二章 第十五話 制度変更の式1
サブタイトル忘れてました
華やかなパレードが行われている。
この世界でもお祭りというものがあるらしい。
前世でのお祭りというものは、みんなではっちゃけたり、意中の異性と歩き回ったりするものだ。
しかし、こちらの祭りはそれに比べて少し上品だ。
ワイワイガヤガヤという感じよりかは、カチッとした感じだ。
もちろん盛り上がるイベントも用意されるのだが、それも目的のための前座という立ち位置に過ぎない。
「ついにこの日がきたか。」
俺は祭りの様子を城から眺めながら、そう呟く。
俺の服装も、城の召使によって大胆な装飾が施されていて、さながら裕福貴族の跡取り息子のようである。
黒いタキシードには金色の柄が付いていて、手首や足首などにフリフリが施されている。
果てにはきらびやかな胸章がその存在を声高に主張する。
さすがに召使に化粧されそうになったときは逃げさせてもらったが。
見ると、軍部のメンバーはみんなそんな感じだ。
ユーバも俺とどっこいどっこいな見た目で、少し可愛い。
アカマルやドルトバは落ち着かない服に戸惑っている。
テルルなんかは、その尊大な態度も相まって貴族っぽい。
メカルは、うん、素晴らしいロマンスグレーだなこりゃ。
ユソリナは、服装を地味なものに変えてもらったらしい。
まあその方がユソリナには似合うと思うけどね。
ロイレイは未だ俺の影の中だ。
召使がおめかしさせようとしたら全力で逃げられたらしい。
たまには年相応におしゃれをすればいいのに。
「私どもはマスターの影。目立つべき存在ではありません。」
と、影の中から気難しい答えが返ってくるが、聞かなかったことにしよう。
お祭りのパレードはそろそろクロノオ広場に着こうとしていた。
楽器やらを持っている行列がクロノオ広場に到着したら、俺たちの出番だ。
つまり、制度変更の式である。
「ヒムラ様。そろそろお時間です。御支度を。」
メカルが俺にそう伝える。
「わかった。」
とだけ答えると、俺は歴史的舞台に向かっていくのだった。
クロノオ広場には沢山の人が詰めかけていた。
歴史的瞬間を見にきた、というよりは野次馬根性なのだろうけど。
「では、制度変更の式を開始いたします。」
ユソリナは緑魔法の「拡声」を使って大仰に宣言する。
「拡声」というのはそのままで、マイクのような役割を果たしてくれる。
ちなみにユソリナは緑魔法の嗜みはあるらしく、今使っている魔法も自前だ。
「では、クロノオ国王グランベル・キング・クロノオ様のお言葉を承ります。」
まあ、前世で言う校長先生の話的なポジだ。
内容のないことをつらつら喋る感じのものだ。
グランベルが皆の前に立つ。
テルルが気合の入った「拡声」を放ち、一斉にグランベルの言葉に耳を傾ける。
グランベルはその威厳を周囲に振り撒き、
「諸君。今日の日は天使様の膝の元、この偉大なる広場に集う。遥か昔のクロノオは、荒野に満ちており………。」
長い。
今までのクロノオの歴史を全て話しているので、相当暇だ。
グランベルはこういう長い言葉をいうのは嫌がりそうなのだが…。
本人はわりと嫌がってるそぶりもない。
国王っぽいことならどうやら多少面倒でも大丈夫らしい。
「………であるからして、制度変更の式を行う。」
と、グランベルは締めくくると、クロノオ広場を後にする。
まあ、正直国王の出番はここで終わりだ。
あとは俺たちの番だ。
「では、クロノオ軍部、軍師ヒムラ様より変更の宣言を。」
さあ、ここで威厳を見せれるかが重要なのだ。
クロノオ広場に集まったのは、男だけではなく女子供も混じっている。
この国の男にはシネマ戦で俺の威厳は伝わっている。
しかし、女子供や商人、貴族の中には俺がただの子供だと舐めている奴らがいるかもしれない。
今後軍部はこの国の生産や食事、貿易なども担う。
つまりこの式は、全てのクロノオの人々に軍部はなんたるかを印象付ける場なのだ。
俺は皆の前に出ると、
「では、制度変更の宣言を行う。今回の制度変更は民への飴であり、鞭であるとしれ。クロノオの民の勤勉さに対しての褒美であるが、その褒美が怠惰を招くようであれば即刻取りやめとする。全員、肝に銘じろ!」
俺はそう締めくくる。
まあまあ威厳が保てたんじゃない?
