一章 第十七話 出陣の狼煙
軍はクロノオ広場に集められている。
そう、戦争だ。
いつもの戦争前の集会では、兵を元気付けるために様々な催しが行われるが、今回はそれがない。
なぜなら、今回の戦争は領土奪還戦争、つまりは国民の悲願が詰まった戦争なのである。
催し物をやっている場合ではないのだ。
兵たちの目は真剣そのもの。
俺はその期待の目線に応えるべく、壇上に立って言う。
「諸君、前回のシネマ戦で味わった屈辱を舐めさせる時が来た。全力で戦え!」
そう言って俺はアカマルに目配せする。
アカマルはそれをみて頷くと、『扇動の加護』を発動させた。
「「「うおーーー!」」」
兵たちが一斉に叫ぶ。
うん、少しズルかったかもしれない。
でも、兵の士気をあげる時、『扇動の加護』ほど便利なものはない
アカマルには頑張ってもらわないといけないのだ。
「では、出陣だ!」
「「「うおーー!」」」
兵が一斉に叫び声をあげる。
そうして、騎馬隊長ドルトバ率いる騎馬隊が先頭を行き、真ん中に歩兵隊長ユーバ率いる歩兵隊、最後に魔導隊長テルル率いる魔導隊が行く、と言うふうに列が組まれる。
そして最後尾に、俺、アカマル、メカル、ロイ、レイが続く。
ちなみにユソリナは軍事棟でお留守番だ。
「では総員、進軍開始!」
アカマルが叫ぶと、騎馬隊をはじめとしてどんどんクロノオ広場を出ていく。
軍は市街地を通り、関所を出ると、なだらかな草原を進んでいく。
王都に来てからあまり見る機会はなかったが、いつ見てもここらへんの景色は異世界って感じだ。
草原、後ろには山脈がそびえていて、奥の方では火山が噴火している。
ちなみにあの火山はいつ見ても噴火しているのだが、どうしてだろうか。
今度調べてみるか。
進軍を続け、シネマ国との国境まで進んだ。
その頃にはもう、夕日が沈んでいた。
「よし、ここらへんで今日は寝泊りしよう。万一のことを考えて歩兵隊は1グループづつ見張りにつくように。」
「「「はい!」」」
俺が指示する。
そこからはアカマルやユーバが見張りの順番の決定やテントの設営の指示をし、ドルトバたち騎馬隊は馬用の寝床を用意する。
そして、魔導隊はテントの設営を手伝ったり、疲れた人を青魔法で癒すなどしていた。
そして、俺がいるところにはテルルが来ていた。
「で、前々から言っていたあれやるの?」
「ああ、やるよ。」
テルルの質問に答える。
「大丈夫だよ。ロイとレイもついて行くし。」
「「はい、テルル殿を全力でお守りいたします。」」
そう、レイロイが声を合わせて言うが、テルルが危惧していたのはそんなことではないようだ。
「あんた、ほんと性格悪いね。」
「まあ、相手の嫌がることをするのが戦争だからさ。」
そう、どれだけ相手の裏を掻くかが重要だ。
「まあただ、確実に勝てそうなのは賛成するわ。」
テルルが初めて俺に賛成してくれた。
テルルも変わりつつあるのだ。
まあ、この戦争が終わったらみんなで遊ぶのもいいかもしれない。
さて、パラモンドがどう出るか。
俺もその点について最終確認をしなきゃいけない。
「では、軍部のみんなを集めてくれ。」
「「「ハッ!」」」
みんなが返事をしてくれるが、俺が驚いたのはテルルも返事をしていたところだ。
驚いた目でテルルを見ると、
「なんか悪い!?」
「いや、なんでもないです。」
と脅された。
テルルは咳払いして続ける。
「…まあ、あんたの作戦を見て、本当に軍師なんだなって思ったのよ。」
「うん、そうか…ってか今まで疑ってたの!?」
衝撃の事実が判明するが、テルルは悪びれる風もなく、
「だって、子供だし。」
と、ひどい言い草だ。
心は大人なんだがな
というか、俺が異世界から来たことって言ったほうがいいのかな。
そもそも、異世界から来た人って俺以外にいるのか?
