一章 第十九話 対シネマ戦1
今日は二話投稿します。
15:00ほどに第二十話を投稿します。
戦争は始まった。
場所はブライ平原、シネマ軍とクロノオ軍が睨み合うその場所で起こった爆発を合図に両軍は激突する…はずだった。
しかし、両軍は動かないまま。
パラモンドは予め罠を仕掛けていて、相手が攻めてきたらそこにはまるように仕組んであった。
もちろん自軍が罠にハマることがないように、シネマ軍は動かさなかった。
そしてヒムラは、今回の戦は時間稼ぎであると口を酸っぱくして兵たちに教えていた。
相手が攻めてこないのなら自分たちは攻めなくて良いと伝えていた。
つまりは膠着状態。
魔法による攻撃が何発か確認されたが、全て相手の結界によって塞がれてしまう。
ブライ平原での戦いの一日目は睨み合いで終わってしまった。
「はあ、消化不良って感じだな。」
ドルトバが愚痴を零す。
「うーん罠を解除できないの?」
ユーバが名案とでも言いたげな目で俺を見てくるが、残念ながら罠の種類が分からない以上難しい。
「いくら時間稼ぎとは言っても、兵の鬱憤が溜まってくるとまずいしな。」
アカマルが言う。
「相手が手を出してくるまで待つしかないのじゃろうけど。」
メカルが零す。
相手が手を出すまで待つか…。
相手に手を出させれば良いんじゃね!?
と、ここで俺は作戦を思いつく。
というか、さっき思いついた作戦の応用なのだが…。
「相手を煽れば良いんじゃない?紙に相手を煽るような文言を書いて、それを渡す。そうすれば相手が怒って手を出してくるだろう。」
「でも、どうやってその紙を届けるのですか?」
アカマルが問う。
「ふっふっふっ、緑魔法で届けるのだよ。」
緑魔法で風を作り、相手を煽る手紙を届ける。
それによって相手は怒り、勝手に攻撃してくるはずだ。
相手は罠を張っているという優越感があるので、すぐに乗ってくるはずだ。
それによって、この膠着状態を打破する。
これは本来もっと先に使う予定だったが、まあ良いだろう。
「文言を届けるのはどこか一箇所だけで良い。あまりにばらまくと相手の司令部に見つかるかもしれない。アカマル、魔導隊に緑魔法の準備をさせろ。」
「ハッ!」
さあ、これでどう出てくれるかだが。
場所は変わってこちらはシネマ軍の一番東にある野営地。
二日目の朝である。
「はあ、昨日はなんかあんまり攻めれなかったな。」
男が言う。
「攻めたくても上の命令で攻めれないしな。どうせ今日も攻めれないよ。」
別の男がため息を吐きながら返す。
パラモンドの命令では、相手が攻めてくるまでは攻撃をしてはいけない。
このことに不満を持つ兵士も多いのだ。
瞬間、風が吹いた。
同時に何枚かの紙が転がってくる。
「…ん?なんだこれは。」
男は飛んできた紙の一つをパラっと広げて、中の文面を見る。
『お前たちは、敵を目前に攻撃すらもできない腰抜けか?』
男の顔はすぐさま真っ赤に染まり、紙を投げつけた。
「なんだと小癪な!」
他にも紙を拾った何人かが一様に怒りをあらわにしている。
その文言はその辺りの兵を触発し、それはシネマ国の1グループのリーダーまで伝わる。
リーダーはその文面をみると、やはり怒り、
「おそらくパラモンド様は攻めることを許してくれないだろう。しかし、この怒りを抑えることは出来まい!単独行動に出るぞ!」
地の有利はこちらにあるという自負が彼らを動かした。
しかし、それは戦場で一番重要な集団行動の原則を壊す。
それがシネマ国の戦況を一気に悪くしたのだった。
「ほ、本当に言った通りに…。」
「ほほう、アカマル。俺を疑ってたのか?」
「いや、そういうわけでは…。しかし、見事ですね。」
そう、作戦は成功した。
緑魔法の集団魔法で相手を煽る手紙を飛ばし、送り届ける。
おそらくその一帯だけ、単独行動に出るだろう。
そして、実際シネマ軍の100人ほどの集団がこちらの陣地に襲いかかってきたのである。
しかし、罠を避けながら進んでいったので、進軍スピードは遅い。
何人かは罠に引っかかっていた。
そしてなんとかクロノオ軍に辿り着いた後も、兵はただただ突進してくるのみ。
ユーバの指揮でその兵たちを包囲し、一気に殲滅することに成功した。
「ユーバの指揮能力にも感謝だな。」
俺はそう零す。
というのも、敵兵が突進してきたと同時に、部隊を後退させてうまく側面をつくことに成功したのは全てユーバの日頃の訓練のおかげである
もしやユーバはなかなかの腕前なのかもしれない。
うんうん、成長したな、ユーバ。
と思ってユーバの方を見ていると…
「電頼崩御!電頼崩御!」
雷が敵兵にどんどん落ちていっている。
おそらく『電撃の加護』を使っているのだろうが、あいつ指揮にしかその加護を使わないとか言ってなかったか?
