二章 第三十九話 戦後の宴と褒美
デトミノvsシネマクロノオ連合軍の戦争も終わりを迎えた。
デトミノ側の被害は三千名ほどが死亡、怪我人多数。
シネマ兵は千名ほどが死亡し、怪我人多数。
そしてクロノオ兵の損害はほぼ皆無。
結果的にはシネマクロノオが勝ったが、総合的にはクロノオの一人勝ちと言ってもいい。
それは一重に、アカマルが考えを巡らせて作戦を立てたからである。
「いやー!クロノオには感謝しかございません!ありがとうございます!」
「あー大丈夫だ。それよりそちらの損害は…。」
「おっとヒムラ様!お酒が進んでおりませぬ故、私が…。」
「いや、俺未成年だから…。」
戦争が終わったその夜。
クロノオ軍とシネマ軍は揃って野外打ち上げをしていた。
どうやらシネマから運んだらしい大量の酒を飲み、デカい肉を喰らっているようだ。
クロノオから塩を提供したら、大変喜ばれた。
そして、酒によったパラモンドがさっきから俺に擦り寄ってくるのだ。
暑苦しいお世辞としつこく酒を勧めるパラモンド。
お前、酒を飲むと豹変するタイプか!
「ヒムラ様。こちらへ。」
俺がパラモンドの対応に困っていると、影からロイが話しかけてくる。
ナイスタイミングだ!
どうやら、今回の戦の後始末に関して、アカマルが話し合いたいらしい。
後始末って、何をするのだろうか。
今回はデトミノが賠償を支払う形にもなってないし、シネマがクロノオに少しお金を払うくらいだ。
お金のことに関しては解決したと言っていい。
俺が首を捻りながらアカマルの元へいくと、そこにはテルルとユーバとドルトバがいた。
「何のようだ?」
「ヒムラ様。話し合いたいというのは、今回の報酬の件なのですが。」
俺の疑問にアカマルがそう返答する。
ふむ、報酬か。
確かに戦場で活躍したりすると報酬を与えるとか言ったような言ってないような。
どちらにせよ戦争が終わったら報酬を与えてやらないと兵の士気が下がるだろう。
活躍に見合った報酬を与えないといけないわけだ。
そして、今回の戦で入ってきたお金は、シネマから金貨100枚。
およそ1000万円ほどだ。
ひとまずはこれを分配するしかないだろう。
兵の数は三千人ほどだから、一人三千円くらい?
…さすがに少ないな。
もう少し軍部から出してやらねば。
その旨をアカマルに伝えると、ユーバが困ったように口を開いて、
「みんな同じ報酬だと嫌だって人がいるんだよね。武功を立てた兵たちがもっと報酬が欲しいって。」
なるほどなあ。
おそらくは志願兵のほとんどが、武功を立てたい輩だろう。
愛国心故にという人もいるとは思うが、それでも武功を立てたらしっかり報酬を出してもらいたいと感じる兵は少なくない。
こちらで武功に対する褒美は与えたい。
だが、こういうのは武功を偽り報酬をかっさらおうとする輩が出てくるのが定番だ。
そこらへんをきちんとしないと不平不満が出てくる。
「武功を立てた奴とかは、どうやって見分けるんだ?」
「それに関しちゃあもうこっちで考え終わってるぜヒムラ様!」
俺の悩みはドルトバの頼もしい一声で吹き飛んだ。
ちなみにドルトバの顔は酒によって真っ赤に染まっているが、それでもやるべきことはしっかりやってくれているらしい。
ちなみにドルトバの騎馬隊が三倍ほど数に差がある騎馬隊を撃退したらしいし、やはりなんだかんだ言って頼りになる男だよ。
さて、それで武功をたてたと思われる兵の数だが、聞いたところおよそ百人ほどらしい。
ちなみに基準は、歩兵隊と騎馬隊は敵を倒した数、魔導隊はテルルが頑張ったと思う人らしい。
適当かよテルル。
まあいい。
その百人には特別な報酬か地位を与えなくてはならないだろう。
何にしようか?