疑問は絶えないし疑念も多くある。
しかし、今はテルルが俺を認めてくれたことを喜ぶべきだろう。
「まあいいや。これからよろしくな。」
「はい、テルル様。」
そう言ったテルルは、なんだか少し不満げだったが、とても嬉しそうだった。
俺とテルルが話している間に、メカルとロイレイがみんなを呼んでくれた。
俺はみんなに言う。
「さて、おそらく明日にはシネマの領土に入り、シネマ軍と対峙することになる。」
「そのようですね。そうなるとおそらく決戦の地はブライ平原。」
アカマルが指摘する。
ブライ平原とは、ここからシネマ国の首都を繋ぐ道にあるただ一つの平原のことだ。
シネマ国は山々に囲われていて、軍が移動できる道がそもそも少ない。
そしてその山々の中心にあるのがシネマ国の首都カスタルだ。
つまりは天然の要塞。
しかし、おそらくパラモンドはそこで籠城戦を行うことはないだろう。
なぜなら相手はこちらを蹂躙する気でいるのだから。
となると平原での合戦が望ましい。
一番望ましいのがシネマ国とクロノオを結ぶ道の途中にあるブライ平原ということだ。
「俺たちはこのブライ平原で戦うことになる。今回の戦、ここでの勝利が目標だと思っているものも多いだろう。」
「…えっ、そうではないのですか?」
そうアカマルが戸惑う。
俺はみんなをしっかり見据えて言い放ったのだ。
「今回の戦、目的は時間稼ぎだ。決して抜け駆けは許さない。」
「なんでかお聞きしても?」
ユーバが不安げな顔で俺を見る。
まあ、不審に思うのもわかる。
こんなにも士気が高まっている中で、勝たなくても良いと言われたのだから。
「今回の戦、1.5倍の軍勢をあちらは抱えている。俺の指揮をもってすれば、おそらく勝てるだろう。」
「なら…。」
「しかし、それはこちらにも多大な被害を被ることとなる。戦死者がたくさん出るのは避けたい。そのために、今回は時間稼ぎだ。」
「…時間稼ぎをして、どうするのですか?」
アカマルが聞いてくる。
「そこは、ロイとレイとテルルがやってくれる。」
そう言って俺は3人を見る。
3人はそれぞれ頼もしく頷いてくれた。
「彼女らにはある作戦を頼んでいる。情報の漏洩を避けるために俺たちの間でしか伝えていないが、彼女らの作戦が終了し次第、殲滅戦に移行する。」
「「「はい!」」」
全員が一斉に返事をして、作業の続きをする。
明日くるべく決戦に向けて。
よく晴れた日だ。
パラモンドはブライ平原に2日前についてから、クロノオ軍がいつ来るかと待ち構えていたのだ。
「パラモンドよ。今回の戦は勝てるのか?」
カスタル王はパラモンドに聞く。
その態度から、横柄な態度を装っているが、本当は勝つかどうか不安がっているというのが理解できた。
以外と小心者なのだ、この王は。
「もちろんでございます。兵力の差は1.5倍。負けるはずがありません。」
「ああ、しかし奴らの目的は首都の襲撃なのだろう。」
確かにヒムラは首都を襲撃すると言った。
しかし、そのようなことが可能だとも思えない。
まず、正面からではシネマに押し返される。
別の道を行こうにしても、軍が通れるほど大きな道は他にない。
裏をかいて首都を叩くことすらできないのだ。
「おそらくあの時のヒムラの発言はこちらの戦力分散を見越してのことだったのでしょう。」
首都を狙うと思わせることで、1万5千の兵の何人かを首都に残すと見越したのだろう。
戦力分散による各個撃破を狙ったようだが甘い。
そんなことはこのパラモンドが気付かないはずがないのだ。
「クロノオはシネマを舐めている。その報いを今受けてもらおうぞ!」
パラモンドはそう静かに呟くと、作戦の練り直しを行なったのだった。
そうして、シネマとクロノオ、パラモンドとヒムラの戦いは幕を開けようとしていた。
第一章の書き留めが終わりました!
おそらくこのままいけば三月二十四日に第一章投稿し終えます。
第二章どうしようか悩んでるのですが、戦争バチバチな感じか戦争なしのほのぼの章のどっちがいいでしょうか。
感想などに書いていただけると嬉しいです。
まあ、今聞くか!?って話なんですけどね