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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第七話 浮いた島の上

「貴様、何者だ?」


 何者だ?とはどういうことなのだろう。

 たしかに今俺は見た目は子供頭脳は大人状態である。

 この少年のような見た目で、シネマを打ち破ったのはたしかに異常かもしれない。

 だが、それは少し早熟な少年で片付く筈だ。

 

「何者とは、どういうことでしょうか。」


「貴様の心の中に潜む悪意の話だ。」


 ああ、前にマルベリーに言われた話か。

 確か俺の魂の中には、天人が持っているはずがない「悪意」と呼ばれるものがあるらしい。

 俺はそんな悪人ってわけでもないし、心当たりはまるでないのだが。


 …嘘だ。

 やはり心当たりは一つある。

 俺がもともと転生してきたという点だ。

 

 天人は善意を持っていて、魔人は悪意を持っている。

 じゃあ人間は?

 おそらくその答えが今の俺なんだろう。

 

 ていうか、ザガルは俺の心の中の悪意を見破っている。

 おそらくこの男も何かそのような加護を持っているのだろう。

 

「…お見事です。何故お気づきに?」


「我の『慧眼の加護』は誤魔化せないぞ。相手が隠している重大な事実を一つ、知ることのできる加護だ。」


「…マジすか。」


 加護がチート能力ってことは理解していたが、ここまでヤバいものはない気がする。

 相手が隠している重大なことを知ることができるのは、交渉において有利だ。

 

 にしても、何で俺の重大な秘密が、「悪意を持っていること」なのだろうか。

 まあ、たしかにマルベリーさんに言われた通り、悪意を持っていることを知られると、魔人と判断されかねない。

 もしかしたら心の底ではこの事実を隠そうとしていたのかもしれない。

 

 でも、それなら他にも転生してきたこととか、中身が大人であることとか、たくさんあるとは思うが。

 まあ、それらは特段隠そうとはしてないけどね。


「俺はどうやら善意と悪意を両方持っている特異な性質を持っているようです。」


「なるほど。…貴様、ここから見える山の向こうに、浮いている島があるのは知っているな。」


「…えっ、まあはい。知ってます。」


 いきなり何の話だ。


「その島に住んでいる住民について心当たりはあるか?」


「いえ、人が住んでいること自体知りませんでした。」


 あそこに人が住んでいるのか。

 天人か魔人か、どちらが住んでいるのか。

 その答えは衝撃的なものだった。


「御伽噺上の話なのだが、あそこには善意と悪意が混ざった生物が存在しているらしい。」


 善意と悪意が混ざった生物。

 まんま俺だね。

 どういうことだろうか。

 善意と悪意が混ざった生物なんて、この世界では確認されていなかった筈だ。

 少なくとも俺の母親はそう言っていた。


 ただの御伽噺なのだろうか。

 それとも…


 ザガルは続ける。


「その生物の名前は、どうやら“ニンゲン“と言うらしい。」


 なんだって!?


 人間。

 前世では当たり前の生物。

 それがこの世界の、浮いている島に住んでいるらしいのだ。


 俺は驚きのあまり、声が出なかった。


「…心当たりがあるようだな。」


 ザガルはニヤリと笑う。

 俺は頷く。


「ええ、確かに俺はもともと人間でした。」


「では、あの島から降りてきたと。」


「いえ、そうではありません。…おそらく。」


 まさかあの島が地球だった、なんてことはあり得るだろうか。

 俺はあの島で死亡して、こちらの大陸に降りてきた、とか。

 …いや、やっぱり地球は丸いと思うし、おそらく別世界だろう。

 

 俺は続ける。


「俺はおそらくこの世界とは全く違うところからやって来ました。」


「…にわかには信じがたいが、続けたまえ。」


 グランベルが興味深そうに言う。


「俺は違う世界で死亡して、気づいたら十歳の少年になっていました。」


 俺は言いながら、自分で自分を笑い飛ばしたくなる。

 いきなり突拍子もないことを言う変人だと思われるだろう。

 だが、真実なのだ。


 しばらく静かに考えていたザガルは、ふと笑い出す。

 初めは小さな声で、次第に膝を打ちながら。


「なるほどなるほど。馬鹿馬鹿しい話だが。全てそれで結論付けられてしまう。妙に大人びた仕草も、軍師試験とやらに勝ち上がった知識も、シネマを破った実力も、そして…。」


