二章 第五十六話 戦力分析
やっと2章のメインのファントム・エレメント戦が始まります。
乞うご期待。
約束通り宣戦布告がなされた。
それも、ファントムとエレメントの二国から。
俺たちの想定では宣戦布告をするのはファントム一国だったわけで、今のこの状況は想定外だ。
…まあ、想定自体はしてたけど、とりあえずファントム戦に集中せざるを得なかったのが現状だ。
戦力も正直二国を相手取るには心許ない。
故に、そこは何か案を編み出すしかない。
俺たち軍部メンバーはいつものように軍事会議を行なっていた。
「シネマへ軍隊を要請するのはどうでしょう?」
「それもありかもしれないが、シネマはデトミノ戦の後始末で忙しい。あまり兵力は期待できない。」
アカマルの提案は俺が却下した。
「ヨルデモンドに頼るのはー?」
「今ヨルデモンドとクロノオは対等な条約を結んでいる。ヨルデモンドに頼るということは俺たちの立場を下げることにつながりかねない。」
「でも、ヨルデモンドのザガル様はファントムが嫌いなんでしょー?」
「…嫌いかもしれないが、それでも条約を結んでいる国だ。条約を結んでいるファントムに対してヨルデモンドが攻撃を仕掛けたとなるとヨルデモンドの信用が落ちかねない。」
「ヨルデモンドを脅せば…。」
「それはダメだよ!?それはあくまでも最終手段ね!?」
ユーバがどんどん議論を苛烈な方向に進めていくので、それも却下させる。
はっきりいってやばい。
何がヤバいのかって、戦力が圧倒的に足りない。
この戦争、クロノオが総力戦をして引き分けに持ち込めるかどうかだろう。
ファントムの戦力は曖昧だが国の規模からして2万人ほどの兵がいるだろう。
これがしっかりと訓練されている兵なのかどうかで戦力は大きく変わってくる。
素人を徴兵しただけならばクロノオの徴兵された兵たちだけでも勝つことができるだろう。
だが、あの国はそんな一筋縄ではいかない不気味さを持つ。
クロノオの志願兵のように精鋭の軍があるのではないか?
だとしたらクロノオの志願兵をそこに向かわせなければならない。
そうしたらエレメントの相手は誰がするの?となってしまう。
そこで他国に協力要請を募ろうかと考えていたのだが、クロノオは今頼れる国が少ないというのが判明した。
シネマとヨルデモンドに頼るのは最後にしたい。
「となると、クロノオだけでなんとかするしかないわけね。」
テルルが今までの議論をスパッとまとめる。
「となると、いつも通り用意周到に作戦を練るしかないわけだ。」
というか、シネマといいデトミノといいファントムエレメントといい俺たちは格上としか戦争をしていない気がする。
毎回綿密な作戦を立てなければいけないのは骨が折れるが、それでも楽しんでやっているのは事実だ。
「メカル!」
「はっ!皆さま、これがファントムの予想進軍経路とエレメントの予想進軍経路です。」
俺の呼びかけにメカルが応じ、二枚の地図を取り出した。
メカルの加護は本当に便利なもので、地理や地形に関しての情報は抜き取ることができるのだ。
情報戦が重要な戦争では破格の能力だ。
「どうやらファントムとクロノオの間には広大な盆地があるようですね。その盆地にはもともとファントムが設置してある砦があるようです。そしてその他は基本的に山で囲まれています。」
レイがその地図を見て分析をする。
そして山に囲まれているという言葉を聞いてアカマルがニヤリと笑った。
こいつもわかってきたじゃないか。
山に囲まれているということは奇襲し放題というわけだ。
格上を相手取る時に重要である、奇襲が行えるというのはアドバンテージだろう。
一撃加えて離脱するもよし、魔法を撃ちまくるというのもよしだ。
そのかわり相手より早く動き、なおかつ隠密性を保たなければならないが、うちにはロイレイがいる。
