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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第五十五話 テルル対レイ

今日は長いです。

 レイの長所はその俊敏性である。

 対してテルルは魔法で攻撃するため、その魔法を用意するのに時間がかかる。

 つまりテルルが魔法を準備している間にレイは魔法の射程範囲からすぐに逃れることができる。


 今のところ、テルルの魔法を全て回避しているレイ。

 未だテルルに攻撃する様子はなく、余裕の表情で回避している。

 そして、何試合も魔法を限界まで使っていたテルルは、かなり疲労しているようだ。


 これは明らかにレイ優勢だ。

 だが、テルルが本気で短期決戦に持ち込めばいけるかもしれない。


 様々な色の魔法陣が次々と生成され、連続して発動される。

 魔法陣を二つ同時に扱うだけでもかなり厳しいのに、それを十数個ほど作り上げているテルルは凄まじい才能を持っていると断言できる。

 その全てをレイは避けるが、それは単に反応速度が良いだけではないようだ。

 

 レイは魔法陣を即座に読み解き、どのような種類の攻撃が来るか判別することができるようだ。

 魔法の才能がない人は魔法はほとんど使えないが、魔法陣を覚えることはできる。

 使えない魔法陣を覚える努力が実を結ぶこともあるのだと、レイは証明している。

 

 そして、魔法を打ちすぎて疲れが出だしたテルルは


光鋼鎧(ShineArmor)!!」


 本日3回目の中位魔法を使用して、レイから距離をとる。

 鎧をつけることで不意打ちを弾きながら、いったん休憩しようという魂胆だ。

 

 さすがにレイも疲れてきたのか、その隙に攻撃することもなく、息を整えていた。

 

 何秒かの張り詰めた時間が訪れ、それは二人が同時に動きだしたことにより終わりを迎える。

 なんとテルルが半径10メートルにも及ぶ巨大な魔法陣を生成したのだった。

 その魔法陣はすっぽりと土俵を囲むように生まれた。


 そして、テルルが魔力を魔法陣に流し込むにつれて、魔法陣が輝きだす。

 地面が淡く光り出し、その強さはどんどん増していっている。


 時間が経てばすぐさまレイは避けることもできずに攻撃を受けてしまうだろう。

 故にテルルの魔法を止めようと動きだすのは同然のことである。


 テルルに向かってダッシュをし、跳躍。

 

 そのままレイのナイフがテルルに向かう。

 狙うは鎧のつなぎ目である腕の関節。

 一般的な鎧であればつなぎ目を攻撃すればもしかしたらダメージを与えられたかもしれない。

 だが、魔法でできた鎧の強みは、伸縮自在なのでつなぎ目がないということだ。

 

 テルルの関節に当たったレイのナイフは、そのまま弾かれてしまう。

 その衝撃でナイフが折れてしまっていた。

 

「…やはり効きませんか。」


 レイも今の攻撃は意味がないと悟っていたようだ。

 対して驚いた風もなく、テルルに対して距離を取る。

 そしてレイが次にやってみた攻撃は、今まで見てきた中で一番恐ろしものだ。

 

 レイは背中に手を回して、何やらこそこそと取り出した。

 そして、取り出したものは、


「…あれはやばいな。」


 なんの変哲もないナイフが、20本ほどレイの手に収まっていた。

 2、3本をそれぞれの指の間に挟み、かちゃかちゃと器用にそれを動かしている。

 そして次の瞬間、レイはその20本のナイフを一斉に投げたのだ。

 

 横に曲がっていくもの、真っ直ぐに進んでいくもの、上から攻撃してくるもの、一旦テルルの後方にまで飛び、ブーメランの要領で帰ってくるもの。

 様々な方角からナイフの雨が降り注ぎ、テルルを襲った。

 

 レイはまだこんな技を隠していたとは、いやはや、恐るべし。


 魔法の発動のために集中していたテルルは、ナイフに気付くのが遅れてしまっていた。

 同時に3本のナイフが鎧に当たる。

 それだけで鎧は耐えきれなくなり、光と化して消えてしまった。

 

