一章 間幕 塩!2
「さて、皆に紹介しよう。これが本物の塩だ。」
俺が言うと同時にユソリナが塩の乗った皿を運んできてくれる。
塩は光り輝いていて、希望の象徴のように見えた。
しかし、皆の考えは違うらしい。
「塩か…食べれるのかなあ。」とユーバ。
「海で泳ぎたかった。」とアカマル。
「ワハハ!安心しろ!まさか食べるはずがあるまい。」とドルトバ。
「いや、食べるのよドルトバ殿。」とロイ。
「…ヒムラ様は…その、なんて言うか…まあ、おバカさんですね。」とレイ。
「全くフォローになってないわよ。」とテルル。
「というか、ここ軍部ですよね?いつから食事研究部になったのですか?」とユソリナ。
みんなの反応は良くないようだ。
ふむふむ。
まあ食べて驚け。
「まあ、そんなこと言わず少し舐めてみろよ。」
と俺が言うと、まずユーバが塩を舐め始める。
ユーバは味を確認すると、目を開いて、
「…おいしい!」
と言った。
それもそのはずだ。
レイに持ってきてもらった例の布で、不純物を極限まで取り除いた塩だからだ。
俺も少し前に食べたが、前世の塩と変わらないくらい美味しい。
ユーバが騒ぎ出す。
「えっ!?塩ってこんな美味しいんだ。みんな食べてみてよ食べてみてよ!」
と興奮し出す。
おそらく今まで味に拘ってなかった人が美味しいものを食べるとこうなるのだろう。
みんなも半信半疑で塩を舐め始める。
「うまっ!」とアカマル。
「…クハア!美味えぜコレ!」とドルトバ。
「美味ね。」とロイ。
「あ…おバカさんって言って申し訳ありません。」とレイ。
「ふ、ふん。ちょっと美味しいからって威張らないで頂戴。」とテルル。
「わあすごい!」とユソリナ。
やはりそんなに違うものなのか。
みんな舐めるのを止められなくなったみたいだ。
ペロペロ舐め始める。
ドルトバは一気に口に入れようとしていたので、慌てて止めた。
なんでこんなアホなんだ、このおっさんは。
さてと…。
「みんな驚くのはまだ早い。これを様々な食べ物にかければ…。」
俺がそう言うと、みんながじっと俺を見つめ、ゴクリと喉を鳴らす。
俺は満を持して、串に刺した鶏肉を出した。
「この鶏肉には塩がかけられている。食べてみてくれ。」
俺はみんなにその鶏肉を勧める。
鶏肉を串に刺して焼き、塩をかけた代物だ。
いわゆる焼鳥である。
これがまずいはずがなく…
「「「旨い!」」」
と一斉に叫ぶのであった。
「気に入ってくれて何よりだ。俺は塩を広めたいのだが、どう思う?」
と聞くと、
「いいですね!それ、何にかけても合いそうだし。」
と、アカマルが真っ先に賛成してくれる。
おそらくこいつはただ美味しいものが食べたいだけなのだろうが。
「酒にも合いそうだしな!」
とドルトバ。
この世界の酒なんてものがあったのか。
今度見てみるか。
まあ、今はその話はいい。
「おそらくシネマ国に輸出する塩の価値も上がりそうですね。」
と、早速皮算用をするユソリナ。
おそらく塩の需要が増え始めることのよって値段が上がる。
うちが儲かるってわけだ。
「でも、こんな美味しいものを世の中に出して大丈夫なの?なんか怖い。」
とテルル。
確かに未知の味に対する恐怖があるのは分かる。
だけど、まあ大丈夫だ!
