二章 第十七話 制度変更の式3
ユーザリアと俺の決闘は終わった。
ユーザリアは反省したらしく、俺に歯向かうことはなくなったようだ。
ちなみに俺がぶっ壊した銅像は、レイの『空間記憶の加護』で直してもらおうとしたのだが、
「直せませんよ。」
「はっ!?嘘だろ!弁償しなきゃいけないのか?ヤバイ俺の信頼度が地に落ちることに…。」
「フフフ。大丈夫ですよヒムラ様。少しからかって見ただけです。直せますよ。」
と、意地悪く笑うレイよって、銅像は復元された。
本当に心臓に悪いので、そういう冗談はやめて欲しいものだ。
という微笑ましい一幕があり、俺たちは式を再開した。
ユソリナがお年やかに言う。
「では、アカマル殿から志願兵の説明を。」
「わかった。」
アカマルは皆の前に出て、志願兵の説明を始めるのだった。
今一度志願兵についておさらいしておこう。
志願兵とは、いわば常備軍である。
志願兵には寮に寝泊りしてもらい、朝から夜まで訓練をしてもらう。
他にも王都の治安維持や護衛なども請け負ってもらう。
まず、歩兵隊1467人。
ほとんどがもともと徴兵されていた人々であり、クロノオのために尽くしたい、や、稼ぎたいなどといった理由で参加している。
これらはとりあえずユーバの下についてもらって、活動をしてもらう。
ユーバがリーダーだが、さすがに10歳あまりの少年に1500人ものの人々を指導できるとは思えない。
なので、アカマルやマルベリーさんも協力してもらう予定だ。
この1500人は100人ずつのグループに分かれてもらって、それぞれに部隊長なる役職をつけて、率いらせる。
武力的には、ユーザリアレベルの戦闘力があれば申し分ないだろう。
まあ、正直まとめ上げるのが一番大変な隊であるのは確かなので、ぜひユーバには頑張ってもらいたい。
騎馬隊に関しては、ドルトバが率いる形となった。
騎馬隊には武功を上げたい貴族が名乗り上げ、騎馬隊見習いには馬に乗って戦場を駆け巡りたい百姓などが名乗りをあげた。
副官として、彼の良き理解者であるトランクを指名させてもらった。
結構嫌そうだったが、ドルトバの知己らしいし頑張って欲しい。
馬は、139人の騎馬隊のメンバーが一人一頭受け持つ。
餌を与えたり、その他諸々の世話をするのもメンバー一人一人だ。
そして、残りの馬は騎馬隊見習いである300人に、5人で一頭と言う感じで受け持ってもらう。
「馬に乗りためには馬と仲良くしなくちゃだぜ!」と言うドルトバの主張により、もちろん世話もそれぞれに任せる感じだ。
もともと騎馬隊で顔見知りだったと言うのもあり、ドルトバはあれでも部下からの信頼は厚い。
頑張って欲しいものだ。
さて、俺が一番不安にしているのが魔道隊なのだが、そちらはテルルがうまくまとめてくれるのを祈るしかない。
志願兵制度改定と一緒に、もうすぐ魔法学校が魔法適性テストを行う時期なので、魔法学校も制度変更をした。
魔導学校では、入学早々に自分の希望の「色」を決めてもらう。
色というのはもちろん魔法の属性のことだ。
魔法学校には一学年50人ほどが在籍していて、それが七学年ある。
つまり、新入生50人ほどをうまく4等分した形で、色分けされるのだ。
色分けされると、生徒はそれぞれの色の魔法を学び始める。
テルルと俺、そして魔法学校の先生と綿密な話し合いをした結果、新たなカリキュラムが完成した。
はじめの学年は魔法基礎という分野を履修してもらう。
細かいことはよくわからないが、魔法の成り立ちとかそんなんらしい。
第二学年には下位魔法C級魔法、第三第四学年には下位魔法B級魔法、第五第六第七学年は下位魔法A級魔法を履修してもらう。
このスケジュールは結構ハードだとテルルは言っていたが、先生方がなぜかやる気になってしまって、このカリキュラムに決まった。
先生方はもともと魔導隊に所属していた歴戦の兵士で、テルルに一歩劣るレベルまでの魔法、具体的には中位魔法の簡単な魔法なら使えるらしい。
というか、そんな歴戦の魔法使いでも一歩劣るレベルのテルルって、どんだけ化け物なんだあいつ。
