クエスト報酬と黒髪の少女
光が見える
綺麗な光が、正義の光が。
気のせい......だろうか。
俺はボアロードを倒してすぐに、少女の元へ駆け寄った。
「大丈夫?怪我は......なさそうだね」
「あの、えと、ありがとう、ございます」
美しい黒髪の少女はたどたどしくお礼を述べる。
「あ、あの、貴方様のお名前をお教えいただきたい......です......」
「あ、そういえば......まだ名前言ってなかったね、俺はゲイン、ゲイン・フラウスだ」
「ゲイン様というのですね、とても素敵なお名前です!」
「私はリリー、リリー・フローメルと申します。助けていただいて本当にありがとうございます!」
黒髪の少女、いや、リリーが改めてお礼を述べる。
「気にしないでよ、俺は倒れていた女の子を助けただけだからさ」
「いえ、ゲイン様は私の命の恩人でございます!怪我を治していただいただけでなく、ボアロードまで倒してしまわれるだなんて......」
「あはは......、そうだ、リリーはなんであんなに傷を負っていたの?」
リリーは酷い傷を負っていた、およそボアロードによる傷ではないだろう、あばらが折れてなかったことから突進されたわけではない、それよりもっと、こう、人為的に付けられた傷のような......。
「えっと、その、それは......ですね......」
リリーはとても言いにくそうに下を向いてしまった、何か言えない理由があるのだろうか?
「えっと、言いにくいことだったら無理して言わなくてもいいよ?」
「い、いえ!命を救っていただいたのに自分のことを話さないのは気が引けてしまいます......」
「そ、そう?じゃ、じゃあゆっくりでいいから聞かせてくれるかな?」
そういうとリリーは小さく頷き、淡々と話し始めた。
「私は、家が少し格式の高い家でして、父様の敷いたレールを歩き続けることに少し、嫌気が差してしまいまして......」
リリーが続ける。
「ある日、私は父様に反抗してしまったのです。もう嫌だと、自由に生きてみたいと......」
リリーの目尻が濡れる、太陽の光が反射してキラキラと目元が輝いている。
「その瞬間に父様は目の色を変えて私を叩きました、一度だけでなく、何度も、顔や、背中、身体の至る所を......」
「私は、私は逃げてきたのです、必死で、追いつかれたくない、もうあんな生活に戻りたくない一心で......」
「そして森に入りました、ですが、ボアロードの縄張りに入ってしまったのです......、私は無我夢中で逃げて、逃げて、疲れて、倒れてしまいました。」
少し間を置いて、笑顔でリリーは続ける。
「そして、ゲイン様に助けていただきました、傷だらけの私を、この世界に絶望していた私を、生きる事を諦めていた私を助けてくれました!」
めいっぱいの笑顔をこちらに向けるリリー。
その後少しの沈黙の後、俺はリリーにある誘いをした。
「ねぇ、リリー、これから行くあてはある?」
「いえ、我が身一つで家を出てきてしまったため、これからどうしようかと思っていました」
「じゃあさ、リリー。」
「俺と一緒に、旅をしないかな?」
俺はリリーに優しく微笑みかける。
「良いの、ですか?私、またゲイン様に助けられてしまうかもしれませんよ?それに、迷惑もかけてしまうかもしれませんよ......?」
「構わないよ、むしろ俺はリリーを助けたい、困っている女の子を放っておくなんて俺にはできない、俺の正義が許さないんだ!」
俺は少し冗談っぽく、だけど、自分の真意を見せるようにリリーに微笑んだ。
リリーは今までよりも眩しい笑顔で俺を見つめ、大きな声で返事をした。
「はい!これからよろしくお願いします!ゲイン様!」
俺はリリーを連れてペルシに戻り、まず服屋に寄った、家出をしてきたリリーの服はボロボロになってしまっていたため、新しく買い直すことになったのだ。
(リリーが俺の服でもいいなんて言いだした時は本当に焦ったけどね......)
