表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
73/161

二章 第四十四話 乱闘と静寂と欲しいもの

「いえ、二国が本当は仲がいいことは知っていますから。」


 ユソリナの鋭い指摘に、一瞬固まる二人。

 どういうことだ!?

 二国、つまりファントムとエレメントが仲良しということなのだろうか。


 いやだって、さっきまで酷い罵り合いをしてたし。

 …もしやそれも演技ということなのだろうか。

 先ほどまでザンの巧妙な罠にはまっていた俺がいうのも信憑性が薄いだろうが、言い争っている二人は本当にお互いを憎んでいるように見えた。


「そんなはずは!?私はこのペレストレインなる無作法ものを好むなど!?」

「その通りだユソリナとやら!この腐敗した魔法使いと仲が良いだと!?」


 と、いがみ合う二人。

 やっぱり仲が悪いようには見えないんだよな。


 だが、その様子を見てもユソリナは動揺しない。

 むしろ、さらに自信を深めた顔で、


「いえ、二人の仲が悪いのは承知しております。ですが二国。ファントムとエレメントは秘密裏で協定を結ぶほど仲が良いのでしょう?」


「…貴様!?なぜ協定の話を!?」


 ユソリナの指摘が図星だったようで、憤怒の形相で反論するペレストレイン。

 だが、今のセリフで何が起こっているのかはっきりと理解した。


 つまり、ファントムとエレメントは協力関係にあるということだ。

 そして、二国がよってたかってクロノオを騙して貿易しようとしているのも。

 というか、ファントムとエレメントの書状が同時に送られてきた時点で気づくべきだった。

 

 二国は繋がっている、と。


 俺はザンの前に立つと、


「改めていうが、貿易の件はなしだ。貴様らが何かを企んで俺たちと会談したのは間違いないみたいだからな。」


「…。」


 俺の言葉に、項垂れるザン。


 今回はユソリナの名推理だったな。

 ただ一つ疑問に思うのが、


「ユソリナ。何でファントムとエレメントの間に何らかの協定があるって知っていたんだ?」


「ふふふ。ヒムラ様。ヘラクール商人組合の力を舐めない方がよろしいですよ。」


 と言って、悪役っぽく笑うユソリナ。

 ヘラクール商人組合怖っ!?

 各国のトップシークレットにまで精通しているとか、ヤバイだろ。


 味方でよかったと、心底思うのだった。


「…戦争だ。」


 ペレストレインが不意に呟く。

 その顔は怒りに塗れていて、それはそれは恐ろしい顔だった。


 カッと目を見開いたペレストレインは、


「戦争だ戦争だ戦争だ!アハハハハ!!」


 狂気に染まった目で甲高い声を上げて笑うのだった。




「いいさ!そこまでファントムをコケにするなら!そこまでこのペレストレイン様をバカにするなら!そこまで雑魚が俺たちを笑い者にするなら!…もういいさ。全て壊してやるよ。ユソリナと言ったか!?俺たちの計画を壊してくれてありがとよ!これで思う存分蹴散らせるってものさ。忌々しいエレメントの協定で紳士ぶる必要も、わざわざ交渉まで行う必要もなくなったわけだ!この世界の巨額の富を手に入れ、この世界の全ての知識を手に入れ、この世界の全ての悲鳴は俺たちのものさ!まずはクロノオのしゃぶり尽くして、奪ってやるよ。全ての生命を弄び、全ての痛みを支配し、全身の血の巡り、筋肉の動き、骨の砕ける音、体をきる音、絶望に染まる瞳、爪を剥がす音、少しずつ切り刻む愉悦、意識はなくさせない!?だって意識がなくなったらあげるべき悲鳴があげられないもんなあ!」


 そこまで一気にまくしたてたペレストレインは、こちらを睨むと、


「グルーム。ヒムラからだ。」


「おっけえ。」


 早速グルームを俺にけしかけてきた。

 こちらに向かってグルームが飛び出した瞬間、床が爆ぜた。

 

 グルームは俺に素直に突進すると、右手を握りこちらに殴りかかろうとしてくる。

 それを何とか避け、前転。

 衝撃を和らげた後、グルームの向かって方向を見てみると、大惨事になっていた。


 何とグルームが殴りかかった壁が倒壊し、外の景色が露見していたのだ。


「うわ…!」


 いくら何でもこれはヤバイだろう。

 「破壊」の二つ名は伊達ではない。

 その持ち前のパワーで全てを破壊してしまうだろう。


 グルームは今一度こちらに向き直ると、また殴りかかろうとしてくる。

 どうしようどうしよう。

 俺一人だけじゃジリ貧だし、かと言ってこの場で役立てそうなメンツはいない。


 ユーバは室内で加護を使うと間違いなく軍事棟を破壊するし、アカマルやドルトバ、テルル、ロイ、ユソリナ、メカルは足手纏いになるだけだ。

 レイは奇策を使って相手を翻弄するタイプなので、純粋なパワータイプとの戦闘には向かない。

 結局は俺がグルームを相手取るしかないのか!?

