一章 第三話 剣士セキ
前回の後書きにも書きましたが、いきなり1年が経過します。
一年が経った
俺は1年前、このヒムラという少年に憑依して、異世界転生を果たした。
そしてそのままこれ世界の母親と出会い、この村に連れてこられた。
思い返してみると、異世界転生テンプレからは大きく外れてなさそうな気がする。
人に憑依なんてアリかよと思った1年前の俺とは違う。
この一年間で、ようやくこの村に馴染んできたような気がする。
母親と会い、父親と会い、友達もできて、農業の仕方も教わった。
飯がまずいことがわかり、村長が優しいことがわかり、税取りが恐ろしく怖いこともわかった。
懐かしい思いをしながら、今日も小麦粉の汁を飲む。この味には全く慣れることができなかったが…。
「ヒムラー。今日はどうするの?」
母親の声だ。
「んーと友達と遊ぶ」
「わかったわ。いってらっしゃい。」
「いってきます。」
俺は返事はそこそこに、友達の元へ駆けて行ったのだ。
「ようヒムラ!何して遊ぶ?」
走って、村の中央の広場に行くと、先に着いていただろう俺の友達、ヴォルフが手を振ってきた。
その隣には、ヴォルフと家が隣だというマリンがいる。
「そうだな。今日は砂遊びだな。」
「えー、昨日やったじゃん。」
マリンが抗議の意を示すが、俺は言う。
「今日は、大きな砂のお城を作ろう。作り方を思いついたんだ。」
俺たちが遊ぶときは、だいたい鬼ごっこか砂遊びだ。どちらも俺が提案したものだ。
こんなところで現代知識無双かよ、なんか悲しいな、と思いながらも、楽しいからよしとする。
というか、よく砂遊びは子供の遊びだという人も多いと思うが、これが以外と面白いのである。
結構精密なものを作るとなると、かなり時間がかかるし、それでいて想像力を使う。
よって、俺たちのつくる砂のモニュメントは、かなりのものになっていた。
ちなみに砂のお城は、クロノオという俺たちの住んでる国のものを参考にしている。クロノオは中堅どころの国で、だからお城もそこそこ立派なのだ。
「いーねー楽しそう!」
ヴォルフとマリンが賛成の意を示すと、早速砂遊びを始めたのだった。
「やべっ、もうそろそろ時間だ。」
そう呟いたのは、ちょうど城の構造のうんちくを二人に語りながら砂の城を作っていたときだ。
俺は太陽の高度を見て、時間を推定すると、約束をしてたことを思い出した。
「ヒムラー、どうしたの?」
「すまん、約束があるんだ。行かなきゃ。」
そう言って俺は立ち上がって砂を払う。
「砂のお城…まだ作り途中だけど…。」
ヴォルフが少し泣きそうな目で俺を見てきた。
お前もう9歳だろ。かっこいい名前なんだし、泣くなよって言いたい。
ちなみに俺は11歳だ。マリンも9歳なので、俺が頭一つ抜けた年齢だ。だから子供たちの兄貴枠を任されているのだ。
「明日また作ろう。」
「うん、わかった。」
その返事を聞くと俺は一つ頷き、ある人の家に走って行った。
「遅刻だ。日が山と重なるまでと言ったであろう?」
「すみません!!」
すでに、山と太陽は重なり合っていて、言い訳ができない。
潔く謝るのが吉だろう。
なぜなら、この人がかつてクロノオ剣士10傑に選ばれた、剣の達人、セキじいであるからだ。
なぜ俺、ヒムラはこの爺さんと対峙しているかと言うと…
三ヶ月前
「お母さん、俺剣士になりたい。」
「はぁ、何を言ってるの。」
「だって俺、異世界にきたんだし剣を扱えるようになりたいんだよね。」
「イセカイ??何それ?」
「あっ…。今のナシで。まぁ、強くなりたいって言うのが理由かな。」
「あのね、強くなりたいって言っても、剣をいったい誰から習………あっ。」
「どうしたのお母さん」
「えっとねーこの村にすごく剣が上手い人がいて…」
「えっ、誰!?」
「確か、道路二つ跨いだところに住んでる、セキ剣士様だったような。」
「行ってくる!!」
「えっ、ちょっと!………。」
とまあそう言うわけで、セキ剣士様のところに行った。
セキ宅の門をたたくと、中から人影、セキ剣士様が現れたのだ。
セキ剣士様はおそらく60初めのお爺さんで、白髪を後ろで束ねるという、ザ、剣士という格好をしていた。
俺は土下座しながら頼んだのである。
「セキ様!俺に剣士を教えてください。」
するとセキ剣士様はこちらをひと睨みして言う。
「お主のような軟弱な奴に教えるわけにはいかん。帰れ、少年よ。」
「でも、俺は剣で家族を守りたい。」
もちろん第一の理由はかっこいいからである。
嘘を言ったのは、もしかっこいいからなどというふざけた理由で有れば、すぐにこの人に斬り殺されると感じたからだ。
それほどの覇気を感じさせる人だ。
もちろん、家族が大切ではないわけではない。一年という短い期間だが、それなりに愛着はある。
「ほう、それだけか。」
セキ剣士様がこちらを睨む。
あれ、なんか間違えた?