前世でも塩のせいで世界が揺らぐなんてことはなかったはずだしな。
「ただ、需要が増えると供給が追いつかなくなるかもしれませんな。今度生産部の方に言ってみましょう。」
とメカル。
やはり一番建設的な見方ができるのはお前だよ。
俺はメカルへの信頼度を一層高めたのだった。
さて、ロイレイは…
「ペロペロペロぺ、あ…………………………なんでしょうマスター。」
塩を舐め続けていたレイがこちらに気づき、何事もなかったかのように跪く。
もう遅いよ。
そしてロイは、俺の目線などお構いなしに塩を舐め続ける。
もうそろそろ皿が空になってきそうだ。
そんな食ったら体に悪いぞ。
「おい、ロイ。」
そう俺が呼ぶと、ロイはこちらを向いて短剣を取り出した。
「えっ!いきなりどうした!?」
「マスター、いえ軍師ヒムラ様。私は人生の最後にこのような美味しいものを食べれて幸せです。」
「いきなりどうした!?」
勢い余って同じ言葉を二度叫んでしまった。
自分の人生の最後とか言っていたけど…。
まさかこれお約束的なアレじゃないよな!?
だが、予想通りと言うべきか、ロイは短剣を自分の喉に向けて、
「塩を食べ尽くした罪は、この命を持って償いま…」
「おい待て待て!?」
さすがに止めにかかる。
はあ、なんでこの世界はパラモンドといいロイといい、そんなに命を軽視してしまうのだろうか。
俺は改めてロイに向き直って言う。
「いいか、俺の為に死ぬな。」
「しかし、マスターは私の上司。あなたのために命を捧げたのです。」
そんなに深い思いで仕えてたのかよお前は!?
俺はそんなロイを諭すように言う。
「俺はみんなに死なれたくない。ロイに限った話じゃなくてみんなそうだ。生きろ。」
と俺は皆に教える。
戦争ばっかのこの世界では、命が軽視されがちだ。
ロイレイやアカマルたち、もしかしたらテルルまでも、俺の為に命を捨てる覚悟があるのかもしれない。
だが、前世の感覚ではそれは異常だ。
俺の為に死なれるのは俺が耐えられない。
皆俺の仲間だからだ。
ロイは渋々納得したのか、短剣を下ろし、
「申し訳ありません、マスター。」
と言う。
まあ、わかってくれたのならそれで良い。
…ったく、こんな重い話するつもりじゃなかったんだ。
「まあ、取り敢えず塩に関してはそう言う方針でいく。よろしく頼む!」
「「「はい!!!」」」
と一斉に答える。
やはり仲間とは良いものだ。
俺は改めて実感するのであった。
「やはり、実験の結果は予想通りだな。」
ここはある研究室。
一人の男、仮にX氏としよう。
そのX氏が資料を持って呟いた。
「食欲に関する制限を解除しよう。」
そう言ってX氏は巨大なコンピューターにプログラムを打ち込む。
X氏はエンターキーを押した。
「ヒムラ…いや、黒澤飛村に関しては予想通りだな。」
そう言ってX氏は大笑いするのだった。
さて、塩という革命的なものを開発してはや3日。
王都にはたくさんの美味しい料理が並び始めた。
やはり塩をかけるだけでも美味しくなるものがたくさんある。
そして、何よりも料理の概念について天人が学び始めたのかは知らないが、塩以外の美味しいものも沢山作られ始めた。
まだまだ前世に比べると途上だが、これから発展していくのだろう。
というか、いきなりみんな食に興味を示しすぎじゃないか?
なんか不自然だ。
…まあ、気のせいか!
そして輸出に関しても上々だ。
ユソリナの見事な交渉のおかげで、シネマ国との貿易の利益が数倍に跳ね上がった。
パラモンドが気の毒だが、まあ良いだろう。
そして、地味に俺が一番楽しみにしていた酒だが…。
ドルトバが、
「酒!?ヒムラ様の年齢じゃ飲めませんぞ!?」
と驚かれた。
年齢制限あるのかよ。
何故食事もまともに美味しくない世界に、わざわざ酒の年齢制限があるのかと嘆かずにはいられない。
「まあ、大人になったら飲み交わしましょうぞ!」
と、爽やかな笑顔で酒場に足を運ぶドルトバ。
俺は恨めしげな顔でドルトバを睨む。
くそっ、おのれ…。
「覚えてろよおおーーーーーー!!!」
さて、2章は4/4から始めます。
内政と戦争を半分半分くらいにした感じに多分なります。
この小説を読んで、いいなと感じたら、下の☆☆☆☆☆で評価をお願いします。
励みになりますので、是非。