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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第六十六話 対ファントム7『レイ』

レイの過去回です。

一応微グロ描写があります。

 世界には表と裏がある。

 それは世の中の心理のように聞こえるかもしれないが、私にとっては至極当然の考え方だった。

 どちらかと言うと私は生まれた時から世界の裏側で生きていたように思える。


 生まれてすぐ私と姉様には英才教育が施された。

 英才教育、などと言う言葉は適切でないのかもしれない。

 言うなれば犯罪者教育が行われた。


 生まれた時から数え切れないほどの血や死体を見て、何人もの動物を刀で切り裂いてきた。

 そうしているうちに、残酷なことをするのに何も感じなくなる。

 人が死んでも表情一つ変えないことすらできた。


 それらの教育も全て私たちのお母様がしてくれた。

 短剣の扱い方や生物の殺し方、裏社会で生きるものの心得など。

 なぜお母様がそんな真っ当でない教育を私たちに施す必要があったのか。


 お母様は、ある闇組織のトップだったのだ。

 個人から国家まで、様々なところから闇仕事を引き受け、その報酬によって成り立っている組織。

 そんな危険な組織の長のもとに生まれた娘。

 それが私たちだった。

 危険なことを教わるのも必然だと言える。


 ちなみに父という存在にまだ私はあったことがない。

 どうやら「表」で真っ当に働いて仕送りを送ってきてくれているらしいのだが、詳しいことは聞かされてない。

 

 母親は私にとって生きる術を教えてくれた恩人だった。

 今ならば子供にそんなことを教えるのはどうかしていると思えるのだが、常識すらも定まらない昔に母の教育を疑えるはずがない。

 生きる術とはつまり、この闇組織でそれなりの実力を身につけること。

 

 様々な国に恩を打ったり喧嘩をふったけたり、妨害工作を仕掛けたかと思えば隠蔽工作を手伝ったり。

 まあ様々な人物に恨まれ、それによって殺されることも少なくない。

 他に敵勢力に捕まると拷問を受けたり殺されたりする残酷な場所なのだ。


 それを防いだり、耐えたりする訓練を私と姉様は施されてきた。

 闇仕事をするには、人を殺すのに躊躇ってなんかいられない。

 闇仕事をするには、敵勢力に捕まったら自殺するのが定めだ。

 闇仕事をするには、それなりの戦力がなければいけない。


 そのために様々な動物を殺してきたし、悲惨な死に方をした死体も見てきた。

 歯の奥に自殺用毒袋だってあるし、拷問器具は一通り体験して全てに耐え切った。

 長年愛用していた短剣は生まれてからすぐに握ったものであり、十年間それを振り続けてきた。


 それは全て、この過酷な環境で生きる私たちにとって必要なものだった。

 

 母様は何かを教える時以外はいつも優しくて、笑いながらスープを作ってくれたこと。

 姉様はいつも傍若無人で、生まれながらに授かった加護も相まって、いつも私の憧れだった。

 そして闇組織の皆は、基本的にお金の事情で仕方なくやっている人が多く、みんな優しかった。

 

 当時の私にとって、闇組織は全てだった。


 そしてある日、母に命じられてクロノオという国の軍部に潜入するように言われたのだ。

 どうやらクロノオ国王と人脈を作っておきたいかららしい。

 

 もちろん私と姉様は二つ返事で頷き、そのままクロノオの軍部に侵入することに成功したのだった。

 お誂え向きに軍部試験なんてものがあったので、それを都合よく利用させてもらったのだ。

 

 そしてそこでの私達の役目は、クロノオ国王グランベルとパイプを作ること。

 今後クロノオに贔屓にしてもらえるよう、何とか懐に入り込むこと。

 

 それなのに、なぜ今こんな危険な相手と体を張って戦わなければならないのか。

 自分でもよくわからない。

 一応グランベルとは、それなりに話をしたし、相手も覚えているはずだ。

 故に、もうあの闇組織に戻って結果を報告し、またいつものように姉様と母様で過ごしたらいいじゃないか。

 

 母様…。


 一種の希望に縋り付くように、レイはペレストレインを睨みつける。

 グルームを倒しペレストレインに負けを認めさせ、母様の居場所がわかったら、


 必ず会いに行こう。

 そこに答えがあるはずだから。

 

 


 さらに打ち合いは長く続く。

 もう完全にグルームのペースに乗せられている。

 『朧空間の加護』をフルに使用し、全身を張って戦ってもなお届かない。

 テルルから学んだ青魔法の最低レベルの魔法を半年かけて何とか使えるようになったので、それを唱えて体力を保っている感じだ。


 そして状況はさらに悪化する。

 だんだんとグルームの攻撃が私に入り始めたのだ。

 グルームの拳が肉を抉り、骨を折り、神経を掻き乱す。

 意識が朦朧とし、視界の焦点も覚束なくなる。

 とっさに距離を取ってもすぐさまグルームが間を詰めて攻撃開始だ。

 

