二章 第三十八話 クロノオシネマ連合軍vsデトミノ4
俺は三百人ほどのデトミノ軍精鋭の前で、刀を構えていた。
デトミノ軍精鋭は、それぞれが得意な武器を持っているようなので、武器がバラバラだ。
剣もいて、槍もいて、鞭もいて、モーニングスターもいて、素手のやつもいる。
そして、おそらくこの精鋭たちの頭である一人の男が前へ進み出て、
「貴様が軍師ヒムラか…?」
かなり疑われているな。
まあ見た目子供だしな。
「ああ、そうだ。」
「…?軍師サンさあ、もしやして魔人じゃないか?」
俺の返答に、思わぬ答えが返ってくる。
なんだって?俺が魔人?
だが、その男はすぐに興味を失ったのか、耳障りな声で笑うと、
「ヒャハハ!まあいいや。軍師サンの噂は聞いてるぜ。どうやらオレ達が可愛がってくれてるシネマを倒したみてーじゃん。」
まあ確かに可愛がってあげていると言われても仕方ないな。
今までデトミノとシネマは何度か衝突してきたが、その全ての戦争でデトミノは本気を出していない。
デトミノの所有する軍事力の一割ほどしか使っていないのだろう。
そして今回の戦争では、ようやく二割ほどと言ったところか。
デトミノの軍というのはどうやら四つの部隊に分かれているらしい。
その中の最弱の部隊がシネマに戦争をふっかけているのだとか。
そして、その状況を試みるに、
「お前たちは今戦っているデトミノ軍とは違う部隊の軍だな?」
「おお、わかるか?」
「ああ、連携が全くなされてなかった。」
アカマルから聞いた話だと、どうやらデトミノ精鋭軍が山から現れたのは、戦争開始からそれなりに時間がたった頃だという。
同じ部隊であるというのならばそれこそクロノオ軍が側面攻撃をする前に出てきてしまえばよかったのだ。
それをしないということは、おそらく命令系統がデトミノ軍一万とデトミノ軍精鋭で違うということだ。
頭であろう男はその答えに満足したように顔を歪めると、
「そう、大当たりさ!オレは偉大なるエルゲン様の忠実なる僕、中央軍最高戦士のゾムアス様だぜえーー!」
そう名乗りをあげたのだった。
「会話で時間を稼いでいるのかわからんが、俺の剣で引きちぎってやるよ。」
「中央軍。ではシネマに攻撃をしているのは東軍といったところか。」
「おおバレちゃった?まあ今から死んでもらうお前には知っても意味ないことだろうぜ。」
なるほど。
デトミノに関して情報収集ができた。
あとは、しっかり足止めの役割を果たすだけだろう。
俺は剣を構えると、
「ではいくぞ!」
『神速の加護』を使用した。
戦争は終盤を迎えつつある。
ロイとレイによって未だ酔いの治らないフラフラのデトミノ兵は、側面攻撃によって次々と撃破される。
後ろに引こうにも塹壕のせいでうまく移動できないのだ。
東軍最高戦士であり、今回の戦の総大将であるアマンチアはクロノオ軍を睨むと、
「次は必ず勝つ。」
そういって、撤退の指示を出したのだった。
騎馬隊と騎馬隊の戦いも終わりを迎えそうであった。
もともとクロノオもデトミノも騎馬隊を歩兵隊から遠ざけようとしていたため、自然と戦場は少し離れた場所で起こっていた。
互いが追いかけっこを繰り返して何時間もすぎた頃。
逃げ側だったクロノオ軍が初めてデトミノ軍と向き合った。
クロノオの騎馬隊三百。そしてデトミノの騎馬隊千。
「いいハンデだぜ!」
ドルトバは騎馬隊の先頭を掛けながらそう呟く。
相手の騎馬隊目掛けて突進していき、
「う、らららああああ!」
大きな肉包丁を振り回し始めた。
夕に1メートルを超える肉包丁を器用に扱うドルトバ。
その動きは大胆なようで一切の隙がない。
誰もドルトバに近づけないでいた。
相手が戸惑っている間に、
「包囲!!」
「了解です兄貴!」
「兄貴俺たちに任せろ!」
頼もしい部下たちが歩兵隊の半分を率いて二方向に広がっていく。
未だ固まっている相手を囲うような形で大きな器状の陣形が整った。
ク デトミノ軍 ク
ク ク
ククククククククク
※ク、はクロノオ騎馬隊
あまりにも早い陣形変化に、デトミノ軍はついていけずにいた。
全てこれは日々の練習の成果の賜物。
