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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第一章 転生と軍師
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一章 第二十二話 対シネマ戦4

 敵の兵が一目散にブライ平原から逃げ出す。

 作戦通りというところか。


「よくやった!ロイ、レイ、テルル。」


「「ハッ!」」


 ロイレイが跪く。

 ロイには、敵の部下がパラモンドに首都襲撃を伝えたことを知らせてもらった。

 そのタイミングを見計らって俺たちは緑魔法を使ったのだ。


「はあ、じゃあ魔導隊の指揮権は返してもらうわ。」

 

 テルルが不服そうに言う。

 緊張感が解けたのか、作戦が成功したことが気に食わなかったのか、俺に対しては仏頂面だ。

 反抗期なのだよ仕方がない。


「ああ、そのつもりだ。アカマル!」


「ハッ!テルル殿、約束通り主導権を返そう。」


「あっ、アカマルさん。テルルでいいですよ。」


 テルルがやはりアカマルに対して照れる。

 とりあえずはこれで良しとするか。


「では、総員。作戦は終了だ。これから追撃を開始する。行け!」


「「「おう!!」」」


 兵士達も頼もしくなってきたものだ。

 俺は馬に乗り、前を見据えて言う。


「シネマ国、引導を渡してやるよ。」




 クロノオ軍は逃げるシネマ国軍の追撃を開始した。


 まず、ドルトバ率いる騎馬隊が先回りをして足止めを行う。

 そしてテルルの指揮で魔導隊が撹乱を行い、シネマ兵を混乱させる。

 最後にユーバの光の矢印でシネマ軍を攻撃する。


 面白いようにシネマ軍は壊滅し、さらにはこちらの死傷者はほとんど見られなかった。

 やはり気持ち的な問題で、クロノオが勝っていたのだろう。


 さて…。

 俺はシネマ軍の中からパラモンドを探したが、見つけられない。

 パラモンドだけ逃げたのか?

 まさか作戦に気づいて首都は安全だと考えたのか?

 パラモンドが首都に篭ると、籠城戦となってしまう。

 もう勝ち同然の俺たちからすると、これ以上戦争したくないのは山々なのだが…。

 

 シネマ軍の数を見るに、三千程の兵が足りないように思えた。

 やはりパラモンドは籠城する気なのかもしれない。


 その前にパラモンドに追いついて、追撃を仕掛けなければ。

 俺はドルトバを呼び寄せ、命じる。


「お前には首都へ逃げたであろうパラモンドの追撃を命じる。三千程の軍だが、足止めだけで良い。」


「わかりましたぜ!」


 そして、


「ロイ、レイ!」


「なんでしょう、マスター。」


「パラモンドが逃げた方向を確かめろ。発見したら足止めを行え!」


「了解しました。」


 レイが返事をして、ロイがすぐに影に潜ろうとする。

 

 パラモンドはおそらく首都に逃げると考えたが、万が一も考えてロイレイに探らせた。

 地図を広げてみると、近くで籠城できそうなところは首都の他に一つ砦があるのだ。


 その砦はミークス砦というらしいが、地図を見る限り大した砦ではない。

 簡単に落とせてしまうだろう。

 それに相手は籠城用の道具、武器、食料を用意していない。

 常に生産することのできる首都と違い、一瞬で決着がつくだろう。

 わざわざここに逃げ込むとも思えないが…。


 俺は様々な敵の行動パターンを考えるが、とりあえず今は目の前の敵に集中するべきだと考え、指揮を取り始める。

 クロノオ軍全体が息あった連携を見せて、ブライ平原での戦はクロノオ軍の快勝に終わった。

 

 こちらの損失は千人程度、それに対し相手の損失は七千ほどとなった。

 この失った千人程度の命に対して、悲しみは湧いてこない。

 俺にとって、その数字は少なく見えてしまったからだ。

 予定通り進んで、命の損失を抑えることができた。

 

 このことに喜んでしまう自分がいた。


 俺も、この世界の考え方に染まっていったのかもしれない。

 それを少し寂しく思いながらも、今はパラモンドとの戦いに向けて作戦を考え始めるのだった。




 シネマ軍のほとんどはクロノオ軍に殺されたか、降伏をしたかだ。

 しかし、三千のクロノオ兵はパラモンドの指揮下でミークス砦に向かっていた。

 この三千の兵は、首都カスタルに対して特別思い入れは強くない人たちなのだ。

 つまり、首都襲撃の誤解が解けたわけではないので、未だに首都カスタルは危険地域だと考えている節がある。

 

 だからパラモンドは首都で籠城戦をすることも出来なかった。

 兵がそこに行きたがらなかったからだ。

 首都襲撃の誤解をパラモンド自身が説明したのだが、兵は納得してくれなくて、仕方なくミークス砦に向かっている。


「ただ、おそらく俺たちの逃亡に気づいたヒムラはおそらく首都に向かうだろう。そういう意味では成功かな。」


 パラモンドは一人ほくそ笑むと、100人ほどの魔法使いに


「今まで通ってきた道の地形を変えて、少しでも通りにくくしろ!」


 と、命ずる。

 言われた通り魔法使いは地形を変えた。


 しかし、それはロイの『影の加護』の前には無意味だ。

 なぜならロイが影に潜ると、地形を無視して移動できるからだ。


 そして、

 シネマ軍三千の前に、二人の少女が突如姿を表した。


 パラモンドは警戒して、シネマ兵に命じる。


「止まれ。」


 少女の登場を不可解に思いながらも、道を開けてもらうために軍をとまらせる。


「姉様、ヒムラ様に報告を。」

 

