二章 第四十話 ファントムとエレメントからの書状
気付いた方も多いと思いますが、あらすじを色々と変えて試行錯誤しています。
これからも変わるかもしれないので、ご了承ください。
デトミノとの戦争から何日か過ぎ、またクロノオ軍部には平和な日々が訪れていた。
相変わらずアカマルユーバテルルドルトバは志願兵の教育で忙しいし。
ヨルデモンドから戻ってきたユソリナとメカルは塩や砂糖の大量生産の準備で忙しい。
ロイレイは相変わらず国境の見張りをしているし。
俺もいろんな資料にサインを押さなければいけないので、大変と言えば大変だ。
「えっと?武具の調達?そうだな、できるだけコスパのいいやつを選びたいしなー?」
その資料のほとんどが軍に関することなので、趣味を仕事にできて大満足ではあるが。
色々と国の情勢について情報を入れながら、今度どこが戦を仕掛けてくるだろうかというのも考えているのだ。
今のところシネマは戦の後始末で忙しいらしいし、ないだろう。
そしてヨルデモンドは攻めてこないと信じているが、ザガルの思惑が全く読めない。
そして、一番可能性が高いのはファントムとエレメントとルーンという、クロノオの南三カ国である。
どの国もまだ交流がないが、ファントムとエレメントはクロノオに目をつけているみたいだし。
ルーンに至っては全く情報が掴めない。
ロイによると、小国だからこそなのか、かなり厳しく情報統制されているらしかった。
今度ルーンに内部調査に行くとか言ってたし、頑張ってもらいたい。
そう、俺がぼんやりと考えていると、
「ヒムラ様。ファントムとエレメントから手紙が。」
影から現れたロイにより、二通の手紙が渡される。
噂をすればってやつだな。
確か塩の製造方法について教えてもらいたいなどと言ったことを、ヨルデモンドでもファントムのペレストレインとグルームに言われた気がする。
あの軽薄な口調と重苦しい講釈が思い出され、思わず顔をしかめる。
ペレストレインとグルーム。
どちらも正直あまり関わりあいたくない相手である。
性格が合わないというのもあるし、二人に関する悪い噂というのもある。
曰く、人が痛みで苦しむのを見て楽しむのが趣味だとか。
曰く、城では切り刻まれた人の悲鳴で絶えないだとか。
本当かどうかは疑わしいが、もし本当だったら反吐が出るほどのクズだ。
注意深く交渉しないといけない。
俺は、手紙を開いて中を見る。
「やあ、元気かな。
クロノオ軍師ヒムラ。
ファントム国王ペレストレインがクロノオに頼みたいことがあるんだ。
いきなりで申し訳ないが、聞いてほしい。
実は、クロノオで生産しているという塩や砂糖なんかがあるだろう?
ないとは言わせないよ。
実は、その製造方法を知りたくてね。
教えてほしいんだよ。
どうかな。悪くない提案だと思うよ。
塩の製造方法を俺たちに教えてくれたら、物価が安くなり皆に塩が出回る。
皆が幸せになれる方法さ。
どうかな。
うけてくれるよね?」
何だろうか、このゾワゾワした不快感は。
この手紙の文章の一字一句に、気分を害されている気がする。
第一に、何も対価を用意せずに製造法だけ譲れなどと言われても、了承することなんて、
きない。
莫大な利益を生む塩を譲れだと!?
それこそ金貨何億枚もの利益を生む品だ。
手紙の文体からしてこちらを見下しているようにしか思えない。
それに、皆の幸福を祈って塩の製造方法を譲ってくれなどという一見善良な意見のように見せているのがなお腹立たしい。
それならばファントムに譲れではなく世界に公開しろというべきだろう。
そう書いていないのならば、ファントムもまた塩の市場を独占するつもりなのだろう。
俺がそう憤慨していると、手紙の隅が折れていることに気がついた。
めくってやると、そこには小さな字で、
「P.S. もし製造法を教えてくれたら、君の部下が一番ほしいものをあげよう。」
と書いてあった。
俺の部下が一番ほしいもの?
何の話だろうか?
というか、なぜファントムが俺の部下の欲しいものを知っているのだろうか。
ますます気味の悪い手紙だ。
だが、最後に書かれていた言葉をどうしても無下にはできず、一度ファントムと話し合おうと決意したのだった。
エレメントからの手紙も同封されていたが、こちらは至ってシンプルなものだった。
国交を結びたいと言ったもので、おそらくクロノオの輸出品目当てだろう。
エレメントは魔法大国と言われるほど、魔法が発展している。
交易するメリットはあるだろう。
ただ、ひとつ気になるのが、手紙の文章の末尾には全て「と国王様が仰せである。」と書いてあったのだ。
つまりエレメントは、この手紙のことも全部国王の考えですよと示しているわけだ。
それほどまでに国王の権力が強いのだろうか。
確かヨルデモンドでエレメント側のトップと顔を合わせたとき、一人の少女と一人の老人がいたな。
やはり老人の方が国王なのだろう。
子供が国王をやるとは思いづらいしな。
13歳で軍師をやっている俺には言われたくないだろうが、生憎俺は実質30歳ほどだ。
まあそれを考慮すると、あの少女は国王の子供とかだろうか。
後学のために連れてきたとか?
