三章 第十三話 困惑
久々です
とりあえず三人を落ち着かせて、仕事に戻らせた。
スゥエースに負けたロイは表面的にはなんともなさそうに振る舞っていたが、スゥエースを睨む目が完全に怒っていた。
…あれは不味いぞ。
…スゥエースの骨は拾ってあげよう。
とまあ、とりあえずスゥエースと2人きりにしてもらった。
とりあえず現状を聞くためだ。
「隠密はどうだ?、スウェース」
「うーん」
俺の些細な質問に、スウェースは少しだけ悩む素振りを見せた。
やがて、パッと顔を上げると
「仕事内容はつまんないっすね。」
「まあ、…そうだろうな。」
ずっと国境を転々と見回る仕事は、正直あんまり面白いものでもないと思う。
スウェースにとって、どちらかというと退屈なもののはずだ。
「でも、あの2人は、いいですね。気に入りましたよ。」
「あー、ロイとレイのことね。」
「ロイちゃんとレイちゃんも、子供とは思えないなあ。あんなに大人びているなんてね。それに2人とも遊び相手になるし、楽しいって感じ。」
たしかに、ロイは苦戦はしていたものの、スゥエースに策略を立てさせるくらいには強い。
というか、ロイの加護がスゥエース対策にかなりいいのだ。
スゥエースにとってはさぞかしやりづらいだろう。
そして、レイはもちろんスゥエースとかなりいい感じに戦えるらしい。
レイの戦闘技術は目を見張るものがあるしな。
流石に俺の見立てでは、スゥエースは負けないだろうけど。
「…でも、ロイちゃんのあの加護は結構面白かったというか、自分の新たなスタイルを見つけられそうだった。」
「ほう?つまり?」
「僕っちは基本的に風の暴力で有利な戦場に持ち込んで戦ってたんすよ。だからなのか、基本的に頭を使って戦うことを学ぶことがなくて。でも、ロイちゃんは全部影に隠れちゃうから、なんとか影から追い出す方法を考えるようになって…そしたら少し戦い方が変わってきたってわけですよ。」
「頭を使うようになった、と。」
「そういうこと〜。」
そう言って、爽やかに笑うスゥエース。
まあとりあえずは安心した
スゥエースが楽しめているなら、スゥエースがクロノオから離れて、また盗賊団をすることにはならなそうだしな。
それに、なんだかんだとスゥエースはかなり強いのだ。
前回洞窟内で俺が戦った時は、室内で俺の加護の力を十分に発揮できなかったとはいえ、かなり追い詰められたしな。
まあ殺す気で立ち向かえば「次元一閃」で倒せそうではあるがな。
とまあ、スゥエースが強いというのは本当で、彼の力があれば軍事力がかなり上がるだろう。
単騎でAレベル。
俺と同じレベル帯だろう。
俺は人を殺すのに躊躇いがあるので、同じくらいの強さで人を殺せてるような奴は欲しい。
スゥエースはそういう面ではかなり優良物件である。
彼にはクロノオを離れて欲しくない。
…と、不意に気になったので尋ねてみる。
「その、体から風を出すのは、なんかの加護なのか?」
俺のその質問に、スゥエースは少し目をパチクリさせると
「いや、これはただのスキルっすよ。」
「え!?そうなのか?」
あれほど強力なのだから、加護なのかと思った。
スゥエースはかすかに笑うと
「そんな大層な代物じゃないですって。でも、かなり鍛錬をしたんで、かなり強力なスキルではありますけどね。」
「鍛錬であそこまでいくのか…。」
あの、目を瞑りたくなるような暴風。
そして、彼は前戦った時に、風を巻きつけて俺を囲い込む技も使っていたはずだ。
かなりの熟練度とエネルギーがあの技からうかがえた。
あれがただのスキルとは、にわかには信じ難い。
でも、嘘をついている風でもないしなあ。
スゥエースは少し遠くを見るような目で
「昔は色々と厳しい訓練をされましたからね。僕っちみたいに才能がある人には厳しかったからっすね。あの国は…」
「あの国…?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
スゥエースはそう言って首を傾げる。
あの国とは、なんだろうか?
話の流れからして、スゥエースが元いた国であるのはわかる。
…そういえばスゥエースの昔の話とか聞いてなかったな。
彼がどうして各地を転々とする剣士をやっているのか。
その強さはどこで身についたものなのか
スゥエースはニコッと笑って
「僕っちが元々いたのは、今は大国と呼ばれる、ヨルデモンドなんすよー。」
「………………は?」
あくまで飄々と、言ってのけたのだった。
「僕っちって、もともとヨルデモンドの「白竜の牙」に所属してて、あそこの四将の1人だったんすよ。」
「マジかよ…。」
四将とは、確か「白竜の牙」の中では最も強い4人みたいな扱いだった気がする。
今は確かクラリスがそのうちの1人に数えられていたはずだ。
そこにかつていたという。
たしかにスゥエースが四将の1人に数えられる実力があるのは事実だ。
じゃあ
「…なんでそこまでの地位を手に入れて、流れ者の剣士をやることになったんだよ
。」
「うーん…。」
スゥエースは少しだけ悩むそぶりを見せた。
なんだろうか。
あまり言いにくいことなのだろうか。
いう必要もないのでそんなに無理しなくてもいいのだが…
「そういえば、軍部にはメカルさんっていましたよね。」
「え、ああいるが…。それがどうした?」
いきなり軍部所属の老人の話をしだすスゥエース
いきなりどうしたのだろうか。
先ほどから返答が要領を得ないし…。
メカルのことを彼に紹介したことはない。
軍部に所属している有名人ということで、メカルはそこそこ有名だ。
スゥエースの口からその名前が出てくること自体は違和感はない。
ただ、メカルさんと名前を呼ぶスゥエースが少し意味深な表情をしていたのだ。
スゥエースはそのまま少し考えて
「いや、やっぱなんでもないっす!」
と元気よくいうのだった。
「え、…でも。」
「…いやいやいいってことですよ。今のはなかったことにしてくださいって。」
そのままにこやかにスゥエースは立ち上がった。
なんか解せない。
まあでも、そこをズカズカ踏み込んで問いただすのもなんか違う気がして、俺はそのままスゥエースに仕事に戻るよう命じたのだった。