一章 第二十四話 シネマ戦後
今日は二話投稿します。
これは二話投稿の一話目です。
二話目は19:00ごろあげます。
俺たちはクロノオに帰ると、早速兵を解散させた。
なんか兵士たちは報酬とかいらないの?と思ったが、どうやらいらないらしい。
兵になったもののほとんどが農業を営んでいて、貨幣はいらないのだとか。
というか農村に貨幣文化が浸透していないのは大きな問題だ。
なんとかして報酬を与えないと、兵の意欲が下がる一方だ。
これからは、徴兵された人のところは税率を下げるとかしていきたい。
俺は鎧などを脱ぐと、国王グランベルの元に急ぐのだった。
「ほう、大儀であった、ヒムラよ!」
「はっ!王よ、今回の賠償金は如何程の額を巻き上げれば良いのでしょうか。」
俺は跪いて、グランベルに質問してみる。
グランベルは、
「そうだな。」
グランベルは悩むそぶりを見せて、
「マーチよ、二人にしてくれないか。」
と言う。
すると、王の側に控えていたマーチと呼ばれた男が、敬礼をして退出する。
マーチとは、王の護衛として控えている、大柄な男である。
体術に関しては一流であり、何よりクロノオ、ひいてはグランベルに対しての熱い忠誠を誓っている。
俺は二人っきりになった部屋で、グランベルに聞く。
「彼を外に出して良かったのですか。」
「ああ、奴は我を神格化しすぎている。気安く貴様とも話ができん。」
別に俺は気安く話してもらわなくてもいいのだが。
王に気に入られるというのは良いことなのだろうか。
なんだか危険な予感しかしない。
「では、王よ。賠償金の話から。」
「うむ。」
そう言うと俺は説明を始める。
「前回の戦争では、直接の賠償金は支払いませんでした。賠償金の話し合いをする会議で、宣戦布告をしたからです。」
「全く。軍部もやってくれるものよ。そう言うことは我に相談してからやれ。」
「すみません、王よ。」
だが、俺にはそれはできなかった。
グランベルに伝えれば、そこからシネマに伝わる可能性があったからだ。
俺が考えるに、グランベル王の周りには様々な国の間者がたくさんいる。
シネマ国を攻めると言う情報も、グランベルが俺に伝えたものだし。
漏洩し放題である。
なんとかして欲しいものだ。
だが、おそらくあのマーチという男は違うのだろう。
どうやら本気で王に忠誠を誓っているようだし、グランベルも信頼しているように見えた。
俺は続ける。
「では、話を戻すと…、直接の賠償金はありませんが、こちらが奪われた食料、殺された兵、今回の戦の経費などを考えれば、金貨100枚程度でしょうか。」
金貨100枚、前世の考えではおよそ一千万円。
相当安いのではないだろうか。
俺の記憶では、第一次世界大戦のドイツの賠償金は10兆円ほどまで上ったそうだし。
それと比べれば些細な金額だと思う。
だが、グランベルは反対する。
「それは少なすぎるのではないか?兵たちの不満も爆発しそうだが…。」
「それは心配に及びません。褒美はこちらで用意しましょう。」
そう言うとグランベルは戸惑う。
「何を渡す気だ?物にしても金にしても、わざわざこちらで用意する必要はなかろう。シネマから奪えば良いであろう。」
確かにその通りだ。
だが、シネマ国とは共存関係を結んでいきたい。
シネマ国は魔人の国と接している。
シネマ国には国境の防衛をしてもらいたいのだ。
「今回賠償金をたくさん取れば、シネマ国はまた攻めてくるでしょう。これからは共存関係を結んでいきたいのです。」
俺はグランベルに進言する。
「なるほど。では好きにするが良い。」
グランベルは、そこら辺の仕事を丸投げした。
「さすがに丸投げは…。」
「良いであろう。我も忙しいのだよ!ガハハ!」
このおっさん、全く罪悪感を感じてないようだ。
まあいいや。
俺一人でそこら辺はまとめるか。
グランベルが
「では、ヒムラよ。兵への褒美はどうするのだ。」
と尋ねてくる。
ここが重要なのだ。
「私は、今回限りを持って、非常時以外の徴兵を廃止することを褒美とするのがよいかと。」
「…徴兵を廃止!?どういうことだ!」
グランベルは混乱したように、声を荒げて俺に聞いてくる。