ヒムラの『神速の加護』からインスピレーションを受けた、ドルトバの作戦。
名付けて、神速包囲網。
一瞬で相手を囲い、すぐに決着をつける。
クロノオの騎馬隊は皆弓を構えると、
「打てーーーー!!!!」
ドルトバの力強い号令に合わせて、一斉に矢が放たれる。
相手も矢をはなち応戦する。
それなりに勝負は拮抗しているように見えるが、次の作戦でガラッと形勢が変わる。
「突撃!!」
陣形の中央に控えていたドルトバたちは、矢を放つのをやめ、デトミノ軍に突撃してくる。
剣、槍など、様々な武器を持った兵士たちがいるが、一番多い武器はドルトバに憧れた兵士が使っている巨大な肉包丁だった。
それらを振り回しながらの突撃。
そして急な突撃に対応し切れてないデトミノ軍。
勝った、とドルトバが確信した瞬間だった。
デトミノ軍は、なお降り続く矢と突撃してくる騎馬隊の対応に手間取っている間にはや一割ほどの兵が倒された。
ちなみにクロノオ軍の矢は、クロノオ騎馬隊には一切当たってない。
それも日頃の訓練のおかげだった。
ドルトバはチラッと主戦場の方を見ると、
「あっちも片付いてきてるな!こちらも終わらせるぜ!!集合!!」
神速包囲網の最後の作戦。
今まで周りで矢を放っていた騎馬たちが、矢を放ちながら中央に接近していく。
すると、デトミノ騎馬隊も体制を立て直したのか、
「突撃だ!!」
反撃をしにきた。
普通ならドルトバたちの攻撃に対処し切れずに終わるのだが、さすがは悪魔の国といったところか。
数で負けているこちらを相手取るには突撃するのが一番良いだろう。
一番嫌なやり方を取ってくるな、とドルトバは顔を歪める。
だが、対策はしてあるのだ。
他人に頼るのは致し方ないが、歩兵の戦争も片付いているようだし、大丈夫だ。
ドルトバは体に意識を集中させると、相手に今の状態を送る。
すると、相手はそれに了承の意で答えた。
そして、
「電導宝玉!」
遠くから幼い声が聞こえたかと思うと、すぐさまデトミノ騎馬隊に雷が落ちてくる。
そしてその雷はデトミノ騎馬隊を蹂躙し始めた。
(助かったぜ!)
俺は感謝の意を伝えると、相手もそれに答えてくれる。
そう、ドルトバとユーバが獲得したスキル「思考共有」だった。
朧気ながら相手の考えていることがわかるという、連携に必須なスキルだった。
先ほどのはユーバがドルトバの危険信号を受け取ったので、雷を放ってくれたのだ。
ユーバに頼るという奥の手。
他人の力を借りるのは良くないとはドルトバも思うが、勝利のためには策略を立てるというのが、意外にもドルトバの本性だった。
雷の影響を受け弱体化した相手。
赤子の手をひねるように倒すことができるだろう。
「攻撃!!!!」
ドルトバが叫ぶと、クロノオ騎馬隊は一斉に攻撃を開始した。
「ギャハハ!やるじゃねーか軍師サン!」
「お褒めに預かり光栄です、と。」
ゾムアスの攻撃を加護でかわす。
正直慣れればいくらでもよけれる相手だ。
だが、こちらの攻撃も当たらない。
初めの方はかなり攻撃を喰らっていたが、次第に順応し始めたのだ。
最高戦士という肩書はやはり本物みたいだ。
ちなみに他の精鋭たちに関しては全員殴って行動不能にさせた。
剣を用いなかったのは、まだその覚悟が決まってなかったからだ。
まだ俺は人を殺すことはできない。
知人が殺されるという辛さを知っているが故の、間抜けな考えだった。
だが、今はまだそれでいい。
「はあ。どうやら東軍も撤退したみたいじゃねーか。アマンチアはホント頭だけだな。まあいいさ。オレもそろそろここを抜けないとまずいな。」
「ああ、さっさと撤退してくれ。仕事が増える。」
「ギャハハ!俺との戦闘を仕事とか言いやがった奴は初めてだぜ!」
愉快そうにゾムアスは笑うと、
「ほな、また会おうぜ。軍師サン。」
俺と距離をとり、倒れているデトミノ軍精鋭を囲うように紫色の魔法陣を生成し始めた。
そして、こちらに向けてニヤッと笑うと、消えた。
消えたのだった。
「テレポートみたいな何かか?」
とりあえずサブカル知識を引っ張り出してきたが、どうもふに落ちない。
あんな魔法あったか?