旅立ちと馬車
「ふわぁぁ〜......あんまり寝れなかった......」
ゲインは目を擦りながら昨晩のことを思い出してあくびをする。
両隣でまだ寝ているリリーとソフィアを起こさないようにゆっくりとベッドから出て窓の外を眺める。
「今日もいい天気だな......」
何も考えずに窓の外を眺めているとベッドからモソモソと音が聞こえる。
「二人とも起きた?」
「ゲイン様......おはようございます......」
「ゲイン......おは、よぅ......」
リリーとソフィアは眠そうに目を擦っている、ソフィアに至っては二度寝の態勢に入っている。
「ほら、ソフィア起きて?」
「まだ寝てたい......」
ゲインはソフィアの体を揺さぶるが、ソフィアは目を完全に開けず、眠たげに答える。
その後なんとかソフィアを起こし、身支度を終え、今日は何をするか話し合う。
「ちょうど今日、この宿から出ていく日だから新しい街を目指そうと思うんだけど、どうかな?」
「私は構いませんよ、ソフィア様はいかがですか?」
「私も、いいと思うよ......」
「じゃあ準備しようか」
そう言ってゲイン達は各々の旅立ちの準備を進め、お世話になった宿の掃除を終えて、一度ギルドへ向かう。
「カペラさんにもお世話になったし、挨拶くらいはしておかないとね」
「はい!」
ギルドに着くと丁度カペラがクエスト掲示板の張り替え作業を行なっていた。
「カペラさーん!」
「ゲイン様、おはようございます、今日もクエストですか?」
「あ、いえ、今日は伝えることがありまして」
張り替え作業の手を止めてカペラが首を傾げて尋ねる。
「伝えること、ですか?」
「はい、実は今日ペルシを旅立つことにしまして、カペラさんにはお世話になったので挨拶を、と」
ゲインの言葉を聞いたカペラは顎に手を当てて少し考え込み、少ししてから口を開く。
「どこの街へ行くかは決めているのですか?」
「えっと、とりあえずはここから近いポルトに行こうかと」
ーー蒼海都市ポルト、海沿いにある港町で商業が盛ん、そのため物流も良く、珍しいアイテムや武器などが市場に出回ることがある。
海沿いには多くの洞窟もあるため、ポルトに滞在する冒険者も多い。
「なるほど、ポルトに......」
「はい、もう少ししたら向かおうかと」
カペラは軽く頷いてからゲインの方を向く。
「ここのところポルトまで通じる道に魔物が多くいるという報告を受けているので細心の注意を払って向かってください」
「そうなんですね......わかりました!ありがとうございます!」
ゲインはカペラの注意を聞き、声を張る、それを聞いたカペラはゲインの方を向き、口を開く。
「もう向かうのでしょう?」
「はい、そろそろポルト行きの馬車が出る頃ですし」
「わかりました、では気をつけて、貴方の旅に幸運を......」
カペラは目を閉じて旅の安全を願う言葉をゲインに投げかける、それを聞いたゲインは先程よりも大きな声で返す。
「いってきます!」
カペラへの挨拶を済ました後、ゲイン達は馬車乗り場へと向かっていた。
「ゲイン様、ちゃんとお別れは済ましましたか?」
「うん、ちゃんと伝えてきたよ」
リリーの問いにゲインは笑顔で答える。
時間はまだお昼前、穏やかな風が街路を駆け抜け、出店などが賑わいだす時間帯。
広い街路から少し歩くと、ペルシの南にある馬車乗り場に着く、丁度ポルト行きの馬車が来てるらしい。
「ゲイン様!馬車が来てますよ!早く行きましょ!」
「ちょ、リリー!待って〜!」
「ふふ......リリー、楽しそう」
ゲインとソフィアは元気よく飛び出すリリーを早足で追いかける。
「はぁ、はぁ、リリー、速すぎるよ......」
「うぅ......」
やっとリリーに追いついたゲインとソフィアは息を切らして倒れそうになる、ソフィアに関しては今にも倒れそうだ。
「ご、ごめんなさい......少し気分が上がってしまって......」
リリーはそんな二人を見てしゅん、と肩を竦める。
「あはは......まぁ気持ちはわかるよ」
ゲインがリリーの頭を撫でて微笑む。
そんなやりとりを交わしてからゲイン達はポルト行きの馬車へと乗り込む。
この時間は、大体の冒険者がクエストに行っているため馬車に乗る人は少ない。
そのため、貸し切り状態で馬車に乗ることができた。
「ふあぁ......馬車の揺れが心地よくて寝てしまいそうです〜......」
「私、も、眠い......」
リリーとソフィアが眠たげに目を閉じかけている。
「いいよ、俺が起きてるから、少し休んでて?」
「お言葉に甘えさせていただきます......」
「ありがと......」
そう言ってリリーとソフィアはゲインの肩に頭を乗せて小さく呼吸をする。
ゲインはそんな二人を優しく見つめ、馬車の窓から空を見上げる。