少女の剣と少年の目覚め
また光が見えた。
でも違う、以前の光ではない。
冷たい光、でも、どこか暖かい光。
少女が紡ぎだした言葉。
それは氷結の魔法、あらゆる生物の生命活動を鈍らせる最大の攻撃。
「やぁ!」
リリーは自身の魔力を練り上げて作り出した氷塊を大蛇に穿つ。
「ギ、ギギギ、ギシャァァァァ!!!!」
氷塊は大蛇の胴を貫き、その場で冷気を噴出し、大蛇の胴体を凍結させる。
サーペント種と言っても大元は蛇と同じ、故に変温動物である蛇に対して氷結魔法は無類の強さを誇る。
「終わりにします!」
リリーの体内を巡る魔力の濃度が急激に上昇する、駆け巡る魔力はうねり、混ざり合い、放出される。
リリーの頭上に現れる大氷塊、その大きさ、質量ともに最大級の氷塊が形成、形状変化し、巨大な氷の剣へと変わり、少女の静かな声が響く。
『我は凍て付く女王なり、我が魔力は氷結なり、我が刄は汝を貫き、永劫の眠りへと誘うであろう......』
「久遠の氷剣!!!」
凍てつく剣は少女の合図によって大蛇を斬り裂く、大蛇の傷口は出血することなく、負傷した箇所から冷気を纏い、凍りつく。
「眠りなさい、暗く冷たい闇の中で、永久に......」
少女の冷血な声がルーム内に響く。
「ゲイン様......ヴェレーノサーペントは倒しました、ですが、貴方の傷はどうすれば......」
リリーは壁にもたれているゲインに近寄り、問いかける。
少年の体は醜い程にズタズタ、全身から血が吹き出ており、腕や脚などの関節はあらぬ方向に曲がっている、しかし、小さくだが呼吸はしている、文字通り虫の息だ。
「おそらくポーションをかけてもダメ......です、よね......」
ポーションはある程度の回復はできるが万能薬ではない、傷の治療はできても骨の再生まではいかない。
「一体どうしたら......?これ、は?」
リリーはゲインのポーチの中に、紫色の液体が入った容器を見つける。
「これは!エリクサー!?なぜゲイン様が!?」
霊薬エリクサー、魔族の濃密な魔力とエルフの知能が産んだ万能薬である、ポーションと違い、経口摂取で骨の再生、失った血液の急生産など、致命傷に絶大な効果を誇る万能薬である。
「これゲイン様に飲ませればゲイン様の傷は治る......、でも、ゲイン様は飲めるほどの体力がない......、し、仕方ありません、えぇ、仕方ありませんとも、く、口移しで飲ませるしか......」
リリーは小さい声で言い訳をし、半ば嬉しそうにエリクサーを口に含んだ。
(ゲイン様......失礼いたします!!)
ちゅぷ、とくとくとく
ルーム内に水の跳ねるような音が響く。
無事にエリクサーがゲインの喉を通り、全身へと巡る、停止しかけていた生命活動が再開し、治癒速度の暴走によって傷が塞がり、血液の急生産により心臓が忙しなく鼓動する。
ややあって、ゲインの目が開く、全身の傷は治っているが、脳に痛みの感触が残っている、それがとれるまでは立ち上がれないだろう。
「ゲイン様!よかった!」
リリーの強い抱擁、普段はなんともないが、今の状態だと脳に響く。
「ちょ、リリー!痛い!痛いって!」
俺が制止をかけてもリリーは抱きしめる手を緩めない、むしろ強くしてくる、それほど心配をかけてしまったのだろう、後でしっかりと謝らなくては。
「リリー、助けてくれてありがとう、今度は俺が助けられちゃったね」
冗談まじりに俺は笑いかける。
「では今度はまたゲイン様が私を助けてくださる番ですね?」
リリーが眩しい笑顔で答える。
そうだ、今度こそ俺がこの子を守る、まだ力が及ばないかもしれない、またこの子の手を借りてしまうかもしれない、でも、いつかは俺の力でこの子を守りたい、いや、守ってみせる。
「ゲイン様、もうよろしいのですか?」
黒髪の少女が俺に心配を投げかけてくる、当然だろう、ついさっきまで全身ズタボロの瀕死だったのだから。
「あぁ、大丈夫だよ、少し歩くくらいなら大丈夫......痛っ!」
「ほら!やっぱり痛いんじゃないですか!あまり無理をなさらないでください!」
リリーは俺に目くじらを立てて小さい体を揺らしながら叱りつける。
「あはは......本当にごめんね、リリー」
「まったく......こんなに心配かけさせたんですから、もう少し謝罪の意思を見せてほしいですね?」
「うっ、わ、わかったよ......、じゃあリリーがしてほしいことなんでもするよ?」
途端にリリーの目が光りだす、言ってはいけない言葉を言ってしまった気がする。
「言いましたね?ゲイン様?その言葉、絶対に忘れないでくださいね!」
少女は俺の方を向いていたずらっぽく笑う、長い黒髪がふわりと風に遊ばれる。
そんなやりとりをしながら俺たちはペルシに帰る、足並みを揃えて、笑いあいながら。
第5話!いかがでしたか?
今回は前半がリリーの初戦闘、後半がゲインとリリーの変わらない日常的なのを描かせていただきました!