 少女のうちの一人がもう一人に言うと、彼女は影に潜る。

 突如消えた少女にシネマ兵は騒然となったが、パラモンドはそんなことよりも、少女の口からクロノオ軍師の名が出たことに驚いていた。


「…つまり、貴様はクロノオ側ってわけか。」


「はい、そうです。貴方達の足止めを任されました。」


「ほう。だが所詮君は少女だ。何をするって言うんだ。」


 パラモンドがそういうと、少女は小型のナイフを構え出す。


「ははは!それでこの三千の兵を足止めすると!?馬鹿げている。できるものか。」


 パラモンドはそう言うと、


「進軍しろ!目の前の少女を気にするな!」


 と指揮を取る。

 完全に舐めてかかっていたパラモンドだが、少女、レイもわざわざ全員を殺しにきたわけでもない。

 レイは体勢を低く保つと、パラモンドまで一瞬で間合いを詰める。


 しかし、馬に乗っていたパラモンドは高笑いをする。


「その身長では私を切ることはできんよ!」


 しかし、レイはパラモンドではなく、馬の足を切り出した。


「うわっ!何をする!」


 馬は4本の足が3本になったことで自身とパラモンドの体重を支えきれなくなり、倒れてしまう。


 レイはそのまま続けてシネマ軍の全ての馬の足を切ってしまった。

 あたりは一瞬で血の海となり、早速シネマ軍は足止めを食らってしまう。


「くそっ!貴様何が目的だ!」


 レイはパラモンドを振り返ると、


「足止め。」


 とだけ答える。

 そのレイの顔には恐怖や喜びの感情など何もなく、ただただ無表情だった。


 パラモンドは戦慄した。

 馬の、動物の足をなんの躊躇いもなく切り落とす10歳ほどの少女。

 年と行動が釣り合わない。

 異常だ。異端だ。狂人だ。

 悪魔だ。


 人の皮をかぶった悪魔のようだ。


 パラモンドは必死に叫ぶ。

 

「馬から降りろ!歩いて進軍だ!」


「させない。」


 レイが静かに呟くと、あたりは歪み始める。


「なんなのだこれは!?」


 パラモンドは景色の歪み具合に吐き気を覚えて、地面に蹲ってしまう。

 周りの兵も皆倒れ出す。


 レイのスキルである「空間変形」で歪みを作り、「虚像」であるものないものを作り出す。

 ただでさえ血の海と化した状況なのに、さらに気持ち悪さを追加した状態だ。

 屈強な精神力がなければ耐えられない。


 シネマ軍の大半は地面に倒れて吐き気を抑え、中には吐瀉物を出すものまでいる始末。


 あたり一帯は地獄と化す。


 そのなかでレイは一つため息をつくと、


「ヒムラ様はいつきてくれるのでしょうか。」


 と、物憂げな顔をするのであった。




 俺はロイからの報告を受けて、ミークス砦に向かっていた。

 砦に逃げ込まれると少々厄介だ。

 そうそうに蹴りをつけてしまいたい。


 ロイが通った方向に向かって進軍を続けると、


「あっ!ヒムラ様!足止めしておきました。」


 と、普段見せない明るい笑顔でこちらを見るレイがいた。

 おう、ありがとよ!と言いたいところなのだが…。


「…この状況はなんだ?」


 この状況とは、レイの後ろで起こっている凄まじい光景のことである。


 まず、そのあたりが明かに歪んで見えるのだ。

 辺り一面血で染まっている。

 そして、お化け?と言うのが正しいのだろうか、禍々しいものがシネマ兵達を襲っている。


 レイは平然と、


「足止めです。」


 と答える。


 やりすぎだろう、どう考えても。

 どうやらレイのスキルをフル活用するとこうなるらしい。

 一応、レイの実力は知っているつもりだった。

 しかし、認識が甘かったらしい。

 さすがにレイでも三千の軍を足止めできるとは思わなかったけど、足止めどころが倒しちゃってるよ。


「レイ。」


「なんでしょうマスター。」


 レイが褒めて欲しいと言わんばかりの顔で返事をする。


「あのな、これはちょっとダメだ。」


「…えっ。ダメとは…?」


 レイは首を傾げる。

 すると、ロイがレイの肩をトントンと叩き、


「レイ、きっとヒムラ様はこの程度では足りないと仰せだわ。」


 と言う。

 え、ちょ!?


 レイも、霧が晴れたとでもいいたげな顔をし、


「そうでしたか姉様。申し訳ありませんヒムラ様。もう少しスキルの効果を強めて…。」


「おいおいそれは流石にやめとけ!?結構辛そうだし。」


 俺は流石に止めにかかる。


 この姉妹、外に出しちゃダメなタイプだった。

 知りたくないことを一つ知り、成長したと感慨にふけるべきか迷う俺。


 まあ、そんなことはよしとして、


 この戦争を終わらせるため、俺は蹲ってるパラモンドのもとに歩いて行くのだった。



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