あと、確か少女は顔を髪で覆い隠していたな。
全く顔が見えなかった。
何のために顔を隠しているのだろうか。
まあ謎の多いエレメントではあるが、ファントムよりかは信用できるだろう。
「では、ファントムの使者には二週間後に、エレメントの一週間後に会談の場を設けると伝えておくれ。」
「ハッ。」
俺はロイに、異なる日時に訪問してくるように誘導する伝言を頼んでおく。
まあ不確定要素の多いファントムを先に相手取るよりかは、エレメントを先に相手取る方が良いだろう。
うまくいけばエレメントからファントムの情報も聞けるかもしれないし。
俺はメカルの部屋を訪れて、ファントムとエレメントの話を聞くことにした。
予習というのは大事なのだよ。
メカルは忙しそうにはしていたのでまた今度お暇しようかと思ったが、どうやら今日の仕事は終わったらしいので、話を聞かせてもらうことにした。
「ファントムとエレメントですか…。」
「ああ、何か知っていることはないか?」
「そうですなあ。ファントムに関してはあまり話すことができませんぞ。なぜならあの国家の情報のほとんどが世界に対して秘匿されているので、加護の力では情報は抜き取れないのです。」
「それは何とも嫌な予感がするな。」
隠してることがたくさんあるというのは、国として信用できない。
「ですが、わかっていることもあります。一つは独裁体制であるということ。」
「なるほど。」
独裁か。
王が善良であれば独裁という方式も悪くはないのだが、王は性格異端者疑惑が出ているペレストレインなんだよなあ。
「もう一つは、かなり軍の規律がなっているということ。」
規律か。
確かに規律というのは重要ではある。
「その規律に逆らえば死刑なので、どうやら誰も逆らわないようですな。」
「死刑!?」
恐っ!?
さすがにそれは兵を抑圧しすぎなのではないか。
うむ。
これは完全に兵士をただの道具、人的資源として扱っている疑いがあるな。
第二次世界大戦後半の日本やドイツなど、経済が苦しくなるに連れ、兵士の人としての権利は失われていく。
つまりは、ファントムの中身はそのような状態なのだろう。
死を天秤に乗せて規律を守らせるなど、末期だ。
まあいい。
エレメントについて聞こう。
「それで?エレメントはどういう国なんだ?」
「ええ。エレメントはですな。一種の宗教国家として栄えているようですな。」
「宗教国家か。」
「ええ、現人神とされるクリス・ヴァルソフィア4世を国民全てが崇めているようです。」
クリス・ヴァルソフィア、か。
どんなやつなのだろうか。
「エレメントは魔法と商業の盛んな国家であり、天使国家に面しているのもあって、そことの取引で栄えたらしいです。」
なるほど、天使国家か。
普段は天人国家と交易も条約も結ばない天使国家だが、その中にある品物は物珍しいというわけか。
その天使国家と交易をしているのなら、栄えるのも頷ける。
宗教国家で商業と魔法の盛んな国。
だいたいイメージは掴めてきた。
そしてその頂点に立つクリス。ヴァルソフィア。
名前からして女性だな。
…ん!?
ちょっと待てよ!?
まさか…。
「メカル。その現人神ってどんな姿をしているんだ?」
「ああ、それはですな。10歳ほどの少女で、何でも、髪の毛が前が見えないほど多いらしいですぞ。そういえばヨルデモンドにもいましたなあ。」
じゃあ、あの怪しい雰囲気を放った少女が現人神!?
そういうことになるな。
「…まあいいや。ありがとなメカル。」
「ええ、会談のご健闘をお祈りしています。」
エレメントとファントムについては、何となくわかった。
あとは、会談に向けて準備するだけだ。
そして、一週間後。
クロノオ軍部の前に現れたのは、
「この度はお招きいただき、誠にありがとうございます。」
「…。」
寡黙な少女と、老人。
そして、
「やあ、俺たちを仲間外れにするなんてひどいんじゃないか?俺はこれでもクロノオと友好的でありたいと思っているのに。あのエレメントなんていう薄汚れた国よりも一週間遅いなんて、心外だよ。」
「どおうも。僕はグルームっていうんだあけど、初対面だっけえ君。あれえ、確かヨルデモンドであったあけえ?」
長身と短身の青年二人がいた。
グルームさんとペレストレインさんの気持ち悪さが皆に伝わりますように。