あの二人なら奇襲し放題だろう。
だが、
「山ばかりで奇襲しやすいってのは賛成だし、ロイちゃんレイちゃんならしっかりやってくれるっていうのもわかるんだけど、ファントムが奇襲を仕掛けてくる可能性も考えなくてはならないでしょう?」
「確かにそうだな。」
テルルの一言にドルトバが賛成した。
慎重派の意見、といったところだろうか。
確かに普段であればこちらも奇襲に備えて色々と対策を練らなければならないんだろうが、
「だが俺はペレストレインの性格からしてそんなことはしないんじゃないかと思う。」
ペレストレインは人格は破綻しているが、姑息な策を利用して勝とうと考えるような奴ではない気がする。
どうやらペレストレインは正々堂々と俺たちと戦い、その上で勝ちにくるだろう。
弱者をいたぶるのが好きなあいつはおそらくそうしてくると確信を持てる。
逆に自分が負けそうになると途端に姑息になり出しそうだけどね。
「というわけで、あいつは奇襲は仕掛けてこないと見ていい。」
「そんな不確かな情報で…。」
「さすがに対策は立てるさ。だけど優先順位は下がる。」
俺の言葉に納得してくれたのか、テルルはとりあえず口を閉じる。
さてと、
「次はエレメントだが、クロノオとエレメントの間は基本的に平野だ。そしておそらくはそこを通ってくると思われる。」
エレメントとクロノオの境界は、基本的には平野だ。
ファントムに近づくにつれて山も多くなってくるが、ファントムに遠い方に山はない。
つまりはそこを通ってくると見立てたわけだ。
「どうして平野を通ってくると思ったんだ?山を通ってくるかもしれないぜ?」
またしても慎重派のドルトバが異を唱える。
ドルトバの考えはもっともだ。
「ファントムの王様ならともかく、エレメントの爺ちゃんは頭が回りそうだったぜ?」
エレメントのザンと名乗った老人。
クロノオと会談をした時もそうだったが、かなり頭の切れる人物であることは間違いない。
言葉のあやを利用してこちらを丸め込もうとしていたのだから。
「だが、それでもエレメントは平野を進む。」
「なぜなんだ?」
「それは一つには、エレメントは魔法使いが主力であること。」
エレメントは主に魔法技術によって発展してきた国だ。
ヨルデモンドには劣るだろうが、それでも素晴らしい魔法技術を持つ国である。
そしてその魔法技術は戦争でも利用されるらしい。
必然的に魔法使いの数が多くなるわけだ。
魔法使いが主力ということは、普段肉体が鍛えられているわけではないことが推測できる。
そんな軟弱な兵が山を越えて進軍しようとしても疲弊してしまうだけだろう。
それが、エレメントが平野を進んでくる理由の一つだ。
それを皆に説明すると、ユソリナが、
「では、二つ目の理由はなんでしょうか?」
「ああ。俺は二つ目の方が根拠としては強いと思っているが、」
そこで一旦言葉を切ると、
「クロノオとエレメントの間の平野には川が流れているんだ。」
「川…ですか。」
俺の言葉に皆当惑する。
川がどうしたといいたげだが、意外と重要なのだ。
「川があれば軍の進軍速度は落ちるし、そこで乱戦にでもなったら離脱も難しくなるだろう。そこでエレメント得意の魔法を打ち込めばかなりエレメント優位にことが進める。」
川で自由に動けない隙に魔法を放つというのは有効な一手だ。
そしてそれを魔法大国のエレメントが選ばないわけがない。
「よってエレメントは川を主戦場にしたがるはずだ。つまり川がある平野を進軍するだろうというのが俺の見立てだ。」
「へー。」
「なるほど、勉強になります。」
ユーバとアカマルがうなずいてくれる。
さて、状況把握も終わったところで、
「兵力を配分しようと思う。」
一番重要な仕事が待っている。