包囲殲滅という作戦が全く無意味だというふうに、どんどん雷が打ち込まれる。
というか、どんどん敵兵がかわいそうになるほど死んでるんですけど…。
当のユーバはというと…。
「どうですか俺の技。イチコロですよ!」
と、嬉しそうに報告してきた。
まあ、強力なのはそうなんだけどさ…。
君、一応歩兵隊長だよ!?
そんな突っ走ってて良いの?
「あのな、そういうのはやめとけよ。」
「えーなんでですか?」
まあ、なんでですかって言われれば答えづらいけど。
…仕方ない。
誤魔化すとするか。
「ほら、カッコいい技は最後まで取っといたほうがいいだろう。」
「あっ!確かにそうですね。じゃあ今度は強い敵が出てきたときに打ちまくろうと思います!」
忠告したつもりが、また要らぬ方向にユーバを走らせてしまったようだ。
ユーバは終始ニコニコしてるし。
やっぱ戦闘狂なのか、こいつは。
ユーバの将来を考え、少し俺は鬱になったのだった。
まあ、こちらの死者を出さずにうまく抑えることができたのはユーバのおかげだ。
感謝するとしよう。
死者が出ないことにほっとしている自分がいるということにまだ俺は気づいていない。
「バカな!ありえない!」
パラモンドは憤慨していた。
兵の一部が勝手に暴走して先走ってしまうのは理解できた。
長い間攻められないと鬱憤がたまってしまうのは仕方ない。
しかし、まずクロノオ軍の動きだ。
熟練度は前とは異なる、いや、異なると一言で表せるようなものではない。
兵を細かく動かしているのだ。
攻めてきた敵を小さく囲い込むなど、相当熟練度の高い兵士でないとできない。
それに指揮官もそれほど優秀なことだ。
どうやら歩兵隊を指揮しているのはまだ幼い少年、ヒムラではなく、金色の髪を纏わせた少年だ。
見た目ではただの元気な少年なのだが、ずっと不敵な笑みを浮かべているのでなんだか不気味なのだ。
しかも、その少年が使ったであろうあの雷の技。
あれはヤバい。
明らかに魔法の類ではないことはわかった。
まさか加護!?それもネームド!?と考えてみるが、やはり理解できない。
今にも大きな雷が兵を何名か殺している。
あんな化け物みたいな人材をクロノオは所持していたのか!?
パラモンドが動揺していると、それが伝わったのかカスタル王も恐る恐る聞いてくる。
「お、おいパラモンド。これはまずい状況なんじゃないか?」
パラモンドは一旦深呼吸すると、涼しげな顔で、
「いえ、心配に及びません。王よ、やられたのはたった100人ほどの兵。全体に比べれば微々たるものです。」
「あ、ああ。そうだなパラモンド。我らは勝てるだろうな。」
カスタル王はさも落ち着きを取り戻したかのように言うが、内心ではビクビク怯えているはずだ。
臆病な王を安心させるのが俺の役目、そう考えたパラモンドは作戦を変更する。
「総員、聞けい!我らは攻撃を開始する。圧倒的な兵の差で相手を押し込め!」
「「「うおー!」」」
出撃命令が出た兵士たちは一斉に雄叫びを上げる。
パラモンドはどさっと椅子に腰を下ろすと、前を向いて
「小癪な小僧め!ここで終わらしてくれるわい!」
クロノオ軍を睨むのだった。