 ザガルは塩を見せて言う。


「これもおそらく元いた世界のものなのだろう?」


「はい。」


 俺は頷く。

 ザガルはこちらを見て、


「貴様の言うことを信じよう。そして、その元いた世界の知識はおそらくこれから大いに役に立つ。そこで提案なのだが…。」


 そこでザガルは一呼吸間を開け、


「その知識の実現場所として、我が国を使ってみてはどうだろう。」


 まじか。

 つまりは技術大国であるヨルデモンドが俺の知識の中のあれこれを形にするのに協力すると言うことか。

 それは願ってもない話だ。

 

「ぜひ、お願いしたいです。」


「よかろう。」


 俺の了承に、ザガルが頷く。

 まあ、とりあえず将来の兆しが見えた。

 これからのクロノオの資金源となりそうなものに、俺の現代知識というものがある。

 だが、その現在知識は形に出来ないと金にならない。

 そこで、ヨルデモンドに協力してもらって、俺の知識を形にすることが出来れば、さらにクロノオは儲かるだろう。

 

 ただ、今の会話でひとつだけ気になるところがあり、それを俺はザガルに聞いてみる。


「…ザガル様。その人間の住む島にはどうやったらいけるのでしょうか?」


「やはり興味があるか。」


 ザガルは少し考える顔をして、


「二つ方法がある。一つは天使になること。もう一つは悪魔になることだ。」


 は?天使?悪魔?

 なんだそりゃ。

 

「天使悪魔とは、どういう…。」


「ああ、知らぬか。」


 一般の市民だと知る由もないか、と続けるザガル。


「天使とは、天人の中で世界に認められた者から生まれた種族だ。そして魔人が世界に認められた場合、悪魔となる。強き者はやがてそれらの種族となる。」


 んーー進化みたいなものだろうか。

 世界に認められるって、何をもって言うのかがさっぱりだが、おそらく強さなんだろう。

 個人の戦闘力が進化の指標となる、ってことか。


「そして、天使や悪魔になったものには、その浮いている島に一度だけ行き、その島の王と対面することになっている、と。」


 その島の王。

 人間の王ということか?


 ふと、ザガルは笑い出し、


「まあ、全て噂だが。」


 と言う。

 まあ、いい情報は得られた。


「天使や悪魔が実在すると言うのは、本当でしょうか。」


「ああ、それは本当だ。」


 ザガルはそこまで言うと、苦虫を噛み潰したような顔をして、


「天使は、圧倒的だぞ。戦争をしても、天使一人で全てをひっくり返せるほどの戦闘力だ。」


 と、自分がさも経験したかのように言う。

 どうやらここを掘り下げると、ザガルの怒りを買いそうだから辞めておこう。

 

 と、ここで今まで空気だったグランベルが、


「じゃあ、ザガル。そろそろ第一の目的に入ろうではないか。」


 と威勢よく言う。

 第一の目的は、確か不可侵条約の結び直しだったな。

 ザガルも、


「そうだな。」


 と賛同する。

 

 俺も色々と考えを巡らせていた。

 今回、クロノオとヨルデモンドが友好的なことを確認できたのは大きな利点だ。

 どうせなら貿易とかはしてみたい。


 俺はグランベルに


「では今回は、うちの外交担当にその条約締結を任せてはもらえないでしょうか。」


 と言う。

 何か考えがあることを察したグランベルは


「よいぞ。」


 と許可をくれた。

 では、


「ロイ。」


「ハッ!マスター、ここに。」


 影の中からロイが出てくる。

 その光景に流石のザガルも少し驚いているようだ。


「ユソリナをここに呼んでこい。」


「承知しました。」


 さて、交渉といこうか。


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