一章 第七話 魔法の天才
ようやく。
ようやくやってきたのだ。
俺はクロノオ王国の城を見上げて思う。
軍部試験
正式名称:クロノオ王国軍統率及び補佐兼戦後処理外交部担当部門選抜試験
うん、長い。
無理やり長くしたんじゃないかってくらい長い。
まあ、気を取り直して俺は城の中に入っていく。
城の中に入るのは初めてなので、どんな風になっているのか気になる。
ワクワクを胸に俺は、城のドアを開ける。
ガチャン…ッキッ…キィィィィッッーー
おお!
これはすごい。
ドアから奥の階段まで続く長い赤絨毯。
周りには数々の著名な芸術家が書いた絵画(多分、と言うか俺はこの世界の芸術は知らないので当然わからない)が並んでいる。
天井には巨大なシャンデリアが飾られている。
そして、全体的に輝いている。
まさしく異世界の城。
憧れの桃源郷。
しかし、その奥の階段の前には、数々の受験者が並んでいる。
列は8つ作られており、それぞれが部門ごとに並んでいる。
一番人数が少ないのが、やはりと言うべきか外交部門だ。
というか、ビラにはなにをするのか全く書かれてなかったからな。
長ったらしい正式名称からすると戦後処理外交らしい。
うん…地味だ。
重要なのかもしれないけど。
次に多いのが、知識補佐部門と歩兵隊長部門。
ぶっちゃけ、教養やリーダーシップが問われるだけの、たいしたことなさそうな試験だ。
そして、魔法使い隊長部門、隠密部門、騎馬隊長部門が次に多い。
これはおそらく、それぞれ得意な者が国中から集まってきているのだろう。
しかし、才能に左右されるところもあるため、そこまで多くはない。
そして、将軍部門、軍師部門がダントツに多い。
俺の予測だと、将軍部門は国中の力自慢が、軍師部門は国中の、軍の指揮経験がある者が集まってきているのだろうと思ったが…
この二つの部門の受験者、異様に子供が多い。
それも、元気いっぱいの10歳くらいの男児が。
あー分かった。
これ、ただの憧れでこの試験受けようと思った輩だ。
おそらく、「軍師!?将軍!?かっこいい!なりたい!」みたいな奴らが集まったんだろう。
こちらが真面目に受けに来ているというのに、なんてこった。
でも、それは裏を返せばライバルが少ないということにもなる。
戦術オタクの俺からしてみれば、10歳のひよっこが俺に勝てるわけがない。
それに、俺の心は26歳だし。
そんなことを考えていると、階段の上に、ある人物が現れる。
その身に纏った服が黒く輝き、その精悍な顔立ちがその威厳を示している。
その人は、この国で最も偉いとされ、この国を治め続けてきた。
クロノオ国王、グランベル・キング・クロノオである。
「諸君、これから軍部試験を始める!」
全員の顔に緊張が走る。
「まず、魔法使い隊長部門、歩兵隊長部門、外交部門、知識補佐部門から試験を始める。その後、将軍部門、軍師部門、隠密部門、騎馬隊長部門の試験をする。」
そういうと、魔法使い隊長部門、歩兵隊長部門、外交部門、知識補佐部門の並んでいる列は、グランベル国王の指示に従って動き出す。
そして、そのまま試験会場に連れて行かれるのだ。
残りの4列が残ると、グランベル国王は
「お前たちは、試験の時間まで自由にして良い。試験を見学するのもありだ。」
ほう、見学できるのか。
グランベル国王は階段の上へと消え、張り詰めていた空気が解れる。
そして、全員はそれぞれの行動に移る。
俺はどうしよう。
やっぱり、まだこの世界に来て本格的に見てないものと言ったらあれだしな。
その試験を見に行くとしよう。
そう言って俺は、それの試験が行われている場所へと向かった。
「火力弾」
ある受験者がそういうと、目の前に火の玉が現れて、それが的目掛けて飛んでいく。
そう、魔法だ。
魔法をというのは基本的に誰でも使えるものだが、自分の中に秘めたによって度合いが変わってくる。
この世界ではそういうものらしい。
何にせよ、カッコ良すぎる。
ああ、俺だって打ってみたいぜ。
「火力弾」
って。
うん、カッコ良すぎる。
というか誰でも使えるのだから、頑張れば使えるんじゃないか!?
まあとりあえず俺の憧れはおいといて、魔法でこの的を破れたら第一選考突破らしい。
ちなみにこの的には魔法による結界が張られていて、それを突き破らないと試験不合格らしい。
ちなみにこの試験で使える魔法は「火力弾」のみだ。
この世界では魔法使いは軍として使われる。
一人一人が魔法を使って戦うのではないかと思うかもしれないが、個人戦ができるのは才能のある魔法使いだけ。
というのも、普通の魔法使いが相手の大軍相手に「火力弾」などとやって、小さな火の玉を飛ばしても、大して意味はないからである。
集団で集団魔法を放つことで、相手の軍に対して攻撃するらしい。
個人で打つ魔法を個人魔法、何人かが力を合わせて打つ魔法を集団魔法という。
集団魔法は個人魔法に比べて、射程も威力も範囲も桁違いなんだとか。
最も、才能のある魔法使いだと、一人で集団魔法をどしどし打ち込めるのだが。
魔法使い隊長選抜試験、もちろんリーダーシップなども重視されるが、やはり魔法の才能が採点対象だ。
つまりは結界を張っただけの的も破れないようでは、隊長など務まらない。
魔法使いとは実力社会なのだ。
俺が色々と考えている間に、また受験者の番号が呼ばれる。
「157番!」
「はい」
そうして立ち上がったのは銀髪の少女である。
少女は的の前に立つと、魔法を打とうと魔力を込める。
「!!!」
観衆が騒めいた。
その理由は、いくら魔法を見たことのない俺でも分かる。
少女に秘めた魔力が凄まじいからだ。
膨大な魔力がその少女から放出される。
少女の目の前に火の玉が生成される。
しかし、それは他のと比べるのがおこがましいくらいの脅威を感じさせた。
「火力弾!」
放った技は、高速で的に向かって飛び、軽々と結界を打ち破る。
全員が、試験官までもが唖然としていた。
直後、歓声が巻き起こる。
「すごい!」
「何という魔法だ!」
「あれは本当に火力弾なのか?」
「あの少女は何者だ!?」
あちこちで驚きの声が響く。
「すごい…。」
俺も、声に出して呟かずにはいられなかった。
あの銀髪の少女。
相当の魔法の使い手なのかもしれない。
そのあと、騎馬隊長部門、外交部門、知識補佐部門を観に行った。
騎馬隊長部門は、やはり馬の技術が必要で、前の世界での流鏑馬のようなことをやっていた。
外交部門は面接で、俺たちが見ることは出来なかった。
知識補佐部門は本当に試験みたいな感じで、教科は語学、地学、魔導学の3つだった。
語学かあ。
この世界の言語は何だろう。
俺はそこらへんは不自由なくやってきた
俺は転生した時から、相手が日本語を話してくれているし、看板も日本語だ。
日本語を書けば相手に分かってもらえる。
でも、さすがに本当に日本語な訳がないもんなあ…。
異世界だし。
なんか翻訳機能でもついているのか?
転生特典とか。
加護なんてものもあったなあ。
『日本語の加護』…地味すぎる。
あるかもだけど。
おっと、そろそろ軍師試験の時間かもしれない。
そう考えると俺は、軍師試験の会場へと向かったのだ。