「王よ、この世界で勝ち抜くためには、常備兵が必要なのです。弱い兵をたくさん集めるより、強化した兵を少数集めた方が勝てます。」
今回のレイのように、スキルや加護を使えば軍単位の戦闘力を生み出すことができる。
それに前メカルが言ってた、100人ほどで10万の軍を圧倒できる集団がいるという噂もそうだ。
個人の強さがものを言うこの世界で、徴兵制は向いていない。
グランベルは納得したように頷くと、
「では、貴様はこの国でも精鋭揃いの軍を作りたいと言うのか。」
「その通りです。この私にお任せください。」
グランベルは一瞬考えるような仕草をしたが、すぐに諦めるような顔をして、
「わかった、貴様の勝手にするが良い。」
考えるのを放棄したな。
どうもグランベル、軍に関して考えることは苦手なようである。
どうやってここまでやってこれたのと、言いたいところである。
「ありがとうございます。」
俺は礼をして、退出する。
さて、戦後処理とは大変なものである。
それを行うための軍事会議を俺は開こうとしていた。
「さて諸君。皆がここに集まってくれたことを感謝する。」
俺はいつもの軍部のメンバーに向けて大仰に言い放った。
「…何よ大袈裟に。」
テルルに突っ込まれる始末。
何かにつけて突っ込まないと気がすまないのかこの小娘は。
「まあ、今回の議題は戦後処理である。我々は戦に勝った。その賠償金についての話し合いをしたいと思う。」
「で、如何程の額を巻き上げればよろしいので?」
ユソリナが上品に聞いてくる。
今回の戦後処理協議で交渉役を任されているのはユソリナなのだが…。
「まあ、俺の考えは金貨100枚くらいかな。」
「それは少なすぎるのではありまして?」
ユソリナが当然とでもいう風に答える。
ユソリナは初仕事で張り切っているのか、どんどん額を上げたがっている。
どうも自分の交渉術を見てもらいたいだけのようなのだが…。
そんなに張り切られても困るのだが。
「いや、シネマ国とは貿易を結びたい。クロノオは今まで貿易をせずに生きてきた国家だが、そろそろ貿易を始めてもいい頃だ。その初めの相手としてシネマ国とは仲良くしたい。無理に賠償金を取るより、そっちの方が後々儲かる。」
俺は長々と説明する。
俺がこの世界にきて驚いたことは何個もあるが、そのうちの一つがクロノオが貿易をしてこなかったということだ。
グランベル曰く「そんなチマチマしたのは必要ない!」だ。
だが、暮らしを豊かにするためには貿易が必須だ。
「今回の戦をきっかけに貿易をこの国でしたい。異論はあるか?」
俺は皆に問うと、ユーバが恐る恐る手をあげた。
おっ!何か建設的な意見を…。
「貿易とは、なんでしょう。」
「…。」
静まり返る一同。
俺はもうこのお子様に対しては諦めの姿勢を取ることに決めた。
仕方なく俺は懇々と貿易について説明する。
ユーバは納得したように顔を輝かせると、ドタバタと自分の席に戻る。
軍部には未成年が多いが、性格的な子供はユーバと、かろうじてテルルだろう。
あ、アカマルを入れても良いんだぞ?
まあ、それは良いとして、ユーバには教育しないとなと心に決める俺。
「さて、では何か異論はあるか。」
そう言うと一同静まり返る。
まあ、貿易初めてのこの国の人たちが、その良し悪しについてわかるわけがない。
唯一わかってそうなメカルも異論はないみたいだし。
「じゃあ、賠償金に関しても金貨100枚でいいな。」
「精一杯頑張らせていただきます。」
ユソリナはそう言うが、不満そうだ。
…俺に隠れてお金を巻き上げたりしないだろうな。
「金貨100枚より大きな額はもらうなよ。」
「えっ…あっ、はい!そんなわけないじゃないですか!」
ユソリナが慌てたように言う。
こりゃふんだくろうとしてたな。
ユソリナは最初に会った時からどんどん性格が変わっていってるような気がする。
最も性格を変えたがったのは俺だが、それにしても一気に変わった気がする。
意外と今までは猫被っていたとか。
怖いな。
「まあ、そう言うことで、細かいことはユソリナに任せて、解散だ。」
「「「はい!!」」」
皆が一斉に頭を垂れる。
さて、俺はそろそろ行かなければならない。
今回の戦争で奪い取った領地の一部分。
俺の村だ。