二章 第二十一話 発明atセカン村
ちなみに今日50話達成です。
先は長いよ。
「風車…」
「水車…」
クオーツとフーラはそろって首を傾げる。
どうやら知らない、つまりこの世界にはないらしい。
中世ヨーロッパの時代にはあった気がするが、食に関して著しく遅れているこの世界では、ないのも納得できる。
「水車や風車っていうのはな、様々な動力を生み出すために使われていたんだけど、その動力を使って小麦を製粉できるってわけ。」
と手短に説明してやる。
だが、クオーツとフーラはよくわからなかったようで、そろって首を傾げている。
これは実物を作った方が早いな。
俺はクオーツに聞く。
「ここら辺に川とかないか?できればゆっくり流れる小川みたいなところ。」
するとクオーツが頷く。
どうやらあるらしい。
ならば、話は早い。
「今から水車を作る。」
というと、クオーツとフーラは
「「今ですか!?」」
と驚く。
まあ確かに作るのは結構大変だし、水車や風車を知らない彼らも、大変そうだということは伝わっているだろう。
だが、俺の身体能力は日に日に上昇している。
木一本くらいなら軽々と持ち上げられる。
さて、水車でも作りますか。
地球でも水車や風車は様々な用途に使われているが、その主な用途の一つとして小麦を粉に引いたり、大麦や稲を脱穀するために使われる。
プロペラの回転と石臼の回転を組み合わせて、自動で石臼が回転するようになっている。
できた小麦や麦、稲は下に溜まっていき、定期的に回収すれば良い。
歴史教師とは何も戦術だけを教えるものではない。
不本意だがそのたの世界の人々の暮らしや政治なども頭に入ってないといけないのだ。
まあ、そのような部分はさらっと教えて、戦争について熱く語るのがもともとの俺の授業スタイルだったが。
なので、水車や風車などの仕組みも理解はできる。
後はここで実現させるだけだ。
この世界では小麦はもちろん、酒もあるので大麦もあるのだろう。
この二つを脱穀したし製粉したりするのに水車や風車はピッタリだ。
これを広めることでおそらく農業効率は上がり、国力がさらに増す。
「よし、できた。」
水車を作ると宣言して早一時間。
簡易版水車ができた。
「おお!」
「これは初めて見ますね。」
クオーツとフーラも驚いている。
何せ初めてみるし、驚くのも仕方がない。
俺の作った簡易水車は直径1メートルのほどの小型版だ。
セカン村の近くにある林の木を、俺の護身用ナイフで切ったのだ。
加護を使えばどんなに木を切るのに不向きなナイフでもスパッと木を切れるのだ。
そのあとは組み立てるのだが、生憎日曜大工などに興味のない俺は、適当に木と木を組み合わせることによって作った。
我ながら良い出来だと思う。
「これをどのようにご活用なさるのですか?」
フーラが聞いてくる。
先ほどから水車に興味津々なフーラ。
「えっと、水車を石臼と連動させるから…」
俺は村に置いてある石臼と水車を、あらかじめ作っておいた歯車のようなものでつなげる。
歯車がうまく噛み合うように木を切るのが一番苦労したが、まあそれなりにいい出来になった。
「さて、完成かな?」
おお!とクオーツとフーラが驚きの声を上げる。
俺も自分で感嘆の声を上げてしまいそうだ。
出来上がった水車は、素人のものにしては上出来で、達成感が俺の中でこみ上げてくる。
「そしてこれを川に浸ければ…」
俺は水車を川に浮かべる。
うまく水車が回転するように高さを調節してやると、水車が回転を始める。
水車の回転はそのまま歯車に伝わり、その歯車と石臼が組み合わさって石臼が製粉し始める。
「す、す、す、」
何やらクオーツが感激のあまり言葉を失っている。
確かに今まで手動でしなければいけなかった製粉作業が、目の前で自動的に成し遂げられているのだから。