「ぐっ!…はあ!」


「いい声をあげてくれえよ!全て君の悲鳴は僕たあちがきいてあげるから。その苦しみも悲しみも怒りも欲望も葛藤も諦念も扇動も虚無も無情も憎悪もぜえええええええんんンんんんんんぶ!!!!」


「ふ、ざ…っけるなああ!、…」


「そろそろ心を折ってあげるううよ。」


 そういうとグルームはニヤリと笑い、途端に攻撃が早くなる。

 なんてことはない。

 ただグルームが少し本気を出しただけだ。

 

 打撃音が身体中から鳴り響いた。

 耳が目が腕が皮膚が額が腹が胸が指が爪が足が膝が全て攻撃をくらい、体の器官をことごとく破壊される。

 つんざくような痛みが全身に走ると、そのまま私の意に反して体は崩れ落ちる。

 もう、どこを動かそうとしても、体は動かなかった。

 

 絶望的な実力差。

 真正面から遣り合うという私に不利な状況も追加されて、いよいよどうしようもない。

 勝ち筋なんて見えなかった。


「君のお母さんの話をすこおししてあげるよ。」


「…!」


「そうだねえ。君のお母さんは確かファントムに潜入調査をしていたあらしいねえ。誰に雇われたあのかあは口を割らなかったあけど。まあ呆気なく僕たあちに捕まったわけえだ。お連れの二人の女も一緒おにね。」


「…!!」


 その言葉をきいて、私の心は罪悪感で埋め尽くされた。


———なぜなら、その母様の雇い主は私だったからだ。


 クロノオがシネマを倒した時、次に危険と思われるのがファントムだった。

 そしてそのファントムの内情を調査すべく、私は母様を雇って、正確には頼んで、ファントムに潜入調査をしてもらったのだ。

 このことを姉様は知らない。

 だからあれほどまでに冷静でいられるのだ。


 だけど、私は違う。

 私は母様を殺してしまった。

 

 ふと、ある一つの光景が思い浮かぶ。

 母様にファントム潜入を頼んだときのことだ。

 その時確か、母様は私にお金を請求したのだ。 

 理由を聞くと、そういうものなのよ。と笑って教えてくれた。

 

「レイ、あなたはきっとあのクロノオ軍部を居心地よく思っているわ。あの場所はあなたの第二の…いいえ、第一の居場所になるわ。だから、私はあなたの依頼を、「クロノオ軍部隠密担当レイ」からの依頼として受け取らなければならないのよ。」


「母様。」


「心配しなくていいわ。待ってて。」


 待ってて、といったときの母様の泣き笑いのような表情が頭にこびりついていて離れない。

 これが走馬灯なんだろうか。

 

 ならば、じっくりと相手を嬲り殺すことが趣味のあの二人が、このまま私を死なせてくれるはずがない。

 ここからが地獄だ。

 そう思って、私は何とか動く目を閉じて覚悟を決め、


ゴオオオオオオオオオオオオオオーーー!!!


 突然地鳴りのような轟音が響いた。

 何事かと私は何とか体を起き上がらせ、爆音のした方向をみやる。


 そこには、破壊された柱が一つあり、そして、


「助太刀にきた。」


 筋肉隆々の寡黙な男、グランベルの護衛役であるマーチが悠然と立っていた。




「レイ殿、これを。」


「こ…れ…、はぁ?」


「ヨルデモンド特産の魔紙だ。かなり強力な青魔法の魔法陣が組み込まれている。」


 それだけいうと、マーチはそれをレイの体に当てた。

 するとみるみるうちに先ほどまでに疲労は回復し、怪我が全て治っていく。

 様々な魔法を知っているレイだからこそ、その魔法がかなり高位のものであると分かった。


 こんなものを事前に輸入していたのか?

 誰がと言われれば、犯人は一人しかいない。


 ヒムラだ。

 今ではレイが敬愛している主であり、これほど用意周到な人物は彼しかいないだろう。

 そしてこの場にマーチを差し向けたのだっておそらく…。


「治ったか。」


「…ええ。ご迷惑をかけて申し訳ありません。」


「ああ。」


 そういってマーチは前を、グルームを見据える。


「なんだあい?君もやる気かあい?」


 そのおちゃらけたグルームの言葉も、マーチは頷くだけに留める。

 そして、この場の支配者であるペレストレインは、


「面白い。」


 どうやら見物する気らしい。

 レイも体を鳴らすと、マーチの隣に立ち、


「では。」

「ああ。」


「かかってきなあよ。」

 

 グラム砦の最上階で、戦いが始まった。




 


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