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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第四十三話 どんでん返し

「クロノオの技術の輸出先を、我らエレメントだけにはしてもらえないでしょうか。」


「…」


 そう必死に頼み込むザン。

 頭を地面に擦り付けて、俺に向かって最大限の謝罪の意を見せながら。


「…技術全てという意味でなら無理だぞ。技術案に関してはヨルデモンドとも条約を結んでいる。だから…。」


「ならばヨルデモンドとエレメントだけでも良い!どうか!」


 俺の言葉を遮ってザンがさらに額を床に擦り付けると、


「我らも経済状況が苦しいのです!ですがクロノオには誠意を見せたい!そのためには技術提供先をエレメントに譲って欲しい!エレメントは商業で発展した街です。必ずやうまく売り捌いてクロノオに利益を出させましょうぞ!」


 そこまでザンは言い切ると、立ち上がってこちらを真摯に見つめ、


「どうか…!」


 かすれるような声で頼み込み、俺に対して頭を下げたのだった。

 ザンの瞳は少し赤みがかっていて、そこからザンの本気度が伺えた。

 手も足も震え、顔も硬直させながらも、エレメントとしての意思を示した。


 これほど誠実に対応されたのは初めてだろう。

 事実、エレメントはクロノオよりも大国だ。

 普通は大国は小国に対して横暴に振る舞い、利益を踏んだくるものだ。


 しかし、エレメントは違う。

 本当にこちらの利益を望んでいる。


 俺はザンの誠実さに胸を打たれた。

 貿易をするのもやぶさかではないな。

 技術先をエレメントに限定するのだって、特にこちらに対しては損はない。

 なぜなら値段もある程度はこちらで操れるのだから。


 何より、一国のそれなりに高い地位を持つ人物に土下座までされて、拒否するのはさすがにひどいと思う。

 

 俺がザンのその申し出を受けようとしたとき、


「少しお待ちいただきたい!」


 ユソリナが異議を唱えたのだった。




「そこのあなたはザンといいましたか?」


 ユソリナがザンを指差しながらそう問う。

 普段お年やかで優美という言葉の似合うユソリナが、眉を寄せてザンを睨んでいた。

 それに一国の代表としてきた相手に呼び捨て。

 これは結構怒っているな。


 だが、なぜユソリナは怒っているのだろうか?

 

「おいユソリ…。」


「国と国との会談において、感情論を持ち込むのはもってのほかです。」


「いえ、私は別に感情論では…。」


「土下座までして、しつこく食い下がり、挙句の果てには必死さを醸し出すための演技までして、感情で相手を説得していないと言えますか!」


「…。」


 ユソリナの言葉にザンが反論しようとするが、それすらもユソリナに押し切られる。

 まさか、先ほどのザンの態度は演技だったというのか!?

 

 いや、ユソリナの決めつけの可能性が高いな。

 なぜならユソリナの言葉には根拠がない。

 ただ相手の行動を演技と決めつけているだけだ。


 …いや、本当にそうなのか?

 ユソリナはむやみやたらに相手をこうだと決めつける人物か?


「待ってくだされ。私が演技をしてヒムラ殿を騙していたということですか!?言いがかりにも程があります。」


「いいえ、言いがかりではありません。根拠はあります。」


 そういうとユソリナは人差し指を一つザンに突き出し、


「一つ!大体鉱石の価格が上昇していることについて、なぜ後になって言い出したのですか?」


「…それは…。」


「エレメントの主要産業であり、クロノオ交渉においてカードとなる鉱石の値段。その状況を後から言い出すのは怪しいにも程があります。」


 確かにそうだな。

 だが、実際鉱石の値段は上がっているようだし、まあそこは誤差の範囲じゃないか。

 だが、次にユソリナが言い放った真実は驚くべきものだった。


「…それに、鉱石の値段は本当は上がってないのですから。」


「な、何だって!?」


 俺は驚きのあまり叫んだ。

 本当は上がっていないだと!?

 クロノオ軍部の皆も驚きのあまり硬直している。


 これは問い質さなくてはいけない。


「どういうことだザン。」


「い、いえ!そんなはずがありません!エレメントの鉱石の価格上昇は本当ですとも。ヴィルソフィア様にかけて誓います。」


 そう俺を説得するザン。

 それを見かねたユソリナが、


「あなたは鉱石の値段が上がったといいましたよね。では、今一度正しく尋ねます。金属の値段は上がりましたか?」


「それは…。」


「上がったのは鉱石、それも宝石の値段だけでしょう。」


 ユソリナが暴露したそのカラクリ。

 何じゃそりゃと呆れてしまうのも無理はないだろう。


 そんな子供騙しみたいなカラクリに俺は騙されていたのか?