 

 幸いにもグルームの攻撃は速いし強いが単調で、避けるのは比較的楽だ。

 こちらから攻撃してもいいのだが、もう少し状況判断してから行動したい。


 今のところ、ザンはヴィルソフィアを守る形で立っていて、こちらに危害を加えてくる様子はない。

 というか、ザンも帰りたがっている。


 そしてペレストレインだが、ニヤニヤと俺たちの戦いを観察している。

 先ほどの発言からも分かるように、人をいたぶるのが好きなのだろう。

 おそらくグルームもその口で、徐々に相手がやられていくのを見るのが趣味。


 つまり今のところのグルームはまだ本気を出していない。


 つまり、本気を出していない時に決着をつけてしまおう。


「アカマル!」


「ハッ!」


「エレメントの奴らを送ってくれ!」


「了解!」


 とりあえずこれでザンが邪魔してくることもないだろう。

 もし邪魔をしてきても、アカマルなら足止めができる。


 そして、この軍事棟が壊れるのも良くない。


「テルル!対物理結界(AntiObject)を張ってくれ!」


「ええわかったわ!対物理結界(AntiObject)!」


 テルルが張った、渾身の結界。

 あらゆるものの侵入を妨げる、最高難易度の結界の魔法。

 これで軍事棟が壊れるのを防げるか、と思ったのも束の間。


 グルームが「対物理結界(AntiObject)」をパンチで壊して退けたのだった。

 いやいやいや、あり得ないだろ!?

 テルルが全力で張った結界は、よほどのことでもない限り壊れない。

 俺が加護ありで突っ込んでも壊れなかった試しがあるのだ。


 それを一発で、だと!?


 グルームは殴った右手に息を吹きかけて、


「僕の二つ名は「破壊」だあよ。結界を張って破壊されなあいようにしよおうなんて、僕に対すうる冒涜じゃなあいかなあ?」


 そして何事もなかったようにこちらに向かってくる。

 パンチ、受け流し、蹴り、受け流し、体当たり、避ける。

 俺が避けるとグルームがその勢いで壁や床を破壊していく。

 

 …さすがに決着をつけないとまずいな。

 あまり使いたくない手だが、今は仕方がない。


「レイ。ペレストレインを殺せ!」


「…ハッ!」


 俺の命令に、おそらく正確な意味を捉えたレイは、即座にペレストレインに襲い掛かる。

 ペレストレインの戦闘力もそれなりだったが、戦闘力が高く、最近新しい加護を手に入れたらしいレイに叶うはずがなく、あっさり追い詰められる。

 だが、殺しはしない。

 つまりは人質としてもらうのだ。

 

 しかし、俺の命令を聞き、ペレストレインが追い詰められているのを知ったグルームは顔を青ざめて、


「ペレさんを、殺すなあ!!!!」


 レイに襲い掛かろうとする。

 グルームの拳がレイに迫る直前、ロイがレイとペレストレインを影に入れて攻撃を回避した。

 

「…!!」


 いきなり目の前で目標が消えて困惑したグルームはそのまま床に追突。

 大きな地響きが鳴り、床が粉々に破壊された。

 ここが一階で本当によかったな。


「動くな!!」


 影を渡ったレイがペレストレインの首元にナイフを突きつける。

 ザ、人質作戦だ。

 起き上がったグルームは悔しそうにレイを睨む。


 さすがに自分の主を人質に取られては、下手な行動にも出れないようだ。

 

 何秒か静寂が訪れる。

 その静寂を最初に破ったのが、まさかのペレストレインだった。

 ペレストレインはその彫りの深い顔をレイに向け、


「君がそうか、そうかそうか。ならば都合が良い。」


 うんうんと満足げにうなずいている。

 いきなりどうしたのだろうか。


 ペレストレインは今度は俺に顔を向け、


「君の部下、レイちゃんの一番欲しがっているものを、今教えてあげるよ。」


 そう嗤ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