「何かいい案あるか?」
自分一人で決めづらい案件だったので、皆にも聞いてみる。
だが、金のことについてはからっきしである隊長組は、自信たっぷりに、ない!と言ってきた。
…突っ込むのも面倒になってきた三人であった。
唯一それなりに国の内部に精通しているらしいアカマルが、
「歩兵隊で七十人ほど武功をあげていますが、今一斉に褒美を配ると出費が厳しい。となると、」
「となると?」
「歩兵隊のグループ隊長としての地位なんてどうでしょうか。」
歩兵隊のグループ隊長とは、今千五百人ほどいる歩兵隊を百人ずつ十五のグループに分かれた時の、各グループのリーダーだ。
大抵は今ヨルデモンドにいる上、十五枠しかないグループ隊長にどうやって七十人詰め込むのか。
最近頼れる感じになってきたアカマルだが、やはりバカなんじゃないか?
疑いの眼差しをアカマルに向けると、アカマルは慌てて、
「いやいや、さすがに七十人は無理ってわかってますって。だから、百人の中でも何人かのグループを作るのですよ。」
「ほう、それはいいな。」
「確かに、その方が軍を動かしやすそうだねー。」
アカマルの意見にユーバと俺が賛同する。
つまるところ軍の細分化だろう。
軍を細かく分ければその分細かい動きもできる。
クロノオ軍は数も少ないので、命令系統が複雑になり、命令が伝わらず混乱することもない。
「では、その七十人を各グループに分配して、それぞれグループ隊長のグループ隊長をやるってことね。」
ユーバが嬉しそうにいうが、グループ隊長のグループ隊長などという頭の悪そうな役職は是非とも取りやめたい。
そうだな、もともとグループ隊長もあんましカッコ良い響きでもなかったし。
デトミノだって軍のリーダーは最高戦士などというかっこいい呼び名だったしな。
…前世の知識を流用するか。
「…下士官と准士官だな。」
「かし…?今なんて…?」
「いや、グループ隊長を准士官にして、グループ隊長のグループ隊長を下士官にしようかなって。」
俺の提案に一同静まり、
「か、カッケー!」
ユーバが真っ先に反応した。
彼の厨二病精神のツボを押したのだろう。
「まあいいんじゃないですか。呼びやすいですし。」
「ワハハ!忘れてしまいそうだな!」
「ダサいと思うんだけど、これって私だけ?」
皆の反応は一切気にしなくて良い。
なぜなら歩兵隊はユーバ管轄だからだ。
そして、人数調整を行なったところ、1グループ5、6人ほどの下士官が就くこととなった。
下士官、准士官は給料を上げることで、褒美の代わりとした。
まあこれで一件落着だ。
そして騎馬隊と魔導隊にも准士官と下士官をつけさせた。
武功に正当な形で褒美を与えるためとはいえ、かなり軍隊っぽくなってきたな。
准士官に下士官。
かなり俺の琴線に触れる言葉たちだ!
なんて素晴らしい響きだろう。
一人興奮している俺を気持ち悪いものをみる目でテルルとアカマルが俺を見てくる。
「ヒムラ様!何を逃げておるのですか。酒を飲みましょうぞ!」
「うげっ!」
いきなり近づいてきた酒臭いパラモンドが俺に擦り寄ると、酒瓶を突き出してくる。
「やっぱ酒飲むと面倒になるなお前!」
「何を言ってるのかさっぱりですぞ!それ、私の舞でも…。」
「いらねーよ!」
パラモンドに肩を掴まれ、俺は酒の席に戻される。
ユーバとアカマルはお茶を飲みながらお互い歓談している。
ドルトバは皆の前で一気飲みして今草むらでえづいている。
テルルが一人で寂しそうにしてると、魔導隊の皆がそれを見て談笑に誘う。
ロイレイは周囲を警戒しながら静かに乾杯をする。
そして兵たちは皆笑顔でこの夜を満喫している。
この楽しい宴はもうしばらく続くのであった。
准士官下士官は今後変更するかもしれません