二章 第四十七話 三ヶ月後の経過報告ぱーと2
前回に引き続き説明回です。
俺はこの三ヶ月で様々なものを開発してそれを実現し、取り入れた。
その過程で、ヨルデモンドのハンデルやザガルには本当に世話になったものだ。
まずは、もともと実現する予定であった水道。
これは思ったよりスムーズに開発することができた。
まずは川の流れを少し変更して、ある程度の水が上水処理場に流れるように配備した。
そして川から取り入れた水を貯水池に貯める。
溜めた水を濾過して、汚れを取り去ったら、あとは浄化するだけだ。
現代技術では機械を使った精密な濾過と化学薬品によって浄化がなされていたが、この世界はそのどちらもないので、魔法を使った解決法を試みたのだ。
そこで、ハンデル印の魔紙を使う。
改めて説明すると魔紙とは、そこに魔法陣を描くだけで誰でも魔法が使えてしまう便利グッツなのである。
魔紙には予め水を浄化したり殺菌したりする魔法陣を組み込んでおき、それを発動させて水を浄化する。
猿でもわかる仕組みだ。
そして浄化した水を各施設へ行き渡らせるのが地味に大変だった。
大量に作ったパイプを地面に埋め込み、水圧によって水を運ぶ。
文系である俺に物理の知識を求められても困るので、そこはヨルデモンドの技術力に頼らせてもらった。
パイプを流れる水はやがて蛇口にたどり着き、栓を抜くと水が流れるという仕組みだ。
そして流れて役目を終えた水は、またパイプを通って下水処理場に向かう。
そしてそこで同じような浄化作業を受けて川に流すという仕組みだ。
ちなみにこの技術はすでにクロノオやヨルデモンドで実証実験されている。
クロノオは王都全体に水道管を張り巡らせて、ほとんどの施設に「無料の清潔な水」が供給されるようになったのだ。
ちなみになぜ三ヶ月で実現することができたかというと、兵たちの特訓と称して土木工事を手伝わせたからだ。
総額金貨1万枚にも及ぶ大事業だったが、その技術をヨルデモンドやシネマに売ることで採算は取れた。
シネマはまだ実現していないらしいが、是非ともパラモンドには頑張っていただきたい。
そして水車や風車に関しての計画も完成した。
こちらは特にヨルデモンドに頼ることなく、自力で完成させたのだ
もともと魔法の力を使うわけでもなく、水力や風力と歯車を組み合わせて作動する仕掛けなので、ヨルデモンドの技術は必要なかった。
クロノオでそこそこ大きい建築団体に頼んで、水車や風車を作ってもらった。
ざっと100台ほど生産したことで各村に配分したところ、相当な高評価を得たのだった。
俺たちはその報告を受けると本格的に販売を開始し、莫大な利益を生んだのである。
もちろん軍部も国家も建築団体もウハウハである。
ヨルデモンドはもともと似たような技術があったのであまり売れなかったが、シネマでは驚くほど売れたのだった。
シネマの思惑としてはそれを様々な国に転売することで利益を上げるのが狙いなのだろうが、どちらにせよクロノオが儲かるのは変わりはない。
そして得た金は半分をクロノオ国家に献上し、残りを軍備増強に役立てた。
馬や兵の装備も全てここから出ている。
また、食に関しても思わぬ事態によってだいぶ進歩した。
塩や砂糖の大量生産を開始し、さらに美味しいものが流通するようになった矢先、軍部に十人ほどの集団が押し掛けてきた。
初めは警戒していたのだが、どうやら俺の弟子になりたいという思いを持つものたちだった。
俺の弟子?
戦術でも教えればいいのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「この度はヒムラ様にお会いすることができ、誠に光栄でございます。」
そう挨拶をするのは、確かクロノオ広場でひょいひょい焼屋を営んでいたおっちゃんだ。
一体どうしたのだろうか。
「私どもはヒムラ様の開発なされた珍味の数々を味見し、衝撃を受けました。これほどまでに旨いものがあるのか、と。それで、その珍味の生み親であるヒムラ様に、どうか弟子いりりきないかと考えた次第でございます。何卒。」
そう言って頭を下げる皆。
つまりは、俺に料理の弟子入りをしたい。
ということか。
というか別に俺料理そんな得意じゃないよ!?
