二章 第四十六話 三ヶ月後の経過報告ぱーと1
三ヶ月が経過しました。
小鳥が鳴く声が聞こえ、川のせせらぎが心地いい朝。
そんな爽やかな軍事棟の一室で、轟くような爆音が聞こえてきた。
「炎火炸裂!!!」
テルルの銀髪が揺れ、真っ赤な魔法陣から魔力エネルギーが生み出されると、それが一筋の炎となり空間を切り裂く。
「…凄いな。テルル。」
「魔法を教えるときは先生と呼びなさい。」
「はいはい先生。」
どうでもいいところにこだわるテルルを尻目に、俺は先ほどまで出てきた魔法の分析をしていた。
「んー遠距離攻撃としては使えそうだけど、加護使用中はやっぱ無理だな。」
「そうね。多分あんたの加護と魔法自体があんまり合ってないわ。」
「…まあ確かに。」
結構頑張って魔法を覚えたのに、使いどころが少ないと言われては落ち込むのも仕方がないだろう。
それにしても、
「今のは中位魔法なんだっけ?」
「そうよ。今度あんたに覚えてもらう魔法。難易度は低いから頑張ってね。」
「あれで難易度低いとか言えるのかよ。」
無茶振りが激しいのが、いつもの先生である。
俺が少しナイーヴになっていると、テルルはこちらを真剣に見つめ、
「…強くなるんでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「もうすぐあれから三ヶ月、ね。」
そう、ファントムとエレメントの会談の日から三ヶ月が経っていた。
テルルも少しだけ身長が伸び、それ以外のメンバーは全く見た目が変わっていない。
だが、皆変わらないのは、この三ヶ月間努力し続けたことだろう。
ファントムに勝つ。
レイの母親を取り戻し、仕返しをする。
俺はその怒涛の三ヶ月間を目を閉じて振り返ってみたのだった。
まず最初に行ったことは、兵力の増強だった。
少なくともファントムとやりあえるほどまで戦力を増強しなければならない。
三ヶ月でそれを行うには、ただ単に訓練する以外の方法を見つけ出さなければならない。
そして俺たちはこの世界にあるスキルというものに目をつけた。
これは有名な話だが、スキルや加護は強く望むことで手に入れることができる。
加護を手に入れるにはそれなりの訓練と相当強い思いと体の適正がなければならず、手に入れるのは難しい。
だが、スキルなら割と簡単に手に入れることができるのだ。
デトミノ戦などでもユーバやドルトバはスキルを手に入れたらしいし、レイに至っては加護を手にしたようだ。
彼女はおそらく特殊なのでそれは置いといて、短期間でスキルは手に入れることができるのだ。
つまり、志願兵たちの訓練を厳しくすることで、志願兵自ら何かを望む状況を作り出し、それによってスキルをゲットさせるという、非常に無茶なやり方だった。
まず最初に、歩兵隊にとっての天敵である魔法に対する耐性をつけてもらった。
「炎耐性」や「砂塵耐性」、「暴風耐性」などのスキルを皆で一斉に得てもらうのだ。
そしてそれを得るための訓練の方法とは、単純にいうと一日何時間も魔法を歩兵隊の皆に浴びせるというものだ。
そして魔法によって苦しんでいる中で、外からアカマルが「耐性を得られれば楽になれるぞ!」と残酷な台詞を言いながら『扇動の加護』を使い心が折れないようにする。
そして、心の底から魔法に耐えたいと志願兵が思い始め、スキルをゲットさせるという目論見だ。
この訓練の結果は、端的にいうと大成功だった。
およそ三日ほどで皆魔法に対する一通りの耐性がつき、中には炎の中で笑顔で駆け回る頭のおかしい奴も現れたほどだ。
「うおっしゃーー!!!俺は炎と友達だー!」
というのが、そのあと語り継がれる迷言となったのはご愛嬌だ。
そして残りはひたすら基礎体力と腕力の増強だ。
それぞれの技術を磨くのは一朝一夕でできることではないが、体力は数ヶ月あればつくだろうという結論から出したのがこの訓練だ。
ただただ走り、ただただ担ぐ。