そう思っていると、アカマルが俺に話しかけてくる。
「子供が怯えてますよ。」
はっ!
そういえばこの場には子供がいたんだった。
確かに俺、ものすごい怖い顔で宣言したし、泣き出してしまうのも無理はないかもしれない。
少しやりすぎたか。
威厳は保つべきだが、恐れられるのも良くない。
俺は慌てて、
「ま、まあ、しばしの間、自由の時を有意義に過ごすが良いぞ。」
と、にこやかな笑顔で締めくくる。
なんともまあ締まらない終わらせ方だが、終わったものは仕方がない。
まあこれでとりあえず制度変更は終了した。
あとは、アカマルが制度変更の細かいことを説明して終わった。
この後、俺たちは志願兵と顔合わせをしなければならないが、それまで少し時間がある。
屋台でも見て回ろう。
俺はユーバを連れてまた繁華街に来ていた。
今はいつもより沢山の屋台が出ていて、もちろん食事系の屋台も少なくない。
だが、
「こちらの豚の塩焼き。美味しいよー!」
「こっちは魚の塩焼きだよ!」
「うちの砂糖詰め合わせはいかがー?」
俺が開発した塩や砂糖が至るところで使われている。
それは、皆がそれをおいしいと感じてくれている証拠である。
俺たちも色々と食べ物を買って食べた。
「ふむ、焼き鳥に焼き魚か。まだ料理とはいえないな。」
今のところ塩の使い方としては塩をまぶした肉や魚を焼くくらいしかない。
砂糖に至っては砂糖の詰め合わせしかない。
俺がまた新しい料理を開発しないとな。
そのためにも軍部の発展は絶対だ。
ユーバも美味しそうに焼き鳥を頬張る。
「うんーー旨いねー。でも、ひょいひょい焼きとかも恋しいかも。」
「恋しいの!?あれが!?」
ひょいひょい焼きとは、得体の知れないモノを丸めて焼いたものである。
もちろんまずい。
だが、幼い頃からひょいひょい焼きを食べてきたユーバからすると、恋しいらしい。
「僕は孤児院出身だからねー。まずいモノしか食べたことがなくてさー。でも、その不味い味が孤児院時代を思い出させるんだよねー。」
とユーバは懐かしむように言う。
ユーバが孤児院出身だと言う話は知らなかった。
経歴不明と報告されたからである。
重大な事実を聞かされた俺はどうすればいいのかわからなかった、が、
「あーヒムラ様。大丈夫だよ。今はすごく楽しいしー。アカマルさんもドルトバさんも、ほかのみんなだって優しい。僕は軍部が好きだよー。」
と言って、ニカっと笑ったのだ。
ユーバの過去に何があったのかは知らない。
だが、もしかしたらいつも笑っているのは、それが原因なのかも知れない。
俺はどうすればいいのだろうか。
ユーバのことを知るべきなのだろうか。
…いや、きっと違う。
今、ユーバは楽しいと言ったのだ。
なら、それでいいのかも知れない。
また、機会があったら教えてもらおう。
ユーバの過去の話を。
「…わかった。それよりユーバ。そろそろ時間だぞ。」
「えっ!?あっ、そうだった。そろそろ行かなきゃ。」
と言って、俺とユーバは駆け足で目的地に向かう。
この後、軍部の闘技場で制度変更の式の後半が始まる。
志願兵との顔合わせだ。