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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第十八話 各国の陰謀

今回主人公不在です。


 クロノオというのは、この世界のたった一つの大陸の、北北東あたりに位置している小国である。

 

 周りにも数々の小国が存在していて、大国からは小国の乱立地帯と揶揄されることもある。

 クロノオに接している国は五つ。

 シネマ、ヨルデモンド、ファントム、エレメント、ルーンである。

 このうちヨルデモンドは大国、ファントムやエレメントは中の小あたりの国、シネマ、ルーンが小国と捉えられている。


 そして、クロノオ自体はファントムやエレメントよりも小規模で、シネマ、ルーンよりかは大規模な国家運営をしていた。

 つまりは、誤魔化しようのない小国である。

 

 クロノオという国の存在は今まで周辺国家以外に知られることはなかった。

 あまりにも矮小すぎるクロノオをわざわざ気にかける大国は、この世界の中ではヨルデモンドくらいだった。

 

 しかし、それは最近になって変わりつつある。

 はじめに衝撃を与えたのはクロノオのシネマ撃破だ。

 シネマに領土を取られていたクロノオは、国の規模だけで見ると1.5倍ほどの差があった。

 それに、「策士パラモンド」の名はこの世界ではそこそこ有名だったのだ。

 シネマ国を裏から操り、知略に長けた人物。

 当時は、国力差に加えてパラモンドが本気でクロノオを落とそうとして仕掛けた一方的な戦であると思われていた。

 

 だが、結果はクロノオの勝利。

 シネマは半分ほどの兵を失い、大敗。

 クロノオの犠牲は一割弱であり、これには驚いた国も多い。


 さらには、塩の開発に砂糖の発見。

 食の発展にも大きな成果をあげた。

 今やこの二品は世界の富豪が喉から手が出るほど欲しがっている逸品だ。


 クロノオは今世界で注目されている。

 利用価値を定めようとしているのはどの国も同じ。


 そして、先ほど登場した小国の乱立地域4カ国もそうであった。

 クロノオにどう対処していくのかによって、各国の思考は絡まり、思わぬ方向へと舵を切る。

 それは、あるいは神すらも知り得ないことであるのだ。



 “シネマ”


 アンティーク調の机には、大量の紙の束が積み重なっていた。

 それは紙の四角がきっちりと揃えられ、その机の所有者の性格を物語る。


「はあ、この紙束が今のシネマを支えているのだと思うと、やる気は湧いてくるものだが。」


 そう呟くのは、40代ほどのヒゲを生やした男である。

 「策士パラモンド」

そう呼ばれていた時代が懐かしくもある。


小国シネマはもともと不憫な国だった。

小国であるのに、隣に大きな魔人国家があるので、その防衛に国力の大半を割かなければならず、さらに周りのクロノオやルーン、エレメントなどの国がいつ攻めてくるかもわからない。

国王の浪費っぷりによってそれに拍車がかかり、いよいよシネマは困窮していた。


そこで出てきたのが、パラモンドである。

国王に軍事や政治などを任されて、まずはじめにパラモンドが行なったのは、情報収集である。

 シネマに大きな情報収集組織を作って、各国に忍ばせる。

 そこから得た情報によって、シネマは戦力をうまく配分して、迫りくる脅威から守り抜く。

 これがパラモンドの目論見だった。

 

 そしてこれは成功し、シネマはかなり発展した。

 まだ小国の域を出ていたないが、クロノオとはタイマンを張れるほど強くなったのだ。

 そこでパラモンドは、周辺国が目立った行動をしていないのを見て、クロノオと全面戦争を開始したのだ。

 

 結果はパラモンドの采配によるシネマの圧勝。

 クロノオはグランベルの無能を晒して敗北した。

 そして、パラモンドは予定通り多額の賠償金と多くの土地を手にしようとした。

 この土地と金が手に入ればシネマはエレメントに匹敵する国力を手に入れられると、そう目論んでのことだった。


 だが、クロノオは賠償金も土地も支払わなかった。

 そればかりか宣戦布告をしてきたのだ。

 パラモンドからすれば笑いものだ。

 クロノオに勝ち目なんてないと、そう舐めてかかっていた。


 おそらくそれが敗因だったのだろうと、パラモンドは今でも思う。

 軍師ヒムラについてもっと慎重になっていれば…いや。

 戦争が始まる以前から軍師ヒムラの素性については調べ上げていた、が、出された結論はただの少年であるということ。

 故に、警戒することができなかった。

 余程あちらの情報統制がうまくできていたのか、


「それとも、天才が生まれたのか。」


 パラモンドは初め、後者の可能性をすぐに否定した。

 そんな降ってきたような幸運がクロノオにいきなり現れるなど、考えたくなかった。


 だが、ヒムラは天才だった。

 誰も発見したことのない塩や砂糖を開発し、流通させた。

 それも、作る前から砂糖や塩のことを知っていたかのように、ポンポンと作り上げる。

 

 それは、誰の目から見ても、脅威に値する。


「まあ、塩や砂糖に関税をかけることによって、シネマも儲かっているのだから、脅威と呼ぶのは躊躇われるのだがな…。」


 シネマがクロノオに対して賠償で払った金貨百枚と属国化承認。

 正直金貨百枚に関しては塩の関税を取ることですぐに取り返せていた。

 シネマは今、戦前よりも潤っているだろう。


「…」


 これも全てヒムラの目論見通りなのではないか?