俺はいまだに焦りながらリリーが着替えてくるのを待つ。
試着室のカーテンが開くとそこには美しい天使のような少女がいた。
青いブーツにほっそりとした太ももまで伸びる黒いソックス、ふわりとした白のスカートとの間に見える太ももには眩しささえ感じられる、そして、まるで何処かの魔術学校の正装のようなきっちりとした白のブラウスに裏地が赤い紺色のマントが腰まで伸びている。
「どう......でしょうか?似合って、ますか?」
天使が可愛らしく小首を傾げて聞いてくる。
「最高に似合ってるよ!リリー!」
俺は素直に、心に思ったことをそのまま口にした。
「えと、えと、あの、その、ぷしゅう〜......」
リリーの頭から煙がでた、顔は茹でたタコのように真っ赤だ。
「リリー!?大丈夫か!?リリー!?」
リリーが目覚めてから数分後、俺たちは冒険者ギルドに来ていた、薬草採取のクエストの報酬を受け取るためだ。
「すみません、クエストの納品をしたいんですけど」
「かしこまりました、こちらは......薬草15個の納品ですね、確認いたします」
「お願いします」
受付嬢が薬草の個数を確認し終えると、報酬金を持ってこちらにやってくる。
「お待たせいたしました、こちら、今回のクエストの報酬金の1500ナーロとなっております」
「ありがとうございます!」
俺とリリーは報酬金を受け取った後、ドロップ品買取カウンターへ向かった、ボアとボアロードのドロップ品を売るためだ。
「すみません、ドロップ品の買取をして欲しいんですけど」
「では、ドロップ品をこちらにどうぞ」
「わかりました」
そう言って俺はポーチから「若猪の牙」と「小猪の皮」、そして、ボアロードのレアドロップ品、「巨猪の鋭牙」を取り出し、カウンターに置く。
「こ、これは!?ボアロードのドロップ品!?し、失礼しました、この辺りだと滅多にみないものでして......」
「あはは......ですよね......」
しばらくしてお金が入った袋を抱えた受付嬢が戻ってくる。
「ええと、こちらが今回の査定額となっております......」
「あ、はい、えっと?............15000ナーロ!?!?」
俺は驚いて大声を上げて立ち上がってしまった。
この世界は50ナーロあれば普通の宿屋に3日間は泊まることができ、1000ナーロあれば一月は生きていけるとも言われている。
「はい......、先程のボアロードのドロップ品はとても状態が良く、あれだけで14000ナーロの価値がありました......」
「そ、そうですか、あ、ありがとうございます......」
俺は思いがけない大金を抱えてリリーと共にギルドを後にした。
俺とリリーはギルドを去った後、宿屋に向かった。
「すみません、一部屋借りているゲインなんですけど、1人増えたのでもう一部屋借りれますか?」
「申し訳ございません、ただいまシングルルームが空いておらず、ダブルルームなら一部屋だけ空いているのですが......」
「いやいやいや!流石に......この子は女の子ですし......」
そう言ってリリーを見つめると、予想外な言葉が飛んできた。
「私は構いません......よ?その、ゲイン様と一緒の部屋でしたら......」
リリーは顔を真っ赤にしながらボソボソと言う、俺も顔が赤くなったのを感じた。
「え、えと、じゃ、じゃあ、ダブルルームを、一応3日でお願いします......」
「かしこまりました、少々お待ちください」
部屋の鍵を受け取り、部屋に向かう、俺たちの部屋は5階らしい。
階段を上り、部屋に入ってみると、部屋はとても綺麗で、窓から見えるペルシの街は壮観だった。
「えと、じゃあ、リリーはベッドで寝て?俺はソファで寝るから」
「いけません!ゲイン様がベッドで寝るべきです!」
「いやいやいや!リリーは女の子なんだからベッドで寝ていいよ!」
このようなやりとりが続いた後、リリーが声を大にして言う。
「では!せっかくのダブルベッドなのですから!2人で寝ましょう!」
俺は硬直した、今、なんて?一緒に寝る?
「いやいやいやいや!リリー!?今日出会ったばかりの男にそこまで体を許しちゃダメだよ!?」
「どなたでもいいわけではありません!ゲイン様だから!私を救ってくれたゲイン様だから許すのです!」
その言葉の後に、リリーは目に涙を浮かべて弱々しく言う。
「それとも、それともやはり私には魅力がないのでしょうか?む、胸も小さいですし、その、身長も小さいですし......」
「いやいや!そう言うことじゃないよ!むしろリリーはすごく魅力的だよ!」
「なら、一緒に......寝ていただけませんか?」
「うっ......わ、わかったよ、で、できるだけ離れて寝るから、一緒に寝よう?」
その言葉の瞬間、リリーの表情が明るくなった、
まるで先ほどまでの涙が嘘だったかのように......。
「では!早速寝ましょう!明日も早くからクエストに行くために!さぁ!さぁ!」
そう言って無理やりベッドに倒され、リリーも眠りについてしまった、とても強引に押された気がするが、まぁいいか、俺もそろそろ寝るか......。
そう心の中で思って寝ようとした瞬間に、背中に温かい感触がした、まさかと思いゆっくり後ろを振り返ってみると......やはりリリーだ、いや、この場に応じてリリー以外にはいないのだが。
「ふにゅ、ゲインしゃまぁ〜」
俺の名前を寝言で言いながら一見平たく見えるがしっかりと存在感を感じさせる双丘を俺の背中に押し当ててくる。
(こんなの寝られるわけねぇ〜!)
結局俺は一睡もできなかった。
第3話!いかがでしたでしょうか!
リリーの容姿と服装はほぼ僕の趣味です、、、