そして体力がついたなと感じた頃に、ユーバの提案で重く頑丈な装備を一式歩兵隊に買い与えたのだ。
この装備によって兵の死ににくさは一気に跳ね上がり、体力もそれなりに増強したので機動力の面で不安はない。
ほぼ全ての志願兵が「体力向上」と「剛力」というスキルを手にした。
一ヶ月前ほど前からは徴兵もし、1万人ほどの兵たちに基礎的なことを教え込んだ。
これにより志願兵はほぼ皆がDの上あたり、Cレベルの実力をつけるものも少なくなかった。
徴兵された兵たちもシネマ戦で学んだようで、戦術的に支障をきたすようなことはなかった。
騎馬隊に関してだが、ドルトバのおかげでさらに馬に乗れる人が増えたのだ。
それにより騎馬隊は400人ほどにまで膨れ上がり、追加の馬を買って与えた。
そして騎馬隊も魔法の耐性をつけると、そのあとは各個人で得意な武器を探して訓練するというものだ。
ちなみに弓に関しては遠距離攻撃に使うため皆習得している。
つまり弓プラスアルファという形で武器が扱えるようにしたわけだ。
なぜ武器を統一しないのかというと、全より個に重きを置かれるこの世界で、騎馬隊はその傾向がさらに強いらしい。
確かに馬に身を任せてる以上、全員での一糸乱れぬ連携というのは難しいからな。
つまり個人の戦闘力を高めることが重要な騎馬隊では、それぞれの良さを最大限引き出せる武器を各自で選ぶべきだというのが、ドルトバの持論だった。
あいつは考えていないようで意外と頭脳派だ。
この間のデトミノ戦もドルトバの考案した戦法で打ち破ったらしい。
なんだかんだ言って頼りになるのだ。
そして魔導隊に関しても厳しい訓練が続けられていた。
もともとテルルがそれなりに鍛えていたが、ここ三ヶ月はそれ以上に鍛え上げられていた。
魔法を使う奴が何を鍛えられるのかって?
主に三つである。
一つは純粋に魔法の腕。
今やほとんどの魔導隊のメンバーが上位魔法などを覚え、集団魔法では中級魔法を使えるとされている。
つまりは今までと大幅に戦略を変更しないといけない。
そのための連携や魔法の精密さを磨くことをずっと訓練してきた。
そして、二つ目は魔法の使用回数増加。
この世界では魔法を放つと本人の魔力が減るとかそういうものはない。
魔法界と呼ばれる世界から半永久的に魔力を持ってきて行使できるのだ。
だが、魔法界から魔法陣に魔力が流れるとき、人の体を経由する。
つまりは自分の体の中にエネルギーが流れるわけで、大型魔法ともなると大量のエネルギーを魔法陣に流し込まなければならない。
つまりは、魔法を使うと疲れるのだ。
限界まで魔法を行使すると体が爆発するとかいう恐ろしい迷信もあるほどだ。
だが、テルルはそんなことをもろともせず、スパルタだった。
毎日限界まで魔法を行使させ、それを3ヶ月間続けたのだ。
ドロップアウトする人が続出するかと思いきや、テルルがうまく皆を率いてくれたので、結局は全ての魔導隊員が3ヶ月間を乗り切ったのだ。
そして三つ目だが、これは魔法ではなく接近戦での戦闘力アップだ。
魔導隊のほとんどは女性なので、力がなくても扱いやすいナイフを皆訓練している。
レイとロイによる指導も完璧で、みるみるうちに皆それなりの短剣捌きができるようになっていた。
つまりは、もし魔法隊を奇襲された場合でも対応できるようにというわけだ。
魔法を織り混ぜての多彩な攻撃ができるということで、戦闘力は個人でDに行ってもおかしくはない。
このように、この三ヶ月間で皆の血の滲むような努力のおかげで、なんとか目に見えて戦力アップに繋がったのだ。
ファントムの国家規模からしても十分に勝てると思えるほどの戦力だ。
そして、この三ヶ月間。
何も軍事面だけを成長させたわけではない。
今やクロノオには、俺の考案した様々なものが出回っており、そのほぼ全てが技術や物品としてヨルデモンドやシネマに輸出され、莫大な利益を上げていたのだった。