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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第三章 嫉妬と絶望
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三章 十四話 ファントム観光

ヨルデモンド方面から南下すると、ファントムがある。


 俺はヨルデモンド国境沿いから南に行って、ファントムの中心部に足を運んだのだった。

 時間にしておよそ30分。

 なんとも便利な加護である。

 

 ファントムでは、アカマルとレイ、また他の部門のメンバーたちが共同で政治体制を立て直している。

 とりあえずそこら辺の事情を視察しようと思う。

 


 

 というわけで始まりました。

 ファントム観光です。


 皆さんはファントムと聞いてどういうイメージをお持ちでしょうか。

 何やらいかがわしい噂や、怪しい軍事行動、果てには異常者による独裁政治など、なかなかに濃厚な香りがしていますよね。

 現代のあの国を思い出す人もいるのではないかと思います。

 

 でも、実際に現地に赴いてみるとなかなかにこれが面白い。


 まず、ここはファントムの中心部に近い村です。

 ほら、よくみてください。

 たしかにクロノオの村よりかは少し貧しそうですが、それでも皆さん頑張って農作業やその他の作業に励んでいます。

 

 農作物も、なかなかクロノオでは取れない珍しいものばかり、、、とはいきませんが、やはり少し南に位置するからでしょう、あまり見ない農作物が並んでいます。


 例えばこれはヤムイモというらしいです。

 こじんまりした芋ですが、中にはそこそこの糖分が含まれていて、煮て食べるだけでもかなり美味しい。

 っていうか、糖分が含まれているものって南の方だと取れるのか…。

 砂糖が塩ほど出回らないのはそれが理由かな?

 酒も割と糖分を感じられるし。


 …

 いやいや、あれは糖分だけを取りだしたのに意味があるから、やはり工夫次第ではクロノオの貯蓄金を増やしてくれるだろう。


 まあいい。


 そして、村人の方に焦点を当ててみましょう。

 独裁国家ということで、みんな死んだ顔をしているイメージですが、そうでもなく、むしろ生き生きとすらしています。

 やはり、人間は自分の目の前にある幸せに順応してその中で喜びを見つけていくもの。

 そういう生き物ですもの。


 おっと、人間ってなんだよ、ですか?

 失礼失礼、天人でしたねこっちでは。


 村人Aに、最近の政治体制を聞いてみましょう。


「政治んのこたあわからねえけど、税金が減ったから嬉しいなオラは。」


 と、まあこんなもんでしょう。

 税金が減ったのはもちろんペレストレインによる統治が終わったから。

 これからはクロノオの時代です。

 それが一村人にもわかっていただけたのは嬉しい。


 では、中心部にいきましょうか。



 ファントムには、それはそれは大きな城があった。

 山の上にある城で、高さは今まで見たどの城も圧倒している

 真っ黒に装飾され、所々剥げてはいるが、それにしても大きい。

 なかなかに威厳がある。


 ヨルデモンドは城って感じではなかったからなあ。

 クロノオは少し小さめの城があるだけだし。

 この世界に来て割と初めて本格的な城を見た気がする。


 まあなにはともあれ、城に入る前に観光でもしていこう。


 城下町は、かなり閑散としていた。

 人通りはほとんどなく、ただただ家が連なっている。

 というか、店の類もほとんどない。

 なかなか辛気臭い場所である。


 特に見どころもなかった。


 なんなんだろうか。

 

 試しにある家をたずねてみる。

 ガラガラガラと重い扉を開けて、「ごめんくださーい。」と叫んでみる。

 聴こえてない、ってことはないはずだ。

 

 でも、誰も返事をしない。


 「留守か?」


 留守か

 なら仕方ない。


 でも、何故か嫌な予感がして、他の家も訪ねてみる。

 ガラガラガラ、いない。

 ガラガラガラ、いない。

 ガラガラ

 ガラガラガラ

 いない

 いない


 あれ、おかしいなあ

 少し考えてみる。

 

 何故ここに人がいないのだろうか。


 一つはアカマルたちが何かした可能性。

 それなら、悪いことにはなってないだろう。


 一つは、ここの居住者たちが一斉にどっかに移動した可能性。

 クロノオの支配に怯えて集団での抵抗。

 流石に考えすぎか。


 一つは、もともと人がいない可能性。 

 こんだけ家があるのに?


 と悩んでいると、前から人が歩いてきた。

 なかなかみすぼらしい服に身を包んでいる。

 40代ほどの痩せこけたおじさんだった。

 だが、足取りはなかなか安定しているというか、振る舞いに隙がない。

 かなり強そうだ。

 

 その人に話しかけようと近づくと、あることに気がついた。

 そいつは、片腕がないのだ。

 本来そいつの右にぶら下がっているはずの片腕がない。

 ギョッとしながらも、話しかける。


「あの…すみませ」


「…小僧、なんでここにいるんだ。」


 ドスのきいた声だった。

 思わずびくってなると、それを見た男は少し決まり悪そうにして


「…ここは立ち入り禁止区域だ。早く城に戻れ。」


「立ち入り禁止?」


「…聞いてないのか?…。」


 男からブワッと殺気が出た。

 なんでなんで!?


「…クロノオのやつらがここには近寄るなと、全市民に通達してただろう。」


 どうやらアカマルたちが仕向けたことらしい。

 ここら辺を立ち入り禁止にしたと。

 なんのためだろうか。


 もう一度この男を見てみる。

 こいつは、どういう立場のやつだろうか。

 立ち入り禁止区域に入っているっていうのなら、こいつも入っているのだ。

 何故だろうか。


 もしかしたら、こいつはアカマルたちの命令でここの監視についているのかもしれない。

 立ち入り禁止区域に入ってしまった子供なんかを追い出すのが役割。


 そう考えると、こいつのなかなかに油断ならない強者の振る舞いにも、軍人だという理由で納得できる。

 なら、こいつに案内してもらうのが手っ取り早いだろう。


「…なるほど、じゃあアカマルのところに案内してくれ。」


「ぁあ…、小僧、あんまりクロノオ好きじゃないからってあのアカマル殿を呼び捨てにするのは」


「あ、いや違うって、ほら、服見ればわかるだろ?」


 そう言って軍服をほれほれと見せびらかす。

 男は少しそれを訝しげに見て、ハタと閃いた顔をしていた。

 具体的には、軍服の紋章を見て、だ。


「…もしかして…、ヒムラ殿であられますか…?」


「ああそうだが。」


「………っ、はああ、あのですね、それを最初に言ってくださいよ。手間が省けたのに…。」


 男はめちゃくちゃ盛大なため息をついた後、何故か俺に向かって愚痴を言ってくる。

 まあ確かに最初に言った方が良かったかもだけど、そんな落ち込む?


「子供なのになかなか油断ならない立ち振る舞いをしているし、刀もつけているので、どこかの刺客かと思いましたよ…。警戒してた分を返してくださいって。」


 ああそういうことか。

 まあそれはなんだ。

 気を使わせたな。


 男は気怠げな表情をこちらに向けると…多分微笑んだのだろう、口角を上げてこう名乗った。


「俺はオール・カルマンです。今は片腕ないですが、これからよろしくお願いします。」


 なかなかに礼儀正しいやつだった。

 

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