「素晴らしい!ヒムラ様がここまで天性の才能をお持ちとは!このクオーツ、感服いたしましたぞ。」
と言って、手を掴まれブンブンと振られる。
ここまで感謝されるとは。
やりがいがあるってもんだ。
「なるほど。塩や砂糖なる珍味と呼ばれるものを作ったのも納得ですわ。」
とフーラも驚いている。
というか、巷では珍味と呼ばれているのか。
そこそこ美味しいとは思うが。
俺はクオーツに尋ねる。
「この水車、たくさん作ったら売れそうか?」
「もちろんですぞ!たくさんの村が欲しがるでしょう!我らもこれが十個ほど欲しいところですぞ!」
「10個か。」
さすがに今から10個作るのはきついかもしれない。
何せ一個作りだけでも一時間かかったのだ。
10個作っていると日が暮れてしまう。
だが、今のクオーツ、セカン村の村長の立場の意見が聞けたのは貴重だ。
つまりは、需要があると消費者代表に太鼓判を押されたのだ。
大量生産の目処が立つだろう。
俺は一仕事終えた感慨に浸ったのだった。
「いやはや、それにしても素晴らしいですなヒムラ様は。あんなものを瞬時に作り上げるだなんて。」
先ほどから俺をベタ褒めしているのはクオーツだ。
正直、前世の知識を流用しているだけなので、罪悪感はあるにはあるが。
まあそこは割り切ろう。
この国が俺の発想で発展してくれれば何の問題もないのだ。
とりあえず目先の目標は、あの浮遊島に行くことだ。
人間に会ってみたいという好奇心と、この世界の謎を追求したいという探究心ゆえの考えだが、まあいい。
そして浮遊島に行くには、天使にならなければならない。
天使になるための条件は強くなることとザガルは言ったが、正直どんな強さが求められるのかも曖昧だ。
しかし、クロノオを強くすることに意味がないとは思えない。
とりあえず自分や周辺のものを強化しておくのは大事だろう。
それに俺は軍師という役どころだが、食事貿易生産のトップも担っている。
こうやって人々が暮らしやすくなるよう努めるのも、当たり前に仕事なのだ。
感謝されるのも悪い気はしないしな。
「まさか、最近軍部が作ったという塩や砂糖も、ヒムラ様が!?」
「ああ、俺の案だけど。」
「す・ば・ら・しーー!」
どうもクオーツが興奮してしまって、テンションがおかしくなっている。
先ほどまでは体調はそこまで芳しくなさそうだったのに、急に顔を上気させ、こちらに顔を近づけてくる。
ちなみに塩や砂糖は軍部が作ったというのが、今広まっている一般的な見解であり、俺が作ったとは明言されてないのだ。
知ってるとしたら、軍部の皆と、王に使える家臣、あとはクロノオを探っている国の中枢くらいなものだろう。
「クオーツ様。そんなにお身体を動かされてはいけません。」
そう、クオーツをなだめるフーラ。
ふと、俺は気になって尋ねてみた。
「フーラは、いつからこの村にいるんだ。」
「そうですね。魔導隊を30代になったところでやめて、そこから10年ほどこの村でお世話になっています。」
なるほどな。
ってことは、クオーツが延命治療されたのは10年前、クオーツが80歳の時だ。
それまで延命治療なしで生きていたのか!?
それはすごいな。
ちなみに長寿の秘訣を教えてもらうと、
「そうですな。毎日小麦おかゆやふしゃふしゃ焼きを食べることじゃな。あとは水菜やほうれん草のおひたしや…」
「はい、無理ですね。」
あんなまずいものが健康的なのか!?
意外と体にはいいのかもしれない。
ちなみに水菜やほうれん草のおひたしというのは、前世のものではなく、野菜をそのまま水につけたものである。
美味しいはずがない。
この国の食事の事情が思いやられるという一幕もあり、しばらくフーラとクオーツと話して、俺は村を出た。
「「またいつかーーー!!」」
そう言って俺を送ってくれるフーラとクオーツ。
最後まで気持ちいい村だったな。
俺は手を振ると、セカン村を後にしたのだった。