一人暮らしだったから少し自炊したことがあるくらいだし。
だが、ここで新たな人材が入るのは嬉しいことだ。
現代知識を使って料理で儲けようと考えていたのだが、なにぶん俺には知識が足りない。
醤油の作り方すらもわからないのだ。
そこで、俺に代わって料理の研究をして、俺の現代料理を再現してくれる人材が欲しかった。
だが、この世界にまともなコックはいないだろうし、どうしたものかと頭を抱えていたのだ。
そこへ、タイミングよく良い人材の登場。
これはこいつらを利用するしかない。
つまり俺の計画としては、こいつらに料理研究させて、様々なものを生み出してもらう、という寸法だ。
「よしわかった。今日からお前たちは俺の弟子だ。」
「「「ありがとうございます!」」
俺が認めると、皆感極まったように礼をした。
よっぽど料理を教わりたいらしい。
俺はこいつらを「料理研究局」と名付け、働かせることにしたのだ。
そしてこの「料理研究局」はのちに様々な料理を生み出す伝説の存在となるのだが、それはまた別の話なのであった。
とりあえず「料理研究局」には手始めに醤油を作ってもらった。
俺はとりあえず皆に、大豆を発酵させて塩をかければできる、と非常に頼りないアドバイスを送り、醤油の開発をさせた。
まあ少なくとも一年はかかるだろうと予想していたが、実際は一ヶ月でできた。
いや、本当にできちゃたの!?
完成したという試作品は、黒い液体だった。
この香ばしい匂いは、間違いなく醤油だ!
そして、ぺろっと舐めてみて、俺は衝撃を受けた。
滑らかな舌触りとしょっぱい感触に病みつきになる芳香。
こんなにも早く簡単に再現できてしまうものなのか!?
俺は研究局の皆にVサインを出す。
つまり、
「合格だ。」
「「「よっしゃーー!」」」
俺の許可に沸き立つ皆。
よく短い期間で頑張ってくれたものだ。
そして、なぜこんな短期間で完成できたのかというと、ひょいひょい焼屋のおっちゃんが、
「ヘラクール商人組合に頼んで、様々な材料の調達をお願いしたら、すぐに古今東西の食材を集めてきてくれてですね。それで仕事が捗ってのですよ。」
なんと、他の部門であるはずのヘラクール商人組合の協力により完成したらしい。
まあ確かにあの組合はかなり広い範囲に精通しているようだし、相当大きな組合なのだろう。
そのヘラクール商人組合が本気を出せば、様々な食材が手に入るのも納得だ。
あとでラーバンに笑顔で結構な額を請求されたのはご愛嬌だ。
まあ何にせよ、俺は醤油の生産を喜ぶべきだろう。
そしてその後、俺がさらに無茶振りをしてそれを料理局が完成させるというサイクルを繰り返して三ヶ月。
今ではケーキができるようになっていた。
三ヶ月でケーキができるの!?と驚くのもわかる。
俺も同じ気持ちだったからだ。
だが、料理局の皆の熱意が凄まじく、本当に苦労して開発してくれたのだ。
できた完成品ケーキを皆に食べさせると、それはもう高評価だった。
「美味しい!!」
一番嬉しそうにしてたのがアカマルだったという衝撃的な事実は置いといて、様々な料理が開発され、それが市場に出回り、さらに軍部に利益を呼んだ。
まあそれも全て軍備増強に費やされたわけだ。
あ、そういえばケーキといえば少し前に面白いことがあった。
ある日の穏やかな昼下がり、久々に皆揃ってケーキを食べようとなったとき、どうやら料理局が間違えてケーキを10個用意してしまったことがあったのだ。
俺たちは九人なわけで、必然的に一つ余る。
そして俺たちのメンバーは、約半分が子供。
取り合いという名の戦いが起こるのは必至であるのだった。