二章 第四十二話 話し合い開始
タイトルの副題を変えました。
無双するかは今のところ不明です笑
「では、ヴィルソフィア様のご意向を今この場で示したいと思います。」
そう言って、ザンはクリス・ヴィルソフィアと呼ばれた顔の見えない少女の、口元であろう部分に耳を寄せて、ふむふむと頷くと、
「ヴィルソフィア様は、クロノオと正当な貿易をすることを望んでおられます。」
と言う。
何と言うか、いちいちこの少女の言葉を聞かなくてはならないのはめんど臭いな。
早く進めて欲しい気持ちもあるが、これが相手のしきたりなのだろう。
また、ザンは少女の口元に耳を寄せると、
「…ヴィルソフィア様は、貿易の主導権をクロノオに譲ってもいいとしています。」
何だって!?
貿易の主導権を譲ってくれるのか・
貿易の主導権を持つと言うことは、輸出入する品をある程度その国の裁量で決めることができる。
普通は地位の高い国が持つものであり、対等な条件で貿易をするのだったら、どちらの国も貿易の主導権を握ってはならない。
エレメントがクロノオに貿易の主導権を譲れと言うものならば話はわかるし、俺も迷いなく突っぱねることができるのだが、対等に貿易するどころか主導権を譲ってくれるのか!?
明らかにこちら優位な条件だ。
俺は勢い込んで了承しようとすると、脇からユソリナがちょんちょんと俺の肩を突き、
「さすがにあからさますぎます。何か裏があるのでしょう。」
「あ、ああそうだな。」
と、注意してくる。
まあ、これほどこちらに優位な条件を出すのなら、裏があるのを疑った方が良さそうだ。
も、もちろん裏があるとは疑っていたとも!
うまい餌をぶら下げられて、それに飛びつくなんてことをするわけがないじゃないか!
ゴ、ゴホン。
まあいい。
とりあえず裏を探らなければいけない。
とりあえず俺はザンに、
「その提案は嬉しいのですが、なぜ主導権を譲るのですか?」
「…」
「…」
俺の質問にザンは頷き、また少女の言葉に耳を傾け、
「これが、エレメントがクロノオに向ける純粋な誠意と、ヴィルソフィア様はご考えなさっています。」
「…。」
ますます怪しいな。
純粋な誠意という言葉を盾にして、本音を隠しているような気がする。
一応ユソリナの方も見てみるが、やはり怪しく思っているそうで、首を横にふった。
その反応をみたザンは、ため息をつくと、
「ヴィルソフィア様のご意向に逆らうのは許しがたいことですが、仕方がありません。エレメントからクロノオに輸出できる数々の品をお見せいたしましょう。」
そう言ってザンは従者の一人を呼び寄せると、その従者がザンの手に小さな巾着袋を乗せる。
そして、ザンは目を閉じると、巾着袋の入り口に魔法陣が生成される。
まさか、魔法を使うのか!?
一瞬身構えたが、どうやら俺たちに危害を加えるつもりはないらしい。
ザンは
「空間縮小!!」
と叫ぶと、何とその巾着袋の中から大量の宝石や金属などが出てきた。
その量は明らかに巾着袋に収まる量じゃない。
つまりは、
「四次元ポケットみたいな感じか…。」
「よじげんポケットなるものが何かは知りませぬが、これはエレメントの魔法研究の最先端の技術によって作られた空間拡大縮小技術であります。」
んーようわからんが、四次元ポケットを開発したってことであっているらしい。
確かに、それを考えるとエレメントの技術力は目を見張るものがあるな。
ヨルデモンドとどちらが進んでいるのだろうか。
俺はどちらもすごいと思うけどね。
それにしてもザンと言ったか?
この老人、輸出品を見せるついでに魔法技術も見せつけた。
一筋縄ではいかない人物であることが窺える。
これによってクロノオでのエレメントの評価がますます上がることだろう。
テルルなんかは目を輝かせて見てるし。
そして、巾着袋から取り出された金属や宝石なども、質の高いものが多い。
エレメントは資源も豊富であることが窺える。
宝石は正直使い所に困るが、金属なんかは今後重要となってくるだろう。
俺が現代知識で今後この国を発展させる予定なので、その材料としては重宝するかもしれない。
こちらからは大量生産の目処が立ちつつある塩とか新しく作った技術を、相手国からは今後使われるであろう金属を、クロノオ主導で交換できる。
エレメントとの貿易は、してもいいかもしれない。
俺は気を良くして、
「わかった。こちらからはとりあえず塩なんかを輸出しよう。」
「ありがとうございます。」
「では、先ずはこちらからは塩や砂糖などを、エレメントからは金属や宝石類を輸出入し、こちらがその貿易の主導権を握るということで。」
「ええ。」
俺の確認にザンは了承する。
よし、これで交渉成立だ。
最初は怪しいと思っていたが、杞憂だったようだ。
ユソリナはまだ難しい顔をしているが、大丈夫だろう。
俺が満足した顔でうなずいていると、ザンがふと思い出したように、
「ああ、すみませんヒムラ殿。付け加えなければならないことがあるのですが…。」
「ああなんだ?」
そう返すとザンは少女の口元にまた耳を寄せ、少女の言葉を聞いて…
あれ、なんか順番がおかしくないか?
俺はふと感じた違和感の正体を掴めずにいた。
…まあいいや。
ザンは改めてこちらに向き直ると、
「些細なことではあるのですが、こちらの鉱石の価格が上昇しておりまして、そのことをヴィルソフィア様は懸念されておられたようです。申し訳ありませんが、鉱石の価格を上げさせてはもらえぬでしょうか?」
「ああいいよ…っておいおい!?」
先ほどの主導権はクロノオにあるという言葉はどこに行ったのだろうか。
確かにクロノオが主導権を持つこと自体おこがましいし、価格が上がるというのならしょうがないとは思っている。
だが、先ほどこちらに主導権を渡すという言葉を発しておいて、急に主張変更するのはどうなのだろうか。
俺の不信を感じたのか、ザンが少女の口元に慌てて耳を当てると、その場で土下座して、
「申し訳ありませぬヒムラ殿!我々から言い出しておいてそのようなことは断じて認められないのは承知しております!ヴィルソフィア様も大変申し訳なく思っております。」
その豹変ぶりに多少驚きつつも、俺はため息をつきながら、
「だけどな、鉱石の価格が上昇してることくらい調べてから会談に臨むのが常識だろ。」
「申し訳ございませぬ。」
俺の態度にザンはさらに頭を下げる。
うーん。
申し訳なく思っているのは本当だとは思うが、信用してもいいものなのだろうか。
そう悩んでいるとザンが、
「クロノオに誠意を見せたいのは本当でございます!ならば…。」
そこでザンはふと思いついたのか、
「提案が一つあります。クロノオに主導権を渡すことができ、かつ我々も満足することのできる案が。」
と言う。
何なのだろうそれは。
「どんな提案だ。」
とりあえず聞くだけ聞いてみるか。
ザンはこちらを真摯に見据え、
「クロノオの技術の輸出先を、我々エレメントだけにしてはいただけないでしょうか?」
そういったザンの口角は、少しだけ上がっていたのだった。