一章 第九話 就任式
「これより、軍部着任式を行う。」
グランベル・キング・クロノオは大きな声で宣言する。
そう、俺は軍部着任式に来ていた。
先日の試験で満点を取った俺は、めでたくクロノオ軍師という立ち位置につくことができた。
これで、俺が村を取り戻してやる。
そう決意していると、国王に名前を呼ばれた。
「ヒムラ軍師!」
「はい。」
観客がどよめく。
「あんな子供が、軍師だと?」
「本当に試験は公正だったのか?」
まあ、そう言われるのも仕方あるまい。
俺は不本意ながら、見た目ではまだ10歳ほどの子供なのだから。
先程、この世界で初めて鏡を見たので、自分の姿を確認しに行ったのだが。
うん、子供だね!
だけど、顔を見る限り相当な美形だった。
イケメンという感じでもなく、何というか中性的な美しさだった。
前世の俺の要素。
皆無。
この体にもともといたヒムラとやらには感謝しなければな。
そんなことを考えながらも、俺は国王グランベルの元へ行く。
ちなみに俺の服に関してだが、いつものボロボロの服で行こうとすると、召使のような人たちに止められた。
それから俺は、風呂に入れられて、体を綺麗にされると、髪を整え服を新調し、貴族のスカーフのようなものまで着せられた。
まさしく、貴族の子供のように見えるのだろう。
軍師生活が始まったら、お腹が空くこともないだろう。
嬉しい限りだ。
それはそうとして、つくづく思っていたがグランベル、相当な風格を漂わせている。
まさしく王。
国の支配者。
俺はグランベル国王に跪くと、
「この度軍師に着任いたしました、ヒムラでございます!」
と挨拶をする。
グランベル国王はこちらに刀を向けて、言う。
「そなたの活躍を期待する。まずはシネマ国を攻めよ。」
「ははっ!」
シネマ国と言うのは、俺の村を攻めてきた敵国、つまり俺の仇である。
シネマ国を攻めるというのは国家方針でもあり、俺にとって都合が良い。
俺は引き下がり、そのあと各部門の選抜者が呼ばれていく。
軍部は軍師を頂点とする組織になるようなので、これから呼ばれるやつは、いわば俺の配下だ。
優秀なやつがきて欲しいと思っていると、早速選抜者が呼ばれた。
ズラーっと並んで8人…うん!?
8人ってどういうことだ?
確か軍師部門以外の部門は7つだったはずだが?
俺はその8人をよく見ると、理解した。
ああ、わかった。
隠密部門で2人当選しているらしい。
それも双子の少女。年は10くらいかな。
全員が国王の前に跪くと、国王が名前を呼ぶ。
「将軍!アカマル!」
「ハッ!」
アカマルか。
おそらく20代。
イケメンの赤髪である。
無表情なのがさらにカッコよさを助長している。
「歩兵隊長!ユーバ!」
「はい。」
そう言って出てきたのは、歩兵隊長のユーバ。
金髪で、年は12くらいかな。
笑みを常に顔に貼り付けている。
不気味な感じのする少年だった。
「騎馬隊長!ドルトバ!」
「ハッ!」
そう言って出てきたのは、40代くらいのイカしたおっちゃんである。
緑の髪を後ろで束ねて、いかにもチャラそうなやつ。
今も国王に跪いているが、上裸だ。
「魔法使い隊長!テルル!」
「ハッ!」
そう言って出てきたのは、俺が試験の時に見かけた、あの才能のあるであろう銀髪の少女だった。
年は13歳ほどで、なかなかの美少女だ。
やはり選ばれたか。
あとで魔法を見ることができるだろうか。
頼んでみよう。
「知識補佐係!メカル!」
「ハハッ!」
そう言って出てきたのは、初老の爺さんだった。
ちょうどセキじいと同じくらいだ。
老眼鏡を掛けていて、その奥にある眼には落ち着きが伴っている。
「隠密担当!ロイ!レイ!」
「「ハッ!」」
二人同時に出てきたのは、10歳ほどの少女二人。
藍色の髪で、隠密にふさわしい風貌をしていた。
まあ、美形なことには変わりないのだけど。
「外交担当!ユソリナ!」
「ハハッ!」
出てきたのは、20歳程であろう黒髪の美少女であった。
今までもイケメンや美少女が多かったが、この人は飛び抜けている。
しかも、行動には気品が現れていて、なるほど外交に向いているような気がする。
こうして、軍部に8名、俺を入れて9名のメンバーが揃ったわけだ。
俺たちは一斉に跪く。
王に向かって誓いを立てて、役割を全うすることを宣言する。
今ここに、
これから歴史に名を馳せる、クロノオ軍部が誕生したのだった。
場所は変わって、こちらは軍部会議室。軍部棟の中だ。
軍部のために、新たな建物を作ってくれたのだが…
まあ明らかに9人で使うものではない気がする。
それくらい広いのだ。
まあ、とにかく、その建物の最上階には会議室が設置されていて、そこで軍部の皆と顔を合わせるのだが…。
うん、気まずいね!
みんな初対面。
しかも俺は一応上司。
しかも小僧。
話しかけづらいのもわかる。
「ま、まあ、みんな仲良くやっていこう!」
「質問です。」
食い気味に質問をしてきたのは、隠密部門担当のロイの方だった。
「この時間は必要なのでしょうか?」
今こうして俺たちが集まっているのも訳がある。
つまり、オリエンテーションだ。
今俺たちは新学年のクラスの状態だ。
仲を深めるためのオリエンテーションは不可欠。
なのに、何だこの空気の読めない発言は。
この時間は必要なのだよ。
直接は関係ないにしても!
頭を悩ませていると、騎士隊長ドルトバが
「なあ小僧様、とりあえずシネマ国の話をしたらどうだ。一番手っ取り早えーだろ。」
この世界では上司には様を使うらしいが…小僧様はどうなんだろう。
そんなことは置いといて、まあ、早速軍議に移るわけか。
「まあ、いいだろう。では、早速軍議を始めよう。」
そう俺が仕切ると、みんな微妙な反応になるので、踏んだり蹴ったりだ。
仕方ない、わからないことは聞いてみるか。
「メカルさん。」
そう呼ぶと、知識補佐役のメカルが言う。
「何でございましょう。ヒムラ様。」
メカルは老人だが、一切こちらを馬鹿にした態度がない。
そうそうに俺を上司だと認めてくれた。
「こちらの用意できる軍勢はどれほどだ。」
「全力で徴兵すれば、1万ほどの軍勢をかき集められるでしょう。歩兵隊8千、騎馬隊千、魔法使い隊千ですな。」
このメカル爺さん、とてつもなく物知りだ。
步く辞典。
まさにこの人だ。
「ふむ、まずこの世界の軍隊というものを見ないと話にならないが…。」
この微妙な雰囲気も何とかしたいものだ。
俺はふと思いついた。
「そうだ!みんなの得意分野を見せ合いっこすればいいんじゃね!?」
つまりは一発芸。
仲良くなるための第一歩である。
それに、この世界でいう強さとは何か。
こいつらを通して見ることができるだろう
それにこいつらはそれぞれの特技を持ってここにいるんだから、ピッタシである。
「それいいじゃん。」
「楽しそうだね。」
「おう小僧様、俺そういうの好きだぜ!」
「まあ、好きにすればいいじゃないの。」
「「了承」」
「名案ですな。」
「わかりました。」
じゃあ、決まりだな!
そう言って俺たちは2階にある闘技場に赴くのだが…。
そこで俺は、
こいつらの異常性を目の当たりにするのだった。