 だが、それからはテルルも奮戦した。

 落ちたナイフを二本両手で持ち、迫りくるナイフを回避し始めたのだ。


 二本はナイフで叩き落とし、後ろの一本は屈むことでよけ、同時に五方向から来たときはそれらを全て相討ちさせる。

 上から降り注ぐ三本は「障壁(Barrier)」を使って対処し、四方向からのナイフも相打ちさせた。

 

 ここまで見るとテルルなりによく健闘した方だと思う。

 称賛されるべき回避ぶりだろう。


 だから、続く残り3本のナイフに対応しきれなかったのは仕方がないと言える。

 一本がテルルの髪を切り裂き、一本が運よくお腹のあたりの服を切り裂く。

 それにより体制を崩したテルルは、残りの真正面から一本に対応しきれずにそのまま敗北し…


「「星流炸裂弾(PlanetBomb)!!」


 なかった。

 ギリギリのところで巨大魔法陣を完成させたテルルは、そのまま魔法を発動させた。

 発動させた瞬間に、魔法陣から無数の光の粒か飛び出し、地面付近を彷徨いだす。

 

 レイはいきなり現れた光の粒に戸惑う様子もなく、テルルに向かって全速力で突進していった。

 何をするつもりなのかは知らないが、レイはテルルに後少しでたどり着くところで、


 無数の光の粒が一斉に爆発した。


 全て一様に赤い炎を吹き出し、そのまま粒にヒビが入ると、そのまま粒が原型を留めずに決壊する。

 大量の爆発音と衝撃波が皆を襲う。

 そして、さらには原型をなくした光の残滓がその爆発によって何メートルか舞い上がり、上空でもさらに爆発する。

 なるほど、これがあるからジャンプして避けようとしても無駄なのか。


 爆風が吹き荒れ、煙が闘技場を包み込む。

 そして、その凄まじい攻撃も終わりを迎え、だんだんと煙が晴れてくる。

 

 煙の中には、魔法を使いすぎて満身創痍のテルルと、


 テルルの頭で逆立ちをしているレイがいた。

 

 は?

 何やっているの?

 攻撃は受けたの?


 俺たちが戸惑っているうちに、レイはすぐにテルルの頭から降りる。

 そしてその様子を見ているに怪我の一つも負っていないようだ。

 

 テルルはなんとかふらつく体を支え、レイと正面から対峙する。

 

「…まさか、あの魔法、の抜け道を…、見つけられるなんてね…。」


「考えればわかることです。」


 テルルの言葉に、当然とばかりにレイは頷く。

 魔法の抜け道?

 まさか、あのテルルの頭の上で逆立ちしていたのが抜け道だというのだろうか。


「土俵全体を覆う魔法でも、発動者の周りは影響を受けません。」


 レイの言うことは本当だ。

 今の会場全体を覆う魔法でも、テルルの周りだけは魔法の対象外となっている。

 それはすべての魔法に備わっている機能である。


 となると、レイがテルルの頭で逆立ちしてたのって…。


「…私が、魔法の効果範囲外だ、と、見抜いて…」


「そうです。テルルさんの頭上は光の粒子が上ってこないと予想しました。」


「そんなことまで…、。あなたは色々、知ってい、っるのね。」


 息も絶え絶えでテルルが種を知る。

 なるほどな。

 つまりはレイの方が用意周到だったと言うわけだ。

 

 と言うか、レイの底が見えなくて怖い。

 軽く戦慄しているのは俺だけなのだろうか。

 ふと周りを見てみると、皆も一様にレイに対して畏敬の眼差しを向けている。

 

 ちなみにテルルに向かっていった最後のナイフはあの魔法によって消失してしまったらしい。

 つまりはテルルもレイも負け判定にはなってない。


 だが、テルルは魔法を使いすぎてもう立ち上がることすらも困難だ。

 これはレイの勝ちを認めてもいいだろう。

 

 俺はヘルナに目で合図をし、


「どうやら、テルル様の戦闘続行不能により、レイ様が勝利したようです。よって!この第一回軍部大会はレイ様が優勝となりました!!!」


 レイの優勝が決まったのだった。

 そしてそれと同時に、


バタン。


 テルルがその場で倒れた。




 軍部のメンバー九人は医務室にいた。

 そしてそのうちの一人、テルルはベットに横たわっている。

 

