっとですね、話せば長くなるんですけど......」
そう言ってゲイン達は洞窟で起きたことを話し出す、途中からカペラは口を半開きにして聞き入っている。
「ガルザ洞窟でヴェレーノサーペントが出現......致命傷......治癒......討伐............」
カペラは情報量の多さに口をパクパクとさせて明後日の方向を向いている。
「あ、あの〜?カペラ様?大丈夫ですか?」
リリーはカペラに小さく問いかける、するとカペラは途端に机に倒れ込み、唸るように喋り出す。
「なんでそんなことになったのよぉ〜......」
あまりの馬鹿げた話にカペラは頭を抱えてしまう。
「あはは......なんででしょうね......」
ゲインはそんなカペラを見て乾いた笑いを出すしかできなかった。
「あ、そういえば」
唐突にリリーが喋り出す。
「どうかしたの?リリー?」
「はい、洞窟で拾ったあの石のことを聞こうと思いまして」
リリーが洞窟内で拾った露草色の石、リリーが言うにはその石が光った瞬間に魔法が使えるようになったらしい。
「カペラ様、こういう形の、青い色の石について何か知っていませんか?」
リリーは自分の腰のポーチからペンと紙を取り出し、記憶にある石の形状と色を伝える。
「この形......ちょっと待ってて?」
カペラは思い当たる節があるのか、席を外す。
しばらくして、一冊の本を持ったカペラが戻ってくる。
「えっと、確かこのページに......あ、あったあった」
カペラはテーブルに本のページを開いて尋ねる。
「リリーちゃんが見た石ってこれかな?」
そのページに載っているのは確かにリリーが拾った石と同じ形状である。
「そうです!この石です!」
リリーが指差して言う、するとカペラは説明を始めた。
「えっとね、これは魔術結晶っていって、大体は魔族の生成によって作られる魔力の塊なんだけど、たぶん、リリーちゃんが拾ったのはこっち」
そう言ってカペラが隣のページの一文を指差す。
「天然結晶......?」
「そう、ごくごく稀に魔力活性化によってダンジョン内部の構造が変化するときに魔力の流れが一部分で止まって結晶となって落ちることがあるの」
カペラは天然の魔術結晶についての説明をする。
「天然結晶は魔族が作った魔術結晶よりも高い魔力を持っているの、人の体内の魔力と共鳴して、結晶内の魔力を体内に放出することによって魔法が使えるようになったりすることがあるの」
「だからあのとき止まっていた私の体の魔力が動くような感じが......」
リリーは口元に指を当て深く考えている。
カペラが本を閉じながら口を開く。
「その結晶の純度とか、魔力量によってなんだけど、天然結晶によって発現した魔法は自然に発現した魔法より低い消費魔力量で高い威力があるの」
「私の魔法はヴェレーノサーペントほどの氷塊を形成することができたのですが......」
「ふむ、その魔力量だと特に魔力濃度の高い魔術結晶かもしれないね......」
そんな話をした後、カペラが一息ついて立ち上がる。
「そろそろ仕事に戻らなくちゃ......リリーちゃん!魔法の発現おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!」
「ゲイン君!」
「は、はい!」
カペラはリリーに賛辞を送った後、ゲインに顔を近づけて凄い圧をかける。
「く、れ、ぐ、れ、も!無理はしないように!リリーちゃんを泣かせたら許さないからね!?」
「わ、わかりましたぁ!」
ゲインはその圧に潰され、間抜けな声で返事を返す。
正直、ヴェレーノサーペントよりも恐ろしく感じてしまった。
ゲインとリリーはギルドを後にして、一度宿に戻ることにした。
多くの人々で賑わうペルシの街を歩いていると、路地裏で声が聞こえた。
「おい!こんだけしか持ってねぇのかよこの野郎!」
「ひひっ、どうしやすか?こいつ、顔は良さそうだから遊郭にでもあったら金になりそうですぜ!」
「それもいいが、せっかく売るんだ、一回ずつぐれぇはやっておかねぇと損だよなぁ?」
「それはいい考えですぜ!じゃあ俺が抑えておきやすぜ............ぐぁっ!?」
気づいたら体が動いていた、放っておけなかったから、助けたかったから、何より、ゲインの中の正義が許さなかった。
痩せ細っている男の顔面に拳による一撃をお見舞いする。
「誰だ!?俺ら冒険者様に手を出しやがったクソ野郎は!?」
ゲインは気配を消し、もう一人の太った男の後ろに立ち、手刀をお見舞いする。
「ぐぁっ......」
男は情けない声を出して倒れ込む。
「もう!ゲイン様!?お気持ちはわかりますがすぐに動き出さないでください!」
「ご、ごめん、どうしても放っておけなくて......」
勝手に飛び出したゲインにリリーが叱りつける。
「う、うぅ......けほっ、」
倒れ込んでいた少女が起き上がり、こちらを見上げる。
「あ、あなたたちは、誰、ですか?」
ボロボロの服とマントを纏った白髪の少女が震えながら尋ねる。
「俺はゲイン、この子はリリー、大丈夫、俺たちは君に暴力を振るいたいわけじゃないんだ」
「あ、さっきの人たち、倒れて、る......」
「うん、こいつらは俺が倒したから、もう安心して?」
白髪の少女は顔を上げる、エメラルドのように綺麗な翠玉色の瞳で俺を見つめる。
「もし良ければなんだけど、君の名前も聞かせてもらってもいいかな?」
ゲインの問いに対して、少女はゆっくりと答える。
「ソフィア......ソフィア・アルニラム............」
「ソフィア......うん!可愛い名前だね!」
「あ、ありがと、う......」
少女の顔がみるみる赤くなる、横にいるリリーからすごい殺気を感じるのは気のせい......きっと気のせい......。
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