一章 第二話 ファンタジーのお約束
そこに広がっているのは、限りなく続く草原だった。
まるでファンタジーの世界に入り込んだように綺麗な景色。空気は澄んでいて、少し強い風が草を優しく撫でる。遠くに広がるのは山脈。頂上に雪が降り積もっていて、なるほど神秘的な光景だ。
俺は、辺り一面をぐるっと見渡し、少しばかり考え込んで思った。
これって…
「異世界転生だーーーーーーーーーーーーー!!!」
俺は確かトラックに轢かれて、苦しんでいたところだったはず。
痛い痛いとうめき続け、ふと痛みがひいたと思ったらこれだ。
周り一面の草原、神秘、秘境。壮大な風景は、天国のようだ。
いや、もしかしたら天国なのかもしれない。
まあそれはそれでいいんだけど、やっぱりワクワクドキドキの止まらない異世界ファンタジーがいいよね。
天国はなんだか暇そうだ。
俺は、辺りをもうひと回りぐるっと見渡し、佇んでいる女性を発見した。
あの人に話しかければ、何かわかるかもしれない。
なんて声をかけよう。ここはどこですか?かな?いやでもそれはありきたりすぎる。ここは天国ですか?うん、悪くない。でも、もう一捻り欲しい。
そうだ!女性に声をかける。
「えっと、すみません。貴方って実は天使だったりします?」
これだ。情報を聞き出せかつ粋なジョークで女性を笑わせる。我ながら素晴らしい。
できれば否定して欲しいな、と思いながら返事を待つと、
「何を言ってるの?私もヒムラも天使の使徒じゃない。」
と返される。大真面目に受け取られ、しかも事実だったらしい。
へぇ、僕も天使なんだー。と惚けたり、異世界転生じゃなかったかと落胆したり。
心の中で右往左往して、納得した。
ここは天国なのだ。
やっぱり俺は死んだのか。
前世に残してきた未練はそんなないけど、やっぱり少し悲しいな。
「じゃあやっぱりここは天国ですか?」
そういうと、女性は驚いた顔をして、
「何を言ってんの、ここは現世よ。それにヒムラなんか変よ。親に対しての言葉遣いじゃない気が…」
ん!?親?
僕は貴方の親だったの?貴方の息子?明らかに俺の方が年齢が高い気が…
と思って自分の姿を見てみると、なんと明らかに身長が低い。
髪の毛は長くスカイブルーの色。
体は貧弱になっており、股間の毛もまだ生えていないようだ。
そして目の前の女性が親、母親、そして自分が少年になっている。
そしてその事実をおそらく女性、母親は知らない。
俺は長い間考えて、わかった、
俺は死亡し異世界に転生、そして誰かわかんない少年に憑依していた。
そしてどうやらその少年の名前もヒムラらしい。
んーとこれはー?
「ごめんお母さん少しぼーっとしてた。」
「うん、まあとりあえず村に帰りましょう。」
この人についていくのが正解だろう。
俺は暫定お母さんについて行き、みんなが住んでいるという村に連れて行ってもらった。
俺は歩いている間、自身の転生について考えていた。
俺はヒムラという少年に憑依してしまったらしい。
その子のお母さんが今目の前にいるのだが。
どう見ても人間。そしておそらく自分も人間。
じゃあ、俺が貴方は天使ですか、と聞いた時、なぜ、天使の使徒と答えたのだろう。
まさか人間は皆天使の使徒であるという敬遠な宗教の信者なのだろうか。
一応聞いてみる。
「お母さん。僕たちって人間なの?」
「…ニンゲン?なんのこと。私たちは天使の使徒、天人よ。」
「…テンジン?」
テンジン、テンジンかぁ。
天に人と書くのだろうか?
種族なのだろうか。
人間とは似て異なる種族なのだろう。
なんだか変な世界に舞い込んだなぁ。
天使の使徒、天人。
なぜかしっくり来る。
まあ基本的に天人は人間のようだし、特にその誤差に関しての弊害はなさそうだ。
「貴方にはあまりこの世界のことを教えてなかったかもね。帰ったら聞かせてあげる。」
「ああ、ありがとう」
どうやらお母さんから説明してくれるらしい。
これは好都合だ。第一関門突破という感じがした。
そして
まだ目が慣れないほどの美しいファンタジーの世界に見惚れながら、この世界でどうにか生きていくことを決意したのだった。
ある時、世界に天使と悪魔の2つの種族が生まれた。
それぞれ7人。
そして天使はやがて子を生み、天人と呼ばれる種族が生まれた。
反対に悪魔の子供は魔人と呼ばれている。
天使と悪魔を生み出した存在に関しては議論がされていて、神の子だとか大地の子だとか、太陽の一部分だとか。
まあそこらへんはあやふやになっているらしい。
重要なことはそれではなく、その天使と悪魔を、ひいては天人と魔人を生み出した神とやらは、どうも二つの種族を争わせたいらしい。
天人と魔人は幾度と争ってきた。
互いが互いを見ると嫌悪感を覚え、この世界から排除しなければなどと考えるように設定(洗脳かな?)されているようだ。
一般に天人は善意を心に宿し、魔人は悪意を心に宿すとされている。
ただ、それは表面的なもので、天人であってもひどいことを、魔人であっても良いことをすることもあるんだとか。
この世界にも国家に概念は存在していて、魔人の国家、天人の国家は衝突が絶えない。
世界大戦なんてものも起こるらしい。
なかなかカオスな世界に放り込まれたな、俺。
ちなみに今俺がいる国はクロノオという天人の国家らしい。
隣接している国家はすべて天人の国家で、故にここしばらく戦争はないらしい。
そんなようなことを母親から話され、自分で咀嚼しながら考えていると、母親がお粥を持ってきてくれた。
まぁあったかい。これで美味しいといいんだけど、と考えながら食べる
ゴクン
ん?なんだこの粉は、うっ…まずい。
よく見ると、想像を超える代物がお椀の中に入っていた。
これは、
「小麦…の粉か?」
とてもまずい。
もちろん覚悟はしていたよ。
異世界は基本的にまずいものしかない。
そんなのラノベをよく読む人からすれば常識だ。
そしてそれを改善していくのが異世界転生の醍醐味だ。
しかし、お湯になんと小麦の粉を入れただけ!これが信じられるだろうか。
おそらく小麦の粉はそのまま食べれないからお湯に入れてしまえ!などという浅はかかつ無脳な考えで作られた料理なのだろう。
確かに小麦の粉が食べられるようになってる。
ただ、食べられるだけだ。全くうまくない。
まさか、こんなご飯しか出ない世界で生きていくんじゃあるまいな!?
さすがに今日のご飯がたまたまそれだったと信じたい。
しかし、その俺の願いは叶わぬまま、俺はこの村で生活していくことになった。
実は次話ではいきなり1年ほど時間が経過します