二章 第三十七話 クロノオシネマ連合軍vsデトミノ3
ヒムラとロイが接触したのとほぼ同時刻。
突如山から降りてきた300ほどの兵士。
おそらくデトミノ軍だろう。
))))))))))
))))))))))))
))))))))))))))
山 )))))))))))))))
)))))))))))))) |デトミノ軍|←|クロノオ軍|
))|デトミノ兵300|→|シネマ軍 |
))))))))))
そして、シネマ軍の側面を蹂躙し始める。
「まずい!いったんシネマ軍を後方に引いて…。」
「電導宝玉!!」
アカマルが判断に迷っていると、いち早く気がついたユーバが技をデトミノ兵に雷を打ち込む。
ユーバの必殺技と言っても過言ではない、強力な一発だ。
ユーバの加護によって雷を生み出し、それを自由自在に動かし撃ち落とす。
今のは広範囲に雷を打ち落としたのだ。
攻撃を喰らったデトミノ兵が負傷し、少しの間行動不能になる。
今のは良い判断だった。
あのままシネマ兵を攻撃されていたら一気に形成が逆転していただろう。
山から降りてきて高低差優位もある上に、個人の能力も高い。
確実にシネマ兵は蹂躙されていた。
だが安心したのも束の間、しばらくするとデトミノ兵が立ち上がり、こちらに攻め出してくる。
ユーバも雷の攻撃で応戦するが、兵たちそれぞれの技量も高く、足止めにしかならない。
このままシネマ兵の元までたどり着いたらまずいぞ。
アカマルが迷うのも一瞬だった。
ユーバの雷を耐え切った奴らだ。
今までいた一万のデトミノ兵よりも強い、いわば精鋭なのだろう。
そんな奴らを放置できるわけがない。
すぐさま余っている戦力を持って迎え撃つべきだ。
「今すぐ歩兵隊の半分はユーバの元に行き応戦しろ!クロノオ魔導隊とシネマの魔法使いもテルルの指示に従って分散!」
「「「はい!!」」」
「パラモンド殿は戦闘継続。俺たち歩兵隊の半分は今まで通り攻めるぞ!!」
「「「ハッ!!」」」
迅速な指示を出し、態勢を整えるアカマル。
かなり手一杯な状況になってきた。
今のところ勝負は拮抗している。
シネマ兵たちはなんとかデトミノ兵の足止めに成功しているが、長時間続けば破られてしまう。
突如現れたデトミノ精鋭も、ユーバと歩兵隊と魔導隊が協力してなんとか足止めできる程度。
勝ち筋が一気に見えなくなってしまった。
仮にこちらが側面から攻撃したとしても、デトミノ兵は精鋭たちと協力してシネマ兵を食い破ろうとするだろう。
これはまずい。
そして、
「ーー!!」
シネマ兵の一人が倒され、そこにデトミノ兵が這い上がってくる。
高低差というアドバンテージをなくしたシネマ兵がデトミノ兵に勝てるわけもなく、どんどん殺されていく。
これはもう負けを認めるしかない。
アカマルは覚悟を決めて、命令を出そうと息を吸い、
「撤た…」
「何逃げようとしてんだよ。」
———背後から声が聞こえた。
幼い少年の声だが、軍の象徴と言ってもいい存在の声だった。
一体その声に何度クロノオが救われたことか。
そう、
「遅くなってすまないな。」
『軍師』ヒムラとおぶられているロイ、レイが立っていた。
ロイをおぶって神速でクロノオに帰った時、軍事棟はもの抜け殻だった。
だが、入口にはレイが立っていた。
「まずい。もう戦争は始まっているのか!?」
「ええおそらくは。」
「今すぐ向かうぞ。レイ、場所は?」
「場所はシネマとデトミノの国境です。」
俺の質問にレイが答える。
そう、レイにはどうやらクロノオに到着した俺に状況を知らせる役目だったらしい。
「よし、今すぐ向かうぞ!」
「ええ、向かうのはいいのですが、もしかして私も背中に乗るのですか?」
