二章 第二十八話 決闘の準備
今日は切りよくするために短めです。
「えっと、決闘とは?」
「なんだ?聞いていないのか?催しの一つで、我と貴様が決闘することになった。」
「…マジすか。」
「…マジだ。」
俺の呟きをザガルは素直に返すと、
「この後決闘の時間だな。確か影が王城の方角を向く時刻だな。」
「えっと、影とは?」
「知らぬか。この王城の広場にある巨大な円柱の影。その影が差す方角で我らは動いているのだ。」
何やら時間の概念があるらしい。
この世界、少なくともクロノオには時間の概念がない。
日、月、年はあるのだが、時間、分、秒の概念は見つからなかった。
だが、このヨルデモンドにはあるらしい。
さすが技術大国。
「なるほど。その発想に感服いたしました。」
俺はザガルを褒めておく。
クロノオにも取り入れようかと考えたのは秘密だ。
「では、影が王城を差す頃に。」
「ああ、コロッセオに集合だ。」
コロッセオ。
イタリアみたいな円柱状のものなのだろうか。
ちなみにクロノオ軍部にある闘技場はその名前に反して体育館のような作りをしていて、大衆娯楽のための施設ではないのだ。
それを考えると、ヨルデモンドのコロッセオはしっかりと観客席のある立派な建物なのだろう。
そこでザガルと決闘か。
なんだか、緊張してきた。
「では、戦場で会おう!」
ザガルはそういうと、立ち去っていく。
はあ、全くなんでこんなややこしそうなイベントに参加しなくちゃならないのだろうか。
だが、ザガルもおそらく年は40前後。
国王とはいえ、力が衰えてきているのは確実だ。
必ず勝ってやろう。
だが、俺はそのとき舐めていたのだ。
ザガルの本当の恐ろしさを。
俺はコロッセオで戦闘服に着替えていた。
特注の鎧を身にまとい、セキじいから授けられた剣を腰に携えていく。
それを横で見守るユソリナとメカルは、
「はあ、それにしてもなんでヨルデモンドの国王様と決闘をしてしまったのでしょう。」
「そうですぞヒムラ様。」
はいはい、俺が決闘を受けたのが悪かったって。
二人にも決闘のことは伝えられてないらしい。
ちなみにグランベルとマーチは知っていたらしく、今は観客席で高みの見物だ。
「ザガル様は最盛期ではSに届くほどの脅威だと言われてる猛者ですぞ。」
メカルのその発言に、
「…は?Sって言った?」
「言いましたぞ。」
「いや、無理じゃん。」
なぜなら、Sというのは基本的に化け物扱いされる戦闘力だからだ。
いくら全盛期からは力が衰退しているとはいえ、さすがに強すぎだ。
なんでそのことをもっと早く教えてくれなかったのさ!?
「ザガル様は今では賢王と呼ばれていますが、若かったことは牙王なんて呼ばれるほどでした。」
「何個二つ名を持つ気だよ。」
ユソリナの指摘にゲンナリとする。
「マーチさんにも勝てるビジョンが思い浮かばないのに…。」
ちなみにマーチはB相当の実力者だ。
いつも加護の練習の時にお世話になっているが、俺の全力衝突(加護あり)を受け止めることができるほどの猛者だ。
刀を使えば勝機はあるかもしれないが、それでも厄介な相手だ。
そして、今回戦うのはSレベルの敵。
弱体化しててもAは必ずあるだろう。
「だが、」
強さはランクでは測れないこともある。
例えばレイはC相当だが、奇策や搦手などを得意としている。
それを有効に使えばB相当の実力者にも引けをとるまい。
つまりは、相手の弱点を見て自分の利点を活かす。
軍を動かす時と同じだ。
そう考えると少し気が軽くなった。
「じゃあ、言ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
「どうそお勝ちください。」
ユソリナとメカルが俺を送り出してくれる。
足を踏み出し、戦場へ続く扉を開ける。
そしてそこには、
大歓声
大半がヨルデモンドの国民だろう。
グランベルとマーチの姿も見える。
他国の人は呼ばれていないようで安心した。
脇にはヨルデモンドの「白竜の剣」の中の魔法使いがいた。
怪我したときに即座に回復できるようにだろう。
そして正面には、
「さあ、ヒムラ。刀を交えようぞ!」
身の丈ほどもある刀を担ぐザガルが、純白の鎧を身につけてただずんでいた。
身の丈ほどの刀。
おそらくそれを振り下ろして戦うのだろう。
パワータイプの戦士のようだ。
俺の武器は、セキじいの刀一本である。
日本刀のような形をしていて、切れ味は抜群にいいのだが、威力は足りないだろう。
だが、ザガルより小回りが効くのは確かだ。
そこをうまくついて行こう。
コロッセオは先ほどまでの歓声はどこえやら、静寂に包まれていた。
皆が、今か今かと開戦の時を待つ。
ザガルと俺は正面から見つめ合う。
「では、最初に名乗る。」
ザガルはそういうと、剣を空に掲げ、
「“賢王”……いや、今はこう名乗ろうではないか!
“牙王”ザガル・クリスタル!」
と宣言する。
すると、会場は大歓声に包まれる。
なるほど。
確かに剣を空に突き立てるザガルは、格好良く見えた。
それにしても、牙王の方を宣言したと言うことは、全盛期並みに本気を出すと言うことを示している。
かなりの脅威だ。
俺も宣言する。
刀を抜き、それを2、3回振ると、
「“軍師”ヒムラ!」
と名乗った。
歓声。
ザガルの時よりかは小さいが、それでも熱狂しているのがわかる。
中央に立つのは、審判であるクラリスである。
クラリスは名乗り上げを確認すると、二人から離れていく。
クラリスが十分に離れると、魔法使いが周りに被害が出ないように様々な結界を張る。
これで、準備が完了した。
クラリスは、旗を上げると、大声で言う。
「始め!!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
ちなみにザガルは全盛期の頃からほぼ衰えていません。