そして魔法学校を無事卒業できても、彼らには魔導隊にて魔法を極めてもらいたい。
今回の制度変更で魔導隊のメンバーも皆揃って魔法の練習をすることができる。
魔導隊の能力が上がるのはもちろん、連携の精度が上がるし、歩兵隊や騎馬隊に魔法を教えるなんてことをやってもいいかもしれない。
魔法の才能がない人でも努力すれば、下位魔法のC級魔法の青魔法くらいは使えるようになるらしく、自分の 怪我を自分で治せるようになるので、かなり便利だ。
ただ、問題なのは中位魔法からは教えることができる人も教え方もわからないらしく、そこは魔導隊のメンバーで切磋琢磨してやっていくしかない。
他にも魔導隊には護身用の短剣の使い方などを覚えてもらったり、場合には武器の使い方まで覚えてもらう必要がある。
アカマルのように、魔法と剣を組み合わせて戦うことも可能なため、かなりの戦闘力となるはずだ。
あとは、テルルがどれだけ皆の心を引き付けられるかが問題だが、テルルには俺の知識を教え込んだし、そもそも尊敬されるだけの魔法の才能がある。
子供だからと舐められることはないだろう。
…とまあここまで長々と志願兵について説明口調で話してきたわけだが、重大な点が一つある。
それは、志願兵精度が導入されても、徴兵制がなくなるわけではないということだ。
国の危機が差し迫った場合に限り、徴兵を行うことが可能となるのだ。
最も、そんなことなど起きて欲しくはないのだが、大量の兵が必要なときはある。
この辺りは、この世界の戦争事情を知らない俺が、徴兵制を廃止してもいいのか悩んだ挙句の結論なのだ。
まあ、徴兵制がなくなったと勘違いして喜んでいる輩には「ごめんちゃい」だが。
「…と、志願兵に関しては以上だ。」
とアカマルは言い切り、話は終わる。
志願兵は皆、覚悟を決めた目をしていた。
さながら歴戦の兵士みたいだ。
頼もしい限りだ。
もともとこの世界の住人は戦に対しての意識が高い。
怪我しそうだから志願したくない、というような輩はほとんどいないらしい。
志願しない理由のほとんどが、農業など、家の事情であるようだ。
なぜここまで天人という種族は好戦的なのだろうか。
天人と魔人の関係といい、戦に対しての意識といい、この世界は戦争を起こさせたがっているような気がする。
ふと、俺は考えた。
天人と魔人、言い換えたら善意と悪意はどちらが勝つのだろう。
この世界の戦争の終着点は、きっとそこだ。
天人と魔人のどちらかが世界を支配したら終わり。
まるでゲームみたいなその設定に、苦笑するしかない。
だが、互いに憎み合う天人と魔人の戦争を終わらせるには、そうしなければいけない。
どちらかが絶滅する、しか選択肢がないのだ。
善意と悪意の戦い、か。
大袈裟なことすぎて笑ってしまう。
そんなこと考える暇があったら、今は目の前のことだ。
このあと様々な人物から祝辞や命令が下され、式が終わりに近づいていく。
そして、全ての行程が終わったとき、ユソリナは、
「では、これで式を終了いたします。」
と言う。
この宣言により、クロノオの歴史に、新たな1ページが加わることとなったのだ。
その言葉を聞きながらヒムラは思考する。
この世界の戦争とは、なんて壮絶なのだろう。
なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。
根拠もなく、ただ憎いからと言って互いを滅ぼそうとしている天人魔人。
もともと人間であるヒムラからすると、とても滑稽なものに見えただろう。
天人魔人どちらが勝つか。
まあ、その結果はまだまだ何百年何千年も先で出てくるのだろうと、ヒムラはまだ楽観視していた。
この世界の戦争は確かに面白いが、それはヒムラの死んでさらに時が経った頃に決着がつくのだろうとヒムラは気楽に構えていた。
だが、ヒムラの起こした台風はさらに巨大になっていき、やがて世界全体を震撼しうることになる。
そのことをヒムラはまだ知るよしもないのであった。
説明回でした。
細かい設定だとは思うのですが、設定はとことん詰める派なので、今後も説明は細かいです。