表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
42/161

二章 第十三話 感情の吐露

「一つ、相談したいことがあるんだけど…。」


「ん?どうした?」


 そういうとテルルはなぜか不機嫌になり、


「あ、あんたを頼らなきゃいけないのは不覚だけど、考えて欲しいことがあるの。」


 とツンツンと言う。

 なんか前世で、思春期に入った従姉妹みたいだ。


 残念ながら俺には、妹も姉も娘も妻も彼女もいたことがないから、従姉妹か母親くらいしか身近な異性が思いつかないのだ。

 おっと話が逸れた。

 

「おう。何を考えてやればいいんだ。」


「えっと、魔導隊が志願制になって、みんな訓練しだすじゃん。」


「そうだな。」


「その訓練って私がやるの?」


「そりゃそうだろ。」


 お前は魔導隊のリーダーなんだろ。

 でも、テルルは不安そうに言う。


「どうすればいいの?」


「…。」


 忘れていた。

 いくら魔法が使えるからって、魔導隊の隊長だからって、テルルはまだ少女の域を出ていない。

 13歳。

 中学一年生相当だ。

 いきなりみんなを引っ張っていくと言っても無理がある。

 今までは徴兵した時にだけ統制をすれば良かったので、まだ気が楽な筈だ。

 多少雑に魔法の指導をしても許された。

 

 しかし、これから求められるのはリーダーシップ。

 千人ほどの魔法使いの信頼を得て、指示に従うように教育をする。

 軍の統率能力で国の生死を分けることもある。

 それほどまでに重い仕事が、この少女にできるのだろうか。


 俺はしばらく考えたが、ハッと気がつく。

 テルルは俺に、どうすればいいのと言ったのだ。

 決して、やるかやらないかで迷ってるわけではないのだ。

 

 テルルにやる覚悟はついている。

 だが、どうすればいいのかわからないだけだ。


「覚悟は決まってるんだな。」


「ええ、私はこの国を変えるためにここに来たもの。」


 その言葉をいう時テルルは、目を輝かせている。


 きっとこの少女は、何かやり遂げたいことがあってこの軍部に入ったのだろう。

 それなら俺は、それを後押ししてあげるだけだ。


「じゃあ、俺の前世の知識を教えてやるよ。」




 孫子というのは、素晴らしい人物だ。

 これは歴史に詳しい人物で有れば誰もが抱く感想であろう。


 軍の動かし方や信頼の勝ち取り方、心構えにわたって様々な格言を残している。

 

 俺も孫子の考え方を学んでいるからこそ、この世界で軍師としてやっていけてると言っても過言ではない。

 

 その孫子の考えを、テルルに教えることにしたのだ。

 上に立つものとしての自覚や行動の指針を教えた。

 

「信賞必罰という言葉が意味するのは、罰も信頼につながるということで…。」


「ヒムラ。罰が信頼に繋がるってどういうこと?」


「いい質問だテルル君。支配者が罰を公平に与えるということは、その人の公平さを物語る。それを感じ取った兵たちは、支配者を公平な人として信頼するようになるというわけだ。」


「なるほど。」


 テルルが素直に頷く。

 

 案外素直に話を聞くもんだなと思ったが、それだけテルルが必死なんだということがわかった。

 少女のわりにたくさんのことを考えているのだろう。


 じゃあ、俺はそれを補助してあげるだけだ。

 

 わからないところを教え合うというのは、一見当たり前に見えて、お互いをかなり信頼していないとできない。

 俺とテルルは、もうその域に達したのだろうか。

 

 達しているといいなと、こっそり俺は思ったのだった。




「今日はありがとう。」


 テルルがいつになく素直に言うと、少し不機嫌になり、


「べ、別にあんたに助けてもらったとか、救われたとかは思ってもないからね!」


 これはそう思ってたってことでいいんだろうか。

 なんか照れるな。

 少し俺の知識を披露しただけなのに、こんなにも喜んでもらえるとは。


「まあ、またなんかあったら言えよ。」


 俺はそう言葉をかける。


 テルルは、まだ不安そうにして、


「えっとさ、私ってほら、魔法しか使えないし、リーダーシップもないし、13歳だし…。」


 いきなりどうしたかと思えば、自分の欠点について独白し始めた。

 今日のテルルはどうしたのだろうか。

 なんだかいつもより不安定に思える。


「私って、軍部に必要なの?」


 そう聞いてくるテルルの目は不安そうで、やはりいつもと違う。

 

 でも、俺は思う。

 なんてくだらないことを考えているのだろう。

 軍部に必要かって?


 そんなのもちろん…。


「お前がいないと俺は魔法を覚えられなかった。お前がいないとシネマ国は倒せなかった。お前がいないと魔導隊は強くならなかった。」


 俺は唱えるように言う。

 

「俺だけでもこんなにテルルに感謝してるんだ。もっといろんな人に聞いてみろよ。きっともっと沢山感謝されるぞ。」


 テルルが大きく目を見開く。

 

「お前はこのクロノオ軍部に必要な人物だ。誰もそんなこと疑っちゃいないよ。」


 俺はそう締めくくる。

 テルルが必要か必要でないか、悩むのもバカらしい。

 当たり前に必要で、当たり前に頼りになる。

 

 それこそ、さっきまで13歳と忘れていたくらいに。


 テルルは大きく頷くと、


「ありがとう。」


 と笑ってくれたのだった。




 今日は嫌な日だった。

 たまたま昔の頃の夢を見て、たまたま悲しい気分に浸っていたのだ。

 

 ヒムラが気に食わなかった。

 だって、年下なのにすごくうまく仕事をしてる。

 みんなに必要とされている。

 

 だから、


「私って軍部に必要なの?」


 と聞いてしまったのは、ただの気まぐれなんだ。

 心の深いところでいつも疑問に思ってたことが、つい口から出てしまった。

 よりによってあのヒムラの前で、


 なぜ、ヒムラにあんなことを尋ねてしまったのだろう。


―お前がいないと魔法を覚えれなかった


 なぜ私はこんなにも泣きそうなんだろう。


―お前がいないとシネマ国を倒せなかった


 どうして自分一人で抱え込んでいたのだろう。


―お前がいないと魔導隊は強くならなかった


 どうしてヒムラはそんな言葉をかけてくれるのだろう。


―俺だけでもこんなにテルルに感謝してるんだ。もっといろんな人に聞いてみろよ。きっともっと沢山感謝されるぞ


 私はどうしてこのことに気づかなかったのだろう。


―お前はクロノオ軍部に必要な人物だ。誰もそんなこと疑っちゃいないよ


 憎たらしいと思える人に、私はどうしてこんなに救われているのだろう。


 全部答えは出なかった。

 ヒムラが気に食わなくて、どうしようもなく優秀で、でも、もしかしたら自分を見れていないだけなのかもしれない。

 

 この心のわかだまりは消えそうにもない。

 これからも尾を引いて残っていくのだろう。


 でも、やっぱり、気に食わないけど、恥ずかしいけど、憎たらしいけど、


「ありがとう。」


 今夜は少しだけ、いい夢を見れそうだった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