「当たり前だろ。」
「…わかりました。」
「レイ。諦めなさい。私はもうなれたわ。」
なぜか不満げなレイと、もう俺の背中になれたロイを連れて戦場まで走ること15分。
ついた戦場は酷い有様だった。
こりゃやばい、こちらが負けそうだ。
特に山の方でユーバたちが応戦している集団は、見た感じCほどの実力者だ。
それなりに鍛錬を積み、一端の戦闘員として数えられるレベルの兵が300人。
さすが悪魔の国だ。
ちなみに、俺は魔人たちを見ても何も感じない。
レイはどうやら得体の知れない感情が湧いてくるらしいが、そんなことはないようだ。
まあこれも俺が人間だからなのかな。
とりあえず焦った顔をしているアカマルに声をかける。
「ヒムラ様!!」
俺を見るとアカマルは泣きついてくるようにこちらを見る。
こんな奴が将軍で大丈夫だったのだろうか。
だが、今までの状況の推移を手短にアカマルから聞くと、この状況がどれほどヤバいかがわかった。
うまく成功してもかなり厳しい作戦に、さらなる横槍。
だが、これは作戦の立て方に問題がある。
「あのな、誰が兵は山を超えてこないなんて言ったんだよ。普通に相手の裏を掻くならよく使われる戦法だぞ。」
「…すみません。」
「それに一杯一杯の作戦はやめた方がいい。」
「…すみません。」
とりあえず一通りアカマルを叱っておくと、俺はロイレイを見て、
「ロイレイは遊撃だ。シネマ兵と相対しているデトミノ兵を影から無力化してくれ。」
「ハッ!」
「アカマルはデトミノの精鋭に攻撃している奴らを全て側面攻撃に当てろ。」
「わかりました。ですがデトミノの精鋭は…。」
不安そうな顔をするアカマルにサムズアップすると、
「俺が担当する。」
シネマ兵は非常にまずい状態にあった。
塹壕から這い上がってきたデトミノ兵にどんどん押されている。
今も隣の兵士が刺された。
次は自分だ。
そう思って無我夢中に槍を振り回して、最後の抵抗をしようと…。
「目を瞑って。」
女性の声が聞こえた。
いや、少女か?
だが、歳の割には大人びた少女の声が鼓膜に届いた。
いや、今は従おう。
兵は目を閉じた。
そしてそのまま1分間ほど目を閉じている。
その間に敵は攻撃してこなかった。
何が起こっているのだろうか。
そして目を開ける。
そこには、異様な光景が広がっていた。
デトミノ兵のほとんどが塹壕の下に転げ落ちていた。
そして中には嘔吐しているものもいる。
そして殆どが戦闘不能となっていた。
「これは…、!」
そして、目の前に二人の少女が現れる。
二人とも藍色の髪を長く伸ばしていた。
一方は髪を結んでいて、もう一方は無造作に髪を下ろしている。
そして結んだ髪の方が言った。
「姉様。どうやら「空間変形」がなんらかの加護に進化したようです。」
それに髪を下ろした方が答える。
「そう、どうやらそれがこの酷いありさまを作ったようね。見ただけで吐き気がするわ。」
そう会話をした二人は次の瞬間消えた。
いや、影に飲み込まれたと言った方がいいのか。
「…助かったのか?」
あまりに一瞬の出来事に、兵たちは呆然としていた。
———こうしてロイレイはデトミノ軍の無力化を行なっていった。
アカマルの指示で、デトミノ精鋭と戦っていたクロノオ軍の兵たちが引いていく。
もしかして、撤退しようとしているのだろうか。
精鋭軍の頭はそう考えると、一気に追撃命令を出そうとして、
「貴様らは、シネマ軍への通行許可証をお持ちか?」
「…!誰だ?」
こちらを馬鹿にしたような声が聞こえた。
頭はすぐさまその声に問いかける。
ツカツカツカ。
こちらに歩いてきた少年は…。
「『軍師』ヒムラだ。」
刀を持った少年が、立ちはだかる。