 ユソリナがいなかったら危なかったかもしれない。

 確かに鉱石の値段は上がったが、金属の値段は上がらず上がったのは宝石の値段だ。

 そしてクロノオとしては金属の方が需要があるし今後輸入したいと思っていた品なのだ。


 おそらくエレメントは「鉱石の値段が上がっている」というという言い訳によって、実際は上がっていないであろう金属の値段までも吊り上げるつもりだったのだ。


 ザンも項垂れていて、答えない。


 これは完全にしてやられたかもしれない。

 そして、ユソリナの断罪はまだ続く。


「こちらに主導権を握らせたのだって、エレメントに慈悲が来るよう仕向けようとした結果なのでしょう?」


 主導権をこちらが握ることで、クロノオがエレメントに慈悲を与えるだと!?

 そんなこと…。

 いや、あったかもしれない。

 

 大国であるエレメントがこちらに誠意を見せて主導権を譲ってくれた。

 それならばクロノオもある程度エレメントに対して誠意を見せないといけないと考える。

 結果的にエレメントに有利になるように貿易が進むというわけか。


 だが、相手が俺のようなやつだったからこの作戦は成功する可能性があったけれども、もし俺がクロノオの利益だけを追求するようなやつだったら、エレメントに対しての慈悲は期待できないぞ?

 そんな分の悪い賭けをエレメントがするだろうか。


「おそらくはクロノオのシネマへの対応を見て、クロノオの慈悲にすがるという作戦を思いついたのでしょうけど。」


 ユソリナのその一言で納得。


 なるほどな。

 確かに俺はシネマのクロノオ侵略に対して、賠償金はほとんどとっていないに等しい。

 そこから俺があまちゃんだと推測したようだ。

 

 それは、流石にこちらを舐めすぎだ。

 もう俺はエレメントと貿易はできないと考え始めていた。

 

 そこで俺はふと先ほどの違和感の正体がとけ、ザンに聞いてみる。


「ザン殿、…いや、ザン。貴様、確か俺たちに鉱石の値段が上がっているという話をした時、さもヴィルソフィア様が気づいたから付け加えたという感じを装っていたよな。」


「それは…。」


「だが、本当にヴィルソフィア様が鉱物の懸念について気が付いたのなら、まずヴィルソフィア様が自主的にザンに話しかけて、それで初めてザンが鉱物の話に気づくはずだ。だが実際はザンが初めに鉱石の話に気づいたぞぶりを見せて俺の話を遮ってから、ヴィルソフィア様の口元に耳を近づけた。…順番がおかしくないか?」


「…。」


 考えてみれば当たり前にことだ。

 確かザンが鉱石の値段が上がっていると言った話をするとき、


※※※ ※


俺が満足した顔でうなずいていると、ザンがふと思い出したように、


「ああ、すみませんヒムラ殿。付け加えなければならないことがあるのですが…。」


「ああなんだ?」


 そう返すとザンは少女の口元にまた耳を寄せ、少女の言葉を聞いて…


※※※ ※


 ザンは、ヴィルソフィアが鉱石の値段上昇について付け加えた、という体を保つため、少女の口元に耳を寄せ、さも少女の言葉を聞いたふうを装っていた。

 だが、実際に鉱石の値段上昇に気がついたのはザンだ。

 なぜなら少女の言葉を聞くより前に、「付け加えたいことがあるのですが」と口にしている。

 つまりは先ほど暴かれた鉱石のカラクリについて考え出したのも少女ではなくザン。


 そして、


「ヴィルソフィア様といいましたか。あなたはおそらく今まで何も話してはおられませんね。全てザンに話しかけているふりをしていたのでしょう。」


 俺のその指摘に、少女は驚いたように髪を揺らす。

 図星だったようだ。


 つまりは、少女でさえもザンの操り人形だったわけだ。

 ザンの考えや陰謀や思いも全てこの少女に押し付けるためにスケープゴート。

 この巧妙な仕掛けに舌を巻かざるを得ない。


 ザンは、その一連の流れを見て、しばらく呆然としていると、ふと、笑い出した。


「くくくっ。」


「何がおかしいんだよ。」


 ザンはお構いなしに立ち上がり、やがて大きく笑い出す。

 …いろいろ暴かれて、とち狂ったのだろうか。


「ハハハハハハハ!まさか小国のクロノオなぞに暴かれるとは、私もまだまだだのう。」


 ついに本性を現したか!?

 なんかさっきまでの大人しい雰囲気から打って変わって、いきなりこちらを見下してきた。

 そして、


「ふん!野蛮なファントムとも会談をしようなどといった狂気の行動に出る国だ。一筋縄では行かないと思っていたがのう。」


「何だと!?」


 ザンのバカにした物言いに今まで大人しくしていたペレストレインがいきり立つ。

 これがザンの本当の性格なのだろうか。

 傲慢で、欲が深く、他人を見下す醜悪。

 

 それに嫌悪感を覚えた俺だったが、ユソリナはどうやら違ったようだ。

 言い争う二人の間に立ち、


「もうお戯れはよしてください。ザン、ペレストレイン。」


「邪魔をするでない!」

「それに貴様、俺を呼び捨てにするのか!」


「いえ、二国が本当は仲がいいことは知っていますから。」

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