 隣では魔導隊の皆がせっせとテルルの看病をしていた。

 魔法をかけ、頭を冷やし、また魔法をかけの繰り返しだ。

 

 テルルの急な体調悪化は、魔法の使いすぎらしい。 

 そりゃあれだけ一日で魔法を使ったら、ぶっ倒れても仕方がない。

 命に別状はないらしいが、危険なことであるのは確かだ。


 そして、それを俺たちはずっと見守っていた。

 誰も口を開かない。


 不意にユソリナが、


「どうしてテルルちゃんはあんなにも必死だったのでしょうか?」


「そりゃ、勝ちたかったんじゃないのー?」


「そうですが…おそらくテルルちゃんは魔法の使用回数の限度だって知っていたはずです。それを超えると急な体調悪化を引き起こすことも。」


 ユーバの当たり前といえば当たり前の返答に、ユソリナがさらに疑問を重ねた。

 この国の魔法に関してのトップであるテルルが、魔法の過剰使用の危険性を知っていないわけがない。

 魔力を体を媒介として魔法陣に注ぎ込むことで、体力を消費するのは周知の事実だ。

 体力を消費しすぎると、膨大な魔力を制御できなくなり、様々な副作用が起こりうることも。

 聴覚や嗅覚、視覚までも一時的に消え、平衡感覚が失われる。

 筋肉も一斉に弛緩し、痙攣を起こすこともあるのだ。


 確かに命が奪われることはないのかもしれないが、想像を絶する苦しさがテルルを襲ったはずだ。

 そこまでして、なぜ?

 最後の大魔法でまだあると思っていた自分の体力がごっそりと持っていかれてしまったのか?

 

 だが、その考えをレイは否定する。


「…テルルさんが最後の魔法を使うとき、明らかに疲労していました。もうこれ以上魔法は使えないほどに。それでも魔法を打ったということは、うっかり体力を奪われてしまったと言うわけではなさそうです。おそらくは自分が倒れることを予期していながら…。」


 そこでレイは言葉を噤んでしまう。

 そして一層深刻な顔で、


「私があのときもう少し手加減していれば、テルルさんはこんなことには…。」


「レイ。それはテルルへの冒涜だ。」


 レイの言葉を意外にもアカマルが咎める。


「…あいつは多分、手加減されて勝ちたいわけじゃないんだろう。だからあんなにも必死だったし、危険な橋も渡ったりした。そしてその努力を、お前は否定している。」


「———!!」


 確かにアカマルのいう通りだ。

 テルルがなんのためにこんなに無理をしたのかは知らないが、レイに勝ちたかったからというのは確かだろう。

 そのレイに、勝たせてあげればよかった、ということは、その努力は無駄だったというより他ならない。

 

「…わかりました。申し訳ありません。」


 レイが気落ちしたように謝罪する。

 まあテルルに聞こえていなければいいんだけどね。


 そう俺が思っていると、突然ベットから呻き声が聞こえる。


「テルル!!」


「……っ、ぅっ…!」


 テルルが目を開け、虚な眼差しで俺たちを見たのだった。




「大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。」


 ドルトバの問いかけにテルルはボヤけた声で頷く。

 特に体調が悪そうには見えない。

 まあ魔法の使い過ぎによる症状も一時的なものだからな。

 寝て治ったのだろう。


 だが、テルルはその後またベットに顔をうずめてしまった。

 

「どうした!?体調が悪いのか?」


「…違うっ…。」


 否定するテルルの声は、少し震えてもいた。

 その悲痛な叫びの原因がわからず、俺たちは皆戸惑っていた。

 だが、


「テルルさん。なぜ優勝したかったのか。教えてもらうことはできませんか?」


 レイはそれでもテルルに聞く。

 おそらく試合開始前に言ったテルルの言葉のことだろう。

 なぜテルルが優勝したいのかは自分が負けたら教える、といったものだ。

 

 それを聞くのはすなわちテルルがレイの勝ちを認めるようなもので、あまり触れたくない質問だったのだ。

 だが、それをレイは平然と聞こうとしている。 

 

 いや、ただレイは知りたいのだろう。

 どうしてそこまでしたのか。 

 どうしてそこまでして自分に勝ちたいのか。

 今テルルが皆に顔を見せないのだってきっとそれが原因だと感じているのだろう。


 そしてレイには、それを聞く権利がある。


 テルルはレイの言葉に一瞬ビクッとしたが、しばらくして、ポツポツと話し出した。

 その話は、俺たちにとってはあまりにも馬鹿げた話だった。


「…その、私が優勝したかったのはっ…、兵の皆が、…私を認め、てくれるっようにと思って…。」


「…」


「ほらっ…、私って弱いじゃん…?単純にっ、戦闘力って意味じゃなく、て、いろんなところが。」


 つまりテルルは、弱い自分を自覚していながらも、それを皆に隠すために優勝をしたかったと。

 正直テルルは皆に慕われているようにも見えるし、戦闘力に関しては今回の軍部大会で証明されている。

 心の強さに関してだって、図太い時もあるし、たまに繊細になった時でも前を向こうと考える人物だ。

 全く気にかけることはないはずだ。


 俺がそのことをいうよりも早く、


「私はそんなのは認めません!」


 レイがテルルに向かって叫ぶ。

 その叫びはテルルのかすれた声よりも一層悲痛さを伴っていたため、一瞬皆が呆気にとられる。

 だが、テルルは


「認めないっ…って、何を…。」


「テルルさんが自分を弱いと思っていたなんて、私は認めたくありません!だって…。」


 そこで一瞬言葉を止めると、レイは泣きそうになりながら、


「テルルさんが弱いのなら、私はもっと弱いはずだからです!」


 そう、言い切ったのだ。

 



「私なんか、戦争に私情を挟んでしまうほど愚かで、罪深いのだと思っていました。どうしようもないけど、それでも割り切ってなんとかやっていこうと思って、…!自分に言い訳してやってきたんです!」


「…」


 レイのいきなりの独白に、テルルは何も返せないでいる。

 もちろん周りの皆もそうだ。

 レイが日頃どのようなことを考えているのかわかっていなかった。

 

「テルルさんは強い人だって知っていました!テルルさんを目指すことで私も心を保てると思っていました!」


「…!そんな…。」


「だから、テルルさんは自分を弱いなんて感じる必要はないです。少なくとも目標を身を賭してまで成し遂げようと知ることを、弱さとは言いません。」


「…!」


 あるいは、それはレイなりの慰めだったのだろう。

 それともただ自分の心の内をさらけ出しただけなのだろうか。

 どちらかはわからないが、その言葉を聞いたテルルは、ベットに埋めた顔をこちらに見せると、


「…ありがとう。ちょっと元気でた。」


 泣き笑いのような顔で笑ったのだった。




 その後のことを俺は知らない。

 レイとテルルがお互い様々な思いを抱いていることを察して、俺たちは退出したからだ。


「世の中いろんなことがあるんだねー。」


 とユーバ。

 まあ君はもう少し精神を成長させたまえと助言を送ってやった。


 ロイはその様子を見て、少し不満げだった。

 曰く、自慢の妹がテルルになつきかねない、と。

 どうもロイレイはおたがいシスコンの気があるんじゃなかと疑っているが、確証には至ってない。

 まあロイも何か思うところがあるようだし、そっとしておいてあげよう。


 かくして、軍部大会は終わりを迎えた。

 最後に色々あったが、総合的に見れば楽しかったな。

 皆の奥の手なんかも見れたし。


 さて、当初の軍部大会の目的であるケーキなのだが、先日メカルの部屋にケーキが大事そうに保管されているのをロイが発見した。

 あれ以来料理研究局はケーキを作っていないらしく、必然的にメカルのケーキは…。

 おっと、過ぎたことをとやかくいう意味はない。


 まあこの三ヶ月は色々とあったが、皆が強さを目指して頑張っていたのは同じだ。

 

 俺がいい感じに話をまとめていると、いきなり影からロイが出てきた。

 …このパターンはまた何か重要なことが起こるな。


そして俺の予想通り、


「先ほどファントムとエレメントから宣戦布告を受けました。」


 戦争が始まろうとしていた。

 

とりあえずこれで軍部大会は終わりです。

よろしければブクマ、評価、感想、レビューお願いします。

次話から戦争始まります。


明日は投稿できるかわかりません。

今日はたくさん書いたので二日分楽しんでください。

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