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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第三十四話 戦争の知らせ

 月が出ていた。

 大きさは地球と同じくらい、黄色い色も地球のままだ。

 何一つおかしなことはない。

 でもなぜか、地球のものと比べてとてつもなく綺麗なものに感じた。

 都市の光に邪魔されてないからか、大気汚染が深刻でないからか、それとも月下のヨルデモンドの街が綺麗だからか。


 俺はヨルデモンド城のある一室のベランダで夜風を浴びていた。

 頭を冷やすついでに今までのことを振り返る。


 ここ数日、俺はヨルデモンドに滞在してこの国の技術力や軍事力などを視察したり、交渉したりしていた。

 

 今回のヨルデモンド訪問の成果は三つ。


 一つは水道に関しての有用な情報と魔紙の輸入の目処が立ったことだ。

 なぜ水道に俺がこだわるのかというと、公衆衛生にそれがつながるからだ。

 今までは全て井戸の水、つまり地下水を生活用水として使ってきた。

 だが、それでは不潔もいいところだ。

 毒が混ざっているかもしれないし、ウィルスがこの世界にあるかどうかわからないが、病気の発生源ともなり得る。

 逆にそれを利用して、敵国の地下水を汚染し疫病を発生させることもできる。


 それを防ぐための水道造りの第一歩がハンデルのお陰で踏み出せた。


 二つ目はもちろん天使の脅威についての情報。

 クロノオを強くしていこうと改めて感じた。

 歩兵隊に関しては今も訓練を続けている。

 ユーバの報告では個々の戦力はD、徴兵制の国の兵士よりかは強いほどになっている。

 これから訓練を続けて行ったらCくらいにはなるんじゃないか?

 ヨルデモンドの「白竜の剣」には遠く及ばないが、それでもかなり強化が見込める。

 騎馬隊に関しては、人数が徐々に増えて行っている。

 乗りこなせれば単体でDほどの戦力を期待できる隊だ。

 人数を増やすのが先決である。

 魔導隊は今のところ進歩はない。

 毎日訓練をしているようだが、そう簡単に魔法というものは扱えない。

 だが、長期的な目で見ると進歩し始めているのだろう。

 テルルの頑張りにも期待したいところだ。


 まだ話に聞く天使たちには到底対抗できないが、軍事力が上がっているのは確かだ。


 そして、三つ目は何より俺自身の未熟さの自覚だ。

 度々ザガルに指摘されるほどに、俺の「上に立つものとしての器」は未熟だと言える。

 強さに関してもザガルに打ちのめされているようじゃまだまだだ。

 蹴りを一つ入れられたくらいで蹲って戦闘不能になるなど馬鹿げている。

 おそらくは高い身体能力に甘えていたツケだろう。

 自分から体を鍛えようとする意思をなくしていた。

 それに『神速の加護(ゴットアクセル)』もまだ使いこなせていない。

 あの速さについていけてないのだ。

 さらに訓練する必要があるだろう。


 はあ、と俺はため息をつく。

 やらなければならないこと、やるべきことが多すぎる。

 おそらくファントムやエレメントあたりがクロノオに何かしてくるだろう。

 クロノオの塩の製造方法をファントムは知りたがっていたようだし。


 俺はまた夜空に浮かぶ月を見上げて、そろそろ寝ようかと部屋に戻ろうとした時、


「報告がありますヒムラ様。」


「…!あ、ロイか。ビックリした。」


 いきなり俺の影から現れるロイ。

 もっと穏やかに呼びかけて欲しいものだと言いたいが、ロイの様子が何か変だ。

 緊急の用事を伝えに来たという顔だ。

 何か起きたのだろうか。


「どうしたロイ。」


「実は、シネマ国から救援要請が。」


「救援要請?なんでだ?」


「つい先日、悪魔の国デトミノから宣戦布告があった模様です。おそらくはその救援要請かと。」


 なんと、戦争だった。




「なんだ。貴様何用だ?」


「夜中に訪問することをお許しください。グランベル様。」


 俺は早急にグランベルの部屋に行き、ことの顚末を教える。

 グランベルはそれを聴くと少し考えて、


「よかろうヒムラ。クロノオに出撃許可を出す。勝ってこい!」


「ハッ。」


 俺はそう返事をすると、部屋を出る。

 さて、今は真夜中だがクロノオに戻らないといけない。

 メカルとユソリナを起こし、今からクロノオに行く旨を伝える。


「ではこのメカル。同行いたしますぞ。」


「私も行きます!」


「いや、二人はヨルデモンドとの交易交渉をしてもらう。ここで待っていてくれ。」


「ハッ!」


 二人は行きたそうにしていたが、正直ヨルデモンドに残ってもらい、ザガルにことの顚末を教える役目を引き受けてもらいたい。

 何せ俺は今すぐにここを出るのだから。


「では、頼んだぞ。」


「「ハッ!」」


 俺は二人に見送られながら城をでる。

 『神速の加護(ゴットアクセル)』を使用し、一時間ほどでクロノオの王都へとついた。

 だが、


 クロノオの軍部はもの抜け殻だった。




 時は四日前に遡る。


 クロノオ軍部の会議室には、アカマル、ユーバ、テルル、ドルトバの四人がいた。

 皆一様に焦った顔をしている。

 