さらにセキ剣士様はいう。
「それは嘘だろう。本当の理由を教えよ。」
「えっとー本当はかっこいいからってだけで……あっ!」
言ってしまった。
もっとなんかしっかりとした理由を考えればよかったと後悔した。
絶対「くだらない(睨み)」って言われるのがオチだろ!
はぁ、これじゃあ教えてもらえないだろう。
しかし、そう考えていると、セキ剣士様はこっちを見て、初めて笑った。
そして言う。
「それじゃ!それじゃ少年よ!」
えっ!?そうなの。かっこいいからって理由でいいの!?
「そうじゃよ少年。家族を守りたいからなどと言う義務感からでは剣は振れん。かっこいいから、面白そうだからと言う好奇心が人を動かすのじゃ。」
そういうと、セキ剣士様は器用にも顔を真っ赤にして、興奮した様子で俺に迫る。
しかし、すぐにセキ剣士様は元に戻ると、咳払いをして俺に言う。
「明日、太陽が山に差し掛かる頃に俺の家に来い。剣ってものを教えてやる。」
そういうと、セキ剣士様は家の方に戻っていく。
えっと、認められたのか?
認められたよね?
「ありがとうございます!セキ様」
「おう、あとセキじいでいいぞ。」
そういうと、セキ剣士様、セキじいは玄関の扉を開け、家の中へと入っていく。
どうやら、気に入られたみたいだ。
それから俺はセキじいに剣を教えてもらった。
剣を初めてまず思ったことは、
(剣道部入ってればよかった!!)
前世で歴史研究部なんていう、存在すら学校中から疑われるような部活に入っていたツケが、今回ってきた。
まず、刀が持てないのだ。意外と重く、持つだけで精一杯。
持ち上げて降るだけで息が切れていく。
素振りなんてできそうもない。
「ふむ。まず力をつけろ。」
セキじいにそう言われてからは、毎日走りっぱなしだ。筋トレも毎日欠かさずしている。
おそらく前世では耐え切れないようなハードなメニューも、この体だからかなんとかマシにやれている。
とは言っても辛いのは事実で、何度逃げ出そうと思ったことか。
しかし、セキじいに「ほら、家族を守りたいんだろぅー」とニヤニヤしながら言われては、さすがにイラッとくるので、負けん気でなんとか頑張っている。
そうやって一ヶ月
「もう刀は振れる。」
そうセキじいに言われ、剣を持ってみると、なるほど相変わらず重いが、わりと楽に持てるようになった。
とは言っても、一ヶ月で成長していいの?普通は2、3年経ってようやく「そろそろ刀でも持ってみるか」と言われるのかと思っていたが。
まあ、とりあえず剣の型を覚えてさらに一ヶ月。
この体はどうも覚えが早いようで、もう様になって来だした。
セキじいからも、
「お主、筋がいいのぉ。」
と言われた。
意外とこのヒムラの体は、運動神経がいいらしい。
そうして、ある日、セキじいの特訓が終わって家に帰っている途中に、事件は起こった。
「敵襲!敵襲!」
門番が叫ぶ。
その直後、あたり一面は一瞬にして火の海に包まれたのだ。
実はヴォルフ、マリン、セキじいはこの後の物語に全く関与しません。
精精2、3回名前が出てくるほどです。
ご了承ください。