二章 第二話 ヒムラの身体の謎
俺は目覚めた時、テルルの部屋のベットにいた。
んーなんか意識が朦朧としている。
てかなんで俺寝てんの?
頑張って思い出すわ。
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あ、そういえば俺が『神速の加護』を使って歩いた記憶が最後にある。
あれ、それから記憶がないぞ!?
考えていると、テルルが部屋の中に入ってくる。
「あら、起きたのね。」
「おい、なんで俺はここに居るんだ?」
俺が聞くと、テルルは一瞬ポカンとして、笑い出した。
「あっ、そうかなんも覚えてないってことね。」
「何があったんだよ!?」
「アハハ、そんな大したことじゃないわ。あなたの加護で体が加速して、一瞬で壁に激突してそのまま気絶。いやー、アレは面白かった。」
「おい!?」
確かに他人が見たらさぞかし面白いだろうというのは納得する。
だが、一瞬で動けるものなのか?
一瞬で動けてしまうものなのか?
あれ、こういうのって普通相手には自分の動きが見えないけど、自分自身は動けるって感じじゃないのか?
ヤバイ自分で何言っているのかわからない!?
つまり、『神速の加護』は自分の意識に関しての時間は加速しないらしい。
周りの一人にとって一瞬と感じる時間は、自分にとっても一瞬ということだ。
その一瞬の時間に自分の体を動かすのは不可能だ。
となると、『神速の加護』使用中は自分の体を制御できないみたいだ。
曲がったり、剣を振り回したりするのも難しい。
なんだそれ。
正直使いどころを選ぶ加護かもしれない。
テルルも同じ結論に行き着いたのか、
「おそらくあなたも同じ考えに行き着いたんでしょうけど、その加護はそのままだと使い勝手が悪いわよ。そこで…。」
そこで?
「特訓よ!」
だろうなとは思ってた。
「特訓って言ったって、具体的に何すんのさ。」
俺が聞くと、テルルは知識をひけらかすように自慢げに答える。
「この世界にはスキルっていうのがあるのよ。そのスキルの中の一つに「思考加速」っていうのがあるの。で、それを身につければ、少しはマシに加護を使いこなせるはずよ。」
なるほど。
「で、そのスキルっていうのは特訓で手に入るものなのか?」
「そうよ。だってメカルが言ってたもん。」
こいつ、メカルに教えてもらったって言っちゃってるよ。
…まあいいや。
メカルの言うことなら信用できる。
「じゃあ、早速特訓しよう!」
「いいわよ。あんた、さっきまで全身の骨がバキバキ折れてて、内臓とかが潰れてた状態だったけど、直してあげたからいいよ。」
「いや、大丈夫かよそれ。」
そんな大惨事になってるとは思わなかった。
「大丈夫よ!私の魔法はすごいもの!」
テルルがドヤ顔で言うが、ここは無視だろう。
無言でベットから起き上がり、スタスタと部屋から出て行こうとすると、
「待って待って!あと一つ言いたいことがあるの。」
「なんだよ。」
俺は仕方なく振り向いた。
テルルは一つ咳払いをして、言う。
「あなた、本当に13歳になったの?」
「なったよ。」
先日、俺は晴れて13歳になった。
だからどうしたと聞きたいのだが…。
「あのね、メカルに聞いたんだけど…。」
「ああ、どうした?」
「その…。」
テルルが言い淀む。
どうしたのか不思議に思っていると、テルルは申し訳なさそうに俺をみて、
「あなたの体、もう成長しないらしいの。」
と言った。
どう言うことだ?
「俺の身長が伸びないことをバカにしてるのか?」
「いや、そう言うわけじゃなくて…。」
確かに俺の体はこの世界に来て2年ほど経ったが、全くと言っていいほど成長してない。
こう言う体質なのだと言われたら、納得だ。
「なるほどね。俺の体質なのかもしれないけど、まあそのうち身長も伸びるだろ。」
「違う違う!そう言うことじゃなくて…。これからも全く成長しないらしいの。」
ん!?
これからも全く!?
「おそらく何年経ってもあなたの体はそのままってこと。」
「まじかよ!?」
じゃあ、俺は一生この子供の見た目で過ごさなきゃいけないってことか。
なんか悲しいな。
この美男子であるヒムラの体が、大人になったらどう成長するのか楽しみにしていたんだが。
テルルは続ける。
「で、私の推論なんだけど。普通三百倍の負荷をかけて壁に激突したら、普通即死するわ。」
「あー確かに。」
全身骨が折れるのもヤバイとは思うが、普通その速度で壁にぶつかったら、一瞬で体が崩壊する気がする。
テルルは続ける。
「ここからが私の考えだけど、あなた年齢と引き換えに身体が強化されてるわ。」
な、なんだってー!?
つまり、身長が伸びたり毛が生えたりしない代わりに、身体能力がアップされていくということか。
通りでセキじいやマルベリーとの剣の特訓のとき、体の使い勝手が良いなと思った。
アレはヒムラの身体能力が良いわけじゃなくて、この体質のおかげか。
でも、おそらくこの体質も元々いたヒムラのものだから、実質この体が使いやすいってことなんだけど。
「おそらく魔法の才能も強化されているわ。覚えが早いもん。あんた。」
テルルに言われて、ハッと気づく。
テルルの教えの元、俺は確かにもう下級魔法のB級魔法は使いこなせている。
だが、これは魔法学校を卒業できるレベルの魔法らしい。
それを俺はテルルに少し教えてもらうだけでできてしまっていた。
魔法には、魔法陣を覚える暗記と、魔力をうまく魔法陣に流し込む技術の二つが問われる。
暗記はともかく、技術のほうはすぐには身につかないらしい。
下級魔法B級魔法だと、短くても5年かかるらしい。
だが、俺は半年でできてしまった。
つまり、俺の身体能力はすでに常識外れの域へ向かっているということか。
テルルが言う。
「多分今のあなただったら。本気で殴ったら岩は砕けるわよ。」
まじかよ。
とたんに自分が怖くなった。
まあ、いいや。
とりあえずこの『神速の加護』を使いこなすことが先決だ。
「じゃあ、まず闘技場に行く。」
「ええ、おそらくマルベリー様とマーチ様が待っている。」
テルルはそういうと、部屋の扉を閉める。
マーチって王の側近のマーチさんか?
どうやら体術に関しては達人級の人らしい。
そんな人に教えて貰えるなんて…。
俺も偉くなったもんだ。
さて、特訓と行くか!
一応付け加えて置くと、ヒムラの体が成長しないのにもちゃんと理由はあります。