「…どうする?」


 テルルが皆に問うが、返事は返ってこない。

 その沈黙を破るかのように、ロイが会議室に現れて、


「ヒムラ様に報告しに行くわ。ただおそらく四日ほどはかかるでしょう。」


「四日後…。シネマとデトミノの戦争開始日はあと三日だというのに…。」


 アカマルはロイの報告を聞いて項垂れる。


 そう、皆は軍の引っ張り方を知らないのだ。

 救援要請が来たときにどうすれば良いか。

 軍をどれだけ率いて駆けつければ良いか。

 全て今までヒムラがやっていたことだ。

 

 だが、今回は違う。

 ヒムラはヨルデモンドに滞在していて、こちらに戻ってくる前に戦争は始まってしまう。

 だが、決断しないといけない。


 皆の様子を見かねたユーバが、


「じゃあ、とりあえず出撃できるだけの志願兵を集めて、すぐに出発しよー。」


 と、手を叩いて言う。

 ユーバの笑みは一層深まっているが、これはユーバが珍しく緊張している証拠だ。

 そして、半年間一緒に過ごしてきた皆は、その表情の意味を間違えない。


「では、代理の軍師として俺が皆を先導する。今から志願兵を全て集めてシネマとデトミノの国境あたりに向かうぞ!」


「わかりました。」

「オッケー。」

「やるっきゃねーぜ!」

 皆がとりあえずは覚悟を決めたが、心の中の不安は拭えなかった。

 



「報告します!敵国の軍勢はおよそ1万!」


「なんだって!?」


 偵察に行かせた家臣の一人が、シネマ軍本陣に駆け込んで放った言葉。

 それを聞いたパラモンドは、思わず叫び返していた。


(こんなに大掛かりで攻められる事は初めてだ。)


 悪魔の国デトミノに接しているシネマ国は、度々デトミノから襲撃を受ける。

 大抵は3000ほどの兵をシネマに向かわせて、程よくシネマに被害を出したら帰っていくという嫌がらせだが。

 これも全て、本能に植え付けられた「天人憎し」から行われる事なのだ。


 だが、3000ほどの兵ならばシネマは跳ね返すことができていた。

 もともと一万五千ほどの軍隊を所持していたシネマは、個人の兵の能力が低くとも、数でデトミノを押し返せていた。

 デトミノは各兵の強さがDと、それなりに強いため、シネマがデトミノとやり合うには数の優位は絶対条件。

 

 だが、前回のクロノオとの戦でシネマは兵力を七千ほど削ぎ落とされていた。

 なんとか国民に徴兵をかけ、集まった兵たちがおよそ1万人。

 だが、デトミノ軍も同じ1万人。


 勝てるわけがなかった。


「だが、」


 パラモンドはそこで、一つの道筋を見つけた。

 それは、クロノオへの救助要請だ。

 本来クロノオへの救助要請の是非は明言されていない。

 だが、半従属国家と化したシネマの要請には、クロノオも応ずるだろう。

 それにすがるべくクロノオに手紙を出したら、今は軍師ヒムラは国内にいないとのこと。

 確か友好の式で見かけたのでまだヨルデモンドに滞在しているのだろう。

 そして先程将軍のアカマルという人物が軍を率いて救助しに行くと連絡がきた。


 その連絡をしにきた人物が、紫色の髪を無造作に垂らした少女。

 つまりシネマ軍3000を無力化して見せた少女なもんで、その姿をみたパラモンドはつい平伏しそうになったのはご愛嬌だ。


「光明が見えたのだな。」


 カスタル王が不安そうにこちらに何度も聞いてくる。

 正直しつこいが、不安がるのもわかる。


「ええ、シネマに勝利を。」


 パラモンドはそう返す。

 そして心の中でも覚悟を決めた。


(この戦を凌いで見せようではないか!)


 悪魔国家デトミノvsシネマ・クロノオ連合軍

 今、始まる。

 

 

 

 


二章の二つ目の戦争です。

多分4話くらいかかります。

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