 そんな疑問がパラモンドの頭をかすめる。


「…いや。」


 さすがにそんなことはあるまい。


 パラモンドは頭をブンブン振ると、また紙の束の処理に取り掛かるのだった。




 “ファントム”


 ファントムの王城の最奥。

 無駄に多く装飾された部屋の真ん中で、二人の青年が話をしている。


「だからさあ、クロノオなんてどおでもいいんじゃあないのお?」

 

 やけに間延びさせた声を発するのは、背の高い青年だった。

 癖っ毛のある茶髪に、ニヤニヤした笑みを貼り付けている。


 彼の名はグルーム。

 ファントム屈指の実力者である。

 それも、このふざけた物言いからは想像できないほどの。


 そしてグルームの対極に座っているのが、グルームとは対照的に身長の低い青年であった。

 その作り物めいた美形の顔は、数多くの女性を虜にするであろう。


 彼の名はペレストレイン。

 ファントム国王である。


「その通りだともグルーム。俺はクロノオなんて心底どうでもいい。だけどね、欲しいものがいくつかあるんだよ。」


「ああっ!僕それわかあったかあも!?」


 子供のように手を叩いて走り回るグルーム。

 その様子はさながら狂人だ。


 グルームは足をピタッと止めると、


「「塩の製造方法」」


 と、ペレストレインと同時に言う。

 ペレストレインはふっ、と笑うと、


「クロノオの塩を食べることは今や俺のもう一つの趣味となっている。この製造方法を聞き出してみたい。」


「おおおう!じゃあ、クロノオに行くのお?」


「ああ。」


 ペレストレインはグルームにそう答えると、


「そろそろ行こうかグルーム。」


 と言って、部屋にある大きな扉に向かって歩いていく。

 

「いいええい!ペレさん!今日もするんだね!」


 と言って、グルームも大喜びでついてくる。

 ペレストレインはその扉の鍵を、何重にもかけられたその鍵を開けていく。


 ペレストレインが語っていた趣味のもう一つ。

 それは…


「…」

「…」

「…」


 3人の女奴隷が、裸になって捕らえられていた。


「国家機密を知ったものは、それ相応の罰がいる。」


 ペレストレインがそう言って、自分の唇を艶かしく舐める。

 

 ペレストレインとグルームが狂気の顔で笑っていたのだった。




 “エレメント”


「おい、今やクロノオの砂糖や塩が必要な商人はこの国にたくさんいるのだ!いいかげん交易を始めたらどうだ。」


 怒声と、机を叩く音。


 大きな円卓には、エレメントの国家運営を支える「師」と呼ばれる人たちが座っている。

 そして、先ほどの怒声は、その師の中の一人が放ったものだ。


 そして、他の師も皆怒り狂ったような表情をしている。

 そしてその怒りの矛先は、一人の男に向けられている。


 それは、大きなフードをかぶった老人である。

 そのフードによって、老人の口から下しか見ることができない。

 その素顔を見たものはこの世にも数えるほどしかいないと言う、謎の人物。


「なにか言いなされ!大魔法使い殿!」

「のらりくらりと結論を先送りにすることなど、許されませんぞ!」

「これほどの好機に、なぜ足踏みを!」


 師は次々と老人を糾弾していく。

 だが、老人は沈黙を破らなかった。


 やがて、男の一人が言う。


「ついに耳も悪くなったかこの老骨!」


 様々な罵声が老人に降りかかるが、その中の一つに老人はぴくりと肩を跳ねさせると、


「…」


 男の目の前に一瞬で移動し、杖を鼻に突き立てる。

 瞬間、野次がピタリとやんだ。


「…なっ、なんだよ!」


「…黙れ。」


 男の虚勢に、老人は短く言い返す。

 男は固まって動けなくなった。

 周りの師たちも恐怖のあまり声が出せない。

 静寂の中心にこの老人はいた。


 やがて、老人は口を開くと


「陛下は検討中だと申した。我ら師だけで陛下のご意向に背くわけにはいかない。」


 と静かに言う。

 師たちも口を閉ざし、うなだれている。


 老人は皆を見て、


「我らは陛下を支えるのが仕事。抜け駆けは許されん。」


 と、硬く言いつけたのだった。



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