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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第一章 転生と軍師
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一章 第二十三話 対シネマ戦5

 俺はパラモンドのもとに近づいていく。

 俺はパラモンドが苦しそうにしているのを見て、


「レイ、パラモンドだけスキルを解除しろ。」


 と言う。

 レイがスキルを解除すると、パラモンドの周りだけ空間の歪みが消えて気持ち悪い虚像もいなくなる。

 

 まあ、とりあえずはこれで良しだ。

 パラモンドの体調が良くなったら話し合いをしたいところだ。


 俺は蹲るパラモンドに向けて言う。


「おい、この戦争、クロノオの勝ちだ。酔いが覚めたら話し合おう。」


 そう言うと、パラモンドは目を見開いて俺を見る。

 おそらく自分が負けだとはまだ確信してはいなかったのだろう。


 しかし、シネマ軍の半分は殺され、残りは捕虜となっているか、ここで蹲っているかだ。

 誰の目から見ても勝敗は決している。


 俺たちがやるべきことは、戦後処理をきちんとやって家に帰ることなのだ。




 パラモンドはもともと小さな貴族の子供だった。

 武術、魔法などは平凡だったが、頭は良かった。


 そしてある日、パラモンドはカスタル王にゲームをしないかと誘われたのだ。

 それはパラモンドがまだ15歳ほどの青年の時だ。

 聞くに、それは最近シネマ国の貴族の間で流行っている盤上のゲームだ。

 パラモンドはそのゲームでは負けたことがなかった。

 おそらくカスタル王とゲームをしても勝ってしまうだろうと考えた。


 仮にもこの国の王を負かしては良くない気がして、王の申し出を断ろうとした。

 しかし…。


「何を言う。貴様、王の命令なのだぞ!」


 いきなり怒り出すので、渋々ゲームに付き合ったのだ。

 面倒な相手だ、と思ったのを覚えている。


 結果はパラモンドの圧勝。

 手を抜く暇もなくゲームは終了した。


 これではまずいと思ったパラモンドが謝ろうとすると、いきなりカスタル王が立ち上がって、


「貴様、パラモンドといったな。よかろう。そのゲームの才能は本物だ。余にゲームを教えろ!」


 なんとこのゲームの教官になれと言い出したのだ。

 パラモンドは断ろうとしたが、カスタル王の目を見て、考えが変わった。


 あれは、パラモンドを信頼している目だ。

 弱小貴族の子供だと見下す目ではない。


「…わかりました。このパラモンド、全身全霊でお教えいたします。」


「よかろう。」


 カスタル王についていくことに決めたのだ。




 それから何十年も時が経った。

 ゲームの教官から、いきなり軍事を司る役所に行けと言われた時は流石にビビったが、それでも役割を全うしてきたつもりだ。


 パラモンドはカスタル王を好ましく思っていた。

 この、無駄がたくさんあり、無駄使いもたくさんしてしまうカスタル王に、救われてここまできたのだと思っていた。


 その恩を返すために今回の戦も仕掛けたのに、結果はこの有様だ。


 シネマ軍全員は地面に倒れ伏し、パラモンドも、そしてカスタル王もまた倒れていた。

 

「レイ、パラモンドだけスキルを解除しろ。」


 その声が聞こえたと同時に、周りの視界が一気に晴れていく。

 まだ気持ち悪さは残るが、なんとか上を向くことはできた。


 そこには少年がいた。

 スカイブルーの髪で、美しいと言わざるを得ない顔立ちをしていた。

 身長からしてまだ10歳程度。


 その少年が言う。


「おい、この戦争、クロノオの勝ちだ。酔いが覚めたら話し合おう。」


 クロノオの勝ち…シネマの負け!?

 嘘だろう!?

 

 一瞬戸惑ったが、ようやくパラモンドは理解する。


 俺は負けた。

 カスタル王に捧げようとしていたものを壊してしまった。

 パラモンドは、まだ蹲るカスタル王に目を向けて、


「俺は、王の恩を、こんな形で返してしまった。」


 パラモンドは呟く。

 ただただ申し訳がなかった。

 パラモンドは意を決して、少年に向き直り土下座をした。


「クロノオの軍師様!どうか、どうか王のこの苦しみを解除してはもらえぬでしょうか!我が命に替えても!」


 必死の思いでパラモンドは頭を地面につける。

 目を瞑り、顔に滴る汗を滲ませながら、深く、深く土下座をする。

 自分の失態で、カスタル王が苦しむのが耐えられなかった。


 少年は一瞬呆けた顔をすると、


「ああ、そうだな。この人たちもかわいそうだし。レイ、全員解除だ。」


「よろしいのですか。」


「ああ、多分大丈夫だ。この人たちはもう俺たちに反抗してこないだろう。それにパラモンド、お前の命なんていらねーよ。」


 そう言うと、瞬く間にシネマ兵全員が苦しみから解放される。

 パラモンドは驚いた。


 こんなにあっさり解除してもいいのか。

 俺は生きててもいいのか。


 身体を起こし出したカスタル王を見て思う。


 もしかしてこの軍師は、クロノオ軍師ヒムラはとても優しいお方なのかもしれない。

 パラモンドはヒムラに対して、畏敬の念を抱くのであった。




「さて、戦後処理としたいところだが、こちらの条件はひとつだ。」


 俺はパラモンドとカスタル王を見て言う。

 どちらを俯いている。

 二人とも俺たちに反抗する気持ちは失せたらしい。


 俺は続ける。


「…シネマがこちらから奪った領土の返還を求める。」


 そう言い放った。


 パラモンドは目を見開いて俺を見る、さっきから驚きすぎだよ。

 恐る恐るパラモンドは手を挙げて、


「それでは、我々の命は…。」


「ああ、命。いらないって言ってるだろ。別に俺たちはシネマを滅ぼすために戦争を仕掛けたわけじゃない。領土を取り戻すために戦争を仕掛けたまでだ。捉えた捕虜も返すつもりだ。」


「なんと…!」


 何故かパラモンドはまた驚き、カスタル王は泣き出す始末。

 

 何この絵面。


「だからお前たちは俺たちの領土から手を引いてさっさと帰れ。賠償金に関しては後で使者を派遣する。これも奪った分を返してもらうだけだがな。」


 一方的に告げて俺は帰ろうとすると、パラモンドとカスタル王が俺を呼び止める。

 なんだろうと思って見てみると、二人とも俺に向かってお祈りを始め出したのだ。


 あれか?制裁が緩かったから、俺を神かなにかと勘違いしているのか?

 なんか変な気分だ。


 まあ、とりあえずは領土を返してもらうだけでいい。

 何しろこちらはすでに七千の兵を殺しているのだから。

 これによってシネマの国力は落ちただろう。

 もうこちらに向けて牙を向けてくることはない。


 俺は空を見上げて思う。

 やっとここまできたんだ。 

 自分の怒りが、村を襲われたときの憎しみが、徐徐に引いていくのを感じた。

 手に残ったのは達成感だった。


 さて、そろそろ俺たちも終わらなければならない。


「さあ、行くぞお前ら。」


 俺は軍部のみんなに声をかける。


「ああ!」とアカマル。

「勝ったねー。気持ちいいねー!」とユーバ。

「まあ、認めてあげるわよ。」とテルル。

「「承知」」とロイレイ。

「帰ったら宴ですな。」とメカル。


 あれ、一人忘れているような…。


 まあ、いいか!


 そう言って俺は軍を引き連れてクロノオに帰ることにしたのだ。




 その頃、シネマ国首都カスタルでは…。


「あれ、シネマの兵が来ないな。先を急ぎすぎたか?」


 ドルトバが待ちぼうけを喰らっていた。


「ヒムラ様からなんの連絡もないし…。」


「そうですねドルトバ様。きっとシネマ軍はやってくるはずです。その時に戦果を挙げてヒムラ様に訓練の成果を認めてもらいましょうぞ!」


 というのは、騎馬隊副官トランクである。


「そうだな!この戦に勝って祝酒をたっぷり飲むぞ!」


 と勢いづくドルトバ。

 その頃、ヒムラは帰り支度を始めているのだが、そんなことは露知らず。

 ますます兵の指揮を高めるドルトバだったが…。


 その後、ドルトバのことを思い出したヒムラがロイをドルトバの元に行かせた。


「どうしたどうしたロイ嬢ちゃん。なんかあったの…。」


「私を気安く嬢ちゃん呼ばわりしないで。」


 と、一蹴される始末。


「ったくこれだから年頃の女は。で、どうなんだシネマ兵。ここに向かってくるんだろ。迎え撃つ準備万全だぜ!」


 そう言うと、ロイは哀れむような目をこちらに向けて、


「戦争は終わったわ。」


「…は!?」


「戦争は終わった。レイが三千の兵を倒した。」


「…今なんて?」


「何度も聞き返すなど言語道断。死になさい。」


 ロイに相当馬鹿にされたが、ドルトバはそんなことよりレイが三千の兵に勝ったというという事実を飲み込めないでいた。

 恐る恐るトランクがドルトバに尋ねる。


「てことは、僕たちこれでお役御免、ですかね。」


「くそがあああーーー!!」


 せっかく活躍しようとしたのに。

 そうドルトバは悔しがると地団駄を踏み始めた。


 それをロイが見て、不快そうに眉を寄せる。

 トランクはなんとかそれを宥めようと必死になる。


 ドルトバの叫びは、もうしばらく続いたのだった。


これで戦争終了です。

もう少